初夏の花火

植え替えの作業をしながら、
「そう言えば、昨年はもうセミが鳴いていたぞ。」
という話題になった。ゴールデンウイークには既に初鳴きを耳にしていたように思う。ところが今年はタイミングの関係もあるのか、一声も聞いていない。

あまり早く暑くなるのもうんざりとは言え、いつまでも長袖が必要な気温というのもまた・・・やれやれ、人間はなんと勝手なのだろう。

夏を心待ちにする気持ちに応えてくれたのか、ビニールハウスの中で花火が上がった。

モロッコタイム

モロッコタイムである。タイムの中でもちょっと変わった雰囲気の持ち主だ。花が妙に長くて目立つ。性質はややつかみ所が無くて、妙に調子の悪い年や、今年のように元気全開になることもある。とはいえ、油断していると花の後で一気に枯れたりすることもあって気が抜けない種類でもある。

ピンク一色のみだが、原種なので案外原産地に行けば、白や濃い色も見つかるかも知れない。そうそう、以前、お客様のところの超乾燥花壇では赤に近いピンク色で咲いた。写真が残っていないのが残念だが、本来はそちらの色なのかも知れない。ピンク、白、赤と揃えば、かなり見ごたえの有る花火になりそうだ。

嘴だらけ

ニオイゼラニウムの花が終る頃になると、圃場は嘴だらけになる。ちょうどゼラニウムの花の後、種子の莢が鳥の嘴のようになるのだ。

ニオイゼラニウム

諸説あるようだが、ゼラニウムの学名、Pelargoniumも、Pelargos(コウノトリ・ギリシア語)の嘴からきているとされる。

ニオイゼラニウム

種子が熟してくると、莢が割れて元の部分から徐々に種子が顔を出す。

ニオイゼラニウム

種子も雰囲気が鳥の羽毛を思わせる感じである。他にも鳥とのつながりが多いようで、園芸種の名前にもPheasant’s foot(キジの足)、Peacock(孔雀)など付いていたりする。

この種子を蒔くとそこそこ発芽する。圃場にはたくさんの種類のゼラニウムが育っているので、ちょっと変わった花が一つや二つ出てきそうなのだが、非常にありきたりというか、あまり特徴の無い、強いて表現するならぼやっとした感じのゼラニウムが出てくる場合がほとんどだ。

最初の頃はこまめに種子を採っていたりもしたが、今はさっぱりである。

いたるところに嘴が見えるここしばらく、先端恐怖症の人は近づかない方が良いかも知れない。

五月のマドンナ

ここ数年、4月の終わりには咲きはじめていた鉢植えのマドンナリリーが今年は5月半ばになってようやく開花するようになった。毎年一度だけ楽しめる香りはまた格別だ。

マドンナリリー

去年までは4月に夏のような暑さが何度かあったので一気に花を咲かせる体勢になったのだろう。今年は比較的寒かったのか、花茎は伸ばして、蕾までは付けても一向に開花する素振りを見せなかった。このようなことは初めてだったので少し気をもんだのも確かである。

この株、育てはじめてもう7〜8年にはなるだろうか。2年後から開花しはじめて、以来毎年花を楽しんでいる。松江だと、地植えもできないわけではない。しかし、地植えして数年経つと一、二度花は楽しめるのだが、夏に溶けて消えてしまいやすい。よほど風通しと水はけの良い場所を選ぶ必要がありそうだ。

その点、鉢植えなら誠に簡単である。花が終ると花茎ごと剪定してやればよい、休眠期へ移行していき、葉もなくなる。(松江の場合)特に涼しい場所に移すことも無い。他のハーブと同様の扱いである。

一つポイントは、夏、あまり水をやり過ぎないことかも知れない。うちの場合、枯れた鉢かと思って、スタッフが時々水やりを怠るのが丁度よいようだ。そんな状態を心配しつつも秋になるとしっかり新芽が顔を出す。

