育てない理由

園芸の一つの楽しみが、育てにくい種類を試行錯誤して育てることだ。もちろん、当店でも色々な試みをしてうまく育苗できた時の喜びは大きい。

一方で、あまりに難しかったり、無理をしないと育たない種類は、紹介、販売することもためらわれるのも事実だし、そういう理由で育てていない種類もある。

ただ、育てやすいはずなのに、苗のリストになく、お問い合わせをいただく種類もまたいくつかある。

いままでに何度もお問い合わせをいただいたことがあるし、例年特にこれからの季節にまた同じご質問がきそうなので、一度この場でお答えしておこうと思う。

たとえば、

「ロケット(ルッコラ)の苗はありませんか?」

というお問い合わせだ。

ロケットは、ロケットサラダとも呼ばれるように、サラダなどに加えるとゴマの風味がして美味しいし、この頃はベビーリーフとしてスーパーの棚に並んでいることもある。クッキングハーブとしてもかなり昔から紹介されてきたのでハーブの中でも知名度はそれほど低くないと思う。

秋のロケット
秋はじめに直播きしたロケット(ルッコラ)。柔らかくて美味しい葉が伸びてきて食べごろ。

栽培もそれほど難しくないので、どうして扱っていないのかと思われても仕方がない。

苗を育てていない理由は、「苗から育てるのではなく、種子を撒いて育てるのが一番良い」からである。実際、自家用の畑では毎年秋に何度かに分けて種子をまき、真冬を除いて秋遅くまでと、春先から初夏まで結構長く楽しんでいる。

ただ、これを苗で育てようとすると、あまり面白くない。発芽はあっという間だし、すぐに大きくなる。だが、苗のまま長期間キープできず、あっという間に花芽をつけてしまう。一年草なので花が咲き始めると食べる目的の葉は小さく硬くなり、花が咲いたら、はい、おしまい。である。もちろん、たっぷり元肥を与え、水を切らさずにすれば開花までの期間は伸びるし柔らかい葉も育つだろう。その代わり、病害虫の心配も格段に増える。

また、ベビーリーフとして楽しむぐらいなので、大株にして収穫というよりも、小さくて柔らかい葉をどんどん使う方が美味しい。やはり畑でもプランターでも直接種子をまくのに越したことはないという結論に至ったのである。

寒さに強いので、ロゼット状に冬越しして今の季節がっしりとした葉をつけるのだが、モサモサしているし癖が強い。サラダに使うなら、芽が出て少し大きくなった柔らかい葉のほうに軍配をあげたい。

畑のロケット
冬を越したロケット。葉がやや硬い。

しかも、種子は簡単に収穫できるので、一度大きく育てたら、また秋に種子をまいて(寒冷地は春が良いが)繰り返し楽しむことができる。種子も園芸店やホームセンターで見つけやすい。この頃はハーブよりも、野菜やベビーリーフのコーナーにあることも多いようだ。

ロケットの花
例年5月ごろに咲くロケットの花。この後鞘の中に種子ができる

こういったことからも、苗で育てるメリットは、育苗する側にも、購入される側にもあまりない。なので育てていないのだ。

同じく一年草でも、種子が非常にちいさいジャーマンカモミールや、ある程度気温が必要なバジルなどは、お客様の側から見ても苗から育てるメリットが大きい。もちろん、種子が手に入る一年草は、是非種子から育ててみるのをおすすめしたいところだ。特にコリアンダー(パクチー)やディルチャービルボリジなどをおすすめしたい。

ロケットの発芽
冬を越して発芽したロケット。暖かくなると一気に成長するので目が離せない。

ちなみに多年草のワイルドロケットについては(正確には種類的にずいぶん違うが)、苗から育てるメリットもあるし、まだどこでも種子が手に入りやすいというわけではないので、育苗している。一年草のロケット(ルッコラ)に比べると味は若干劣る気はするが、楽しめる期間は長いので、気温が高い地域など、一年草のロケットがとう立ちしやすくて困るという方は試してみる価値があると思う。

さて、春が早かった今年は、自家菜園のロケットもうトウが立ち始めている。諦めきれず、少しでも長く使えるようにとトウを剪定してみたのだが、これから気温がどんどん上がるようなら無駄な抵抗かもしれない。

積雪を待ち望むわけ

昨日午後から雪模様。昨夜はずいぶん積雪があると予報が出ていたのだが、それほどではないだろうと楽観視していた。先日降った雪でこの冬はもう終わりだろうと思っていたこともある。

今朝、思った以上の積雪に驚く。幸い、運転に気をつける必要はあるとはいえ、圃場まで行くのに困るほどではなかった。

ただ、ビニールハウスに積もった雪で中は今日も冷蔵庫状態。作業には差し支えあるものの、年に数回はこれぐらい積もってもらうほうが良い。

ハーブたちもしかるべき寒さを経験することで、春に向けての動きにスイッチが入ると言う意味もあるのだが、もう一つ大事な理由がある。

あまり聞かないことだろうし、同業者にも話すとびっくりされることがあるのだが、ビニールにコケが生えるのだ。それは年々厚くなり、日光の透過率を下げてしまう。更に悪いことに、このコケのおかげで積雪時、雪が滑り落ちにくくなるのだ。実際、それが原因で、大雪の時ビニールハウスを倒壊させてしまったことがある。元々の原因は高い湿度と、近くにたくさんある杉などの花粉が付着してコケの栄養になるようなので、どうしようもないところなのだが。

コケとともにずり落ちる雪
コケとともにずり落ちる雪

ビニールハウスに適度な雪が積って滑り落ちると、コケも一緒に落としてくれるのだ。先日も今日と同じような雪だったので、そこそこコケを落としてくれたと思ったが、今日滑った雪を見るとまだ結構残っていたようで、垢を削ったようにコケが雪に付着していた。

ビニールに付着していたコケ
ビニールに付着していたコケ

この冬はもしかしたら一度も積雪がないかもという覚悟もあったので、2度の積雪でコケが落ちてちょっと安心する。

これ以上降ると枝折れなどの影響もあったりしてそれはそれで問題だが、圃場前のサンタバーバラローズマリーも雪の重さに耐えながら咲いていた。おそらくこれが本当に最後の雪になることだろう。

サンタバーバラローズマリー
サンタバーバラローズマリーはなんともないかのように咲いていた

この冬の苗たち(その3)

前回、前々回と、比較的寒さに強いハーブの仲間の今年の様子を紹介してきた。

今回は、主に寒さに弱い種類について。今年、以前に比べ変化が大きかったのは特にこれらの種類だろう。

寒さに弱い種類ほど、寒さへの備えをする力がないのだろう。耐えられるギリギリの寒さまで平気な顔をしているのに、ある一線を越えるとぱたっと枯れてしまったり、葉が真っ黒になってダメになってしまいやすい。もちろん、それ相応の対策はしているのだが、数年前だったか、マイナス9度になった時はそれでもかなりダメージが大きかった。それが今年は鼻歌交じりで冬を越しているような感じだ。

ローズゼラニウム
ローズゼラニウムも縁が少し赤く色づく程度

ローズゼラニウムをはじめ、ニオイゼラニウムのなかまは、冬にはもっと赤くなることが多いが、せいぜい縁取りぐらい、グリーンが綺麗だ。

ジャスミン
ジャスミン。普段とあまり変わらない姿。少しだけ赤っぽく変化

ジャスミンも青々としている。この辺りでは寒さで枯れることはあまりないのだが、葉が真っ赤になったり、場合によっては落葉するのがいつもの年。

サルビア・ディスコロール
サルビア・ディスコロールの新芽も傷んでいない

サルビア・ディスコロールも秋から冬に花が咲くくせに、寒さでぱたっと枯れやすい種類の一つ。今年は秋終わりのような姿で冬を越している。

ホワイトヘリオトロープ
ホワイトヘリオトロープの苗は花を咲かせていた

ヘリオトロープも葉がかなり残って、一部の株は、花まで咲かせて甘い香りを放っていた。

ヘリオトロープ
油断していて被害にあったヘリオトロープ

とはいえ、先日の雪の日、最低気温がマイナス4度まで下がったが、あまり防寒を強くしていない所に置いてあった株はこのとき茶色くなってしまった。この後黒くなってしまうのだろう。

また、もともと寒さに強い種類でも、例年よりものびのびと育っているものも結構ある。

フィバーフュー
青々としたフィバーフュー

キク科のフィバーフューなどは普段の年はもっと縮こまっているのだが、今年は青々。カモミールの仲間やジョチュウギクも同様である。

ローマンカモミール
ローマンカモミールもいつもの年よりも葉を広げている
イタリアンパセリ
昨年の大きな葉は落ちてしまったが、元気なイタリアンパセリ

涼しいのが好きなセリ科の仲間は当然元気。イタリアンパセリもまだ葉を残しているし、コリアンダーも少し葉は赤くなったが大きなダメージはない様子。

コリアンダー
コリアンダー

ディルも普段の年は茎も葉も赤っぽくというか、グレーがかったブラウンのような色になるのだが、今年はまだグリーンが残っている。

苗ではないのだが、この冬例年と大きく違ったことの一つが、店頭の軒下にある鉢植えのナスタチウム。普段の年ならば夏越しした株が秋半ばから咲き出して、クリスマスぐらいまでカラフルな花を楽しませてくれる。そしてクリスマス頃に寒さで溶けるようになくなってしまうのだが、今年は依然として咲き続けている。

ナスタチウム
鉢植えで気をつけていたとはいえ、この時期まで花を咲かせているナスタチウム

もちろん、先日の雪の時には店内に入れたので大きなダメージはなく、また外に出している。このまま強い風や霜に当てなければ春まで持つのでは・・・。という感じだ。案外気を抜いた春先にダメにしてしまうという可能性も強いのだが。

この冬の苗たち(その2)