できれば大きい鉢が良い。株が大きくなってくると8号鉢では開花時にバランスが悪くなる。10号鉢ぐらいの方が水やりの間隔も延ばせるのでそれが良いのかも知れない。重たくて大変だけど。

5月27日追記

福岡県のO様からメッセージとともにマドンナリリーの写真を送っていただきました。二年越しで開花したとのことです。メッセージ本文はこちらに掲載してあります。

福岡県 O様宅のマドンナリリー
福岡県 O様宅のマドンナリリー

やはり鉢植えでの栽培とのことで、夏越しには苦労していらっしゃるようですが、軒下に入れて雨対策などをしながら開花まで育てられた御自慢の一株です。当店の株より元気そうです。きっと香りも素晴らしいことでしょう。

暖地での栽培には少し困難が伴いますが、福岡県でこのように良い状態でお育てなのは見事だと思います。

許可を頂き、掲載させていただきました。有難うございました。

ミセスキングスリーはお年?

先日誕生日を迎え、大台に入った。もうずいぶん長く生きた気がする。なんて言っていると「五十が折り返し」と豪語するスタッフに笑われそうだ。

ニオイゼラニウムが次々と咲き続けている。松江では簡単な防寒で(場所によってはしなくても)冬を越すし、病害虫ともほとんど無縁なので気楽に育てられる。花の時期もいつの間にか咲きはじめてくるという感じである。

アプリコットゼラニウム

今日咲いていたアプリコットゼラニウムは結構好きな花である。花びらの縁の周りが白っぽく、柔らかい感じで、花の姿も可愛らしい。

ミセスキングスリーゼラニウム

一方、ミセスキングスリーゼラニウムは花つきも良く、大きめの花で見事だが、なんとも色がどぎつい。コントラスト強すぎである。今、画面で見ていても目がチカチカしてくる。

目が老化してくると、コントラストが強い色でないと満足しにくくなってくるという。パステルカラーが楽しめるのは目の年齢が若いうちである。店頭でお客様の花の好みを聞くとはっきりわかる。まだ、この花の色がきつく感じられるのは目が若い証拠だろうか。

ゼラニウムに限らず、花には女性の名前が付けられたものが多い。作出した当人の名前だったり、その女性に捧げられて名前が付けられるようだ。ミセス・キングスリーは作出者なのか、作出者の奥様なのか知らないけれど、この色が気に入ったのなら結構お年だったのかも知れない。

グルメでグルマン

圃場の事務机にペットボトルを半分に切ったようなものが置いてあった。何か葉っぱのようなものが入っている。

スタッフに、
「なにこれ?」
と訪ねたところ、
「アゲハの幼虫がついとったから、持って帰ろうと思って」
とのこと。覗いて見ると2匹の幼虫がいた。種類は分からない。昨年も同じように捕まえ、子供さんが通う幼稚園へ持っていって、羽化までさせたという。

アゲハの幼虫

「どれについとったの?」
と聞けば、
「あの、去年もついとったやつ、大きなポリポットの、そこのへんの。」

大事なDictamnus albusだ・・・。
何年も前から育てはじめたのに、こいつらのせいで一向に大きくならない。油断しているこっちも悪いのではあるが、毎年執拗に狙ってくる。そのため、花が咲く素振りさえ見せてもらえない。

ペットボトルの下のほうに大きめな別の葉も入っていた。
「この下の葉は?」
と聞けば
「親木のところにある、背の高い、ミカン科の・・・」
ベルガモットである・・・。
もちろんMonardaでなく、本物のベルガモット。ある方に譲ってもらい、大切に育てている株である。こちらはもう実がなることはあきらめているのだが・・・

Dicatamnusにベルガモット。なんて贅沢な!
こんなグルメでグルマンなやつらにいられたのではかなわない。

幼稚園ではユズの葉を与えられるという。それで充分である。
それとも
「やっぱり日本食はうめーなー」
とか言って食べるのだろうか。