2月6日、昨夜から今朝にかけてようやく雪らしい雪が降る。

道路の雪は昼までにはずいぶん溶けたが、昼頃を過ぎてもビニールハウスの雪が落ちずに冷蔵庫状態だった。

雪のビニールハウス
屋根に雪が積もると冷蔵庫のように冷えて作業にならない

前回に引き続き、冬の苗たちの紹介。春や夏の様子とはずいぶん違っているので、見慣れていないと驚かれるかもしれないが。

ローズマリーは、寒さに結構強い種類からそれほどでもない種類まであるのだが、寒さにあまり強くない種類の方が青々として、寒さに強い種類はかえって冬の初め頃から赤くなったり、葉がくすんだりし始める。

トスカナブルーローズマリーはまだグリーンが残る

トスカナブルーローズマリーや、プロストレイトローズマリーは、冬の終わりぐらいまでグリーンが残る方なのだが、寒さに強いアープローズマリーやセイレムローズマリーなどはさっさと葉緑素を減らしはじめることが多い。

セイレムローズマリー
セイレムローズマリーは早めに葉が赤っぽくなる

見た目には、調子が悪くなってきたと思ってしまう。

タイムの仲間は多くの種類が葉の色が褪せる。一方で斑入りの種類は鮮やかさを増す。夏の間はなかなか色が出ないドーンバレータイムやゴールデンクイーンタイムなども寒くなると黄色が鮮やかになりようやく見応えが出てくる。

ゴールデンクイーンタイム

ただ、いちばん綺麗になるのはやはり春の初め頃だ。

シルバータイム

シルバーバイムは3色ぽくなってこれもまたいい感じ。

赤花クリーピングタイム

赤花クリーピングタイムは葉が赤っぽくなる。古い葉は下の方から落ち始めている。

また、秋に古い枝を剪定したタイムの中には早々と新芽を伸ばすものもあったりする。

レモンタイム
レモンタイム

オレガノは種類によって様々だが、多くは株元に葉をぎゅっと縮こませて冬を越えようとしている。

オレガノ
オレガノは冬にかなり葉が赤くなる

普通のオレガノは葉がかなり赤くなるし、オレガノ・ミクロフィラなどは、赤黒っぽく変化する。

ラベンダーは、落葉することはないが、下の方の古い葉を落とそうとするのか、硬く枯れてくる。

また、今年はそれほどでもないが、葉が赤っぽくなったり、逆にシルバーに近い色になってくる。これが本来の姿だが、見慣れないと枯れてしまったと思うかもしれない。

斑入りドワーフマートルも葉が真っ赤になる。ちょっと斑点ぽくなってあまり綺麗ではないのだが。

斑入りドワーフマートル

もっと寒くなると年によっては葉を落とすことさえある。斑入りマートルは少し寒さに強いのだろうか、まだ赤みが弱い。

斑入りマートル
斑入りマートルは、ドワーフよりは変化は少ない

もう少し紹介したい種類はあるが、次回につなげたいと思う。

この冬の苗たち

とても穏やかな1月が終わった。雪かきを一度もせずに過ぎた1月というのはあまり記憶にない。そのためか、1月がとても長かったという声を何度か聞いた。

天気が冬の山陰とは思えないような穏やかな日差しだったり、降っても雨。みぞれもごくわずか。雪が降っても1日のうちに一瞬降る程度だった。

ところが、立春を過ぎ、ようやく冬の山陰らしい天気になった。激しくはないものの雪が降ってはやみ、みぞれ混じりだったり。もちろん、積もるには至らない。

こういう冬なので、普段とはハーブの苗たちの様子もずいぶん違っていて驚かされる。ただ、そんな状態の苗でも、初めてみる人にとってはびっくりするような姿だったりするようなので、いくつか紹介してみたいと思う。

まずはミントの仲間。ミントは種類によって冬に完全に地上部をなくすものもあれば、案外葉が残るもの、土の表面ギリギリに小さい葉を残すものなど様々だ。

日本ハッカ
日本ハッカを始め、ミントは地上部がなくなるものも多い

日本ハッカの仲間は、完全に地上部が枯れる。これでも、秋までは青々としていたのだ。他にもレモンミントやバナナミント、ジンジャーミントなどが同様に葉がなくなる。ところがポットを外すと、中でフレッシュな地下茎がびっしりと伸びていてびっくりさせられる。

アップルミント
比較的葉が残りやすいアップルミント

一方、アップルミントは葉を少し多めに残して冬をこす。例年はそれでももっと葉が赤っぽくなったり、伸びた上の方の葉が枯れたりするのだが、今年はとても青々としている。まるで3月ぐらいの様子だ。

オレンジミント
オレンジミント。葉が真っ赤〜黒っぽくなって冬をこす

その中間が、写真のオレンジミントなど。他にもブラックペパーミントやオーデコロンミントなどが同じように地面ギリギリのところに葉っぱを残して春を待つ。どの葉も赤黒っぽく変色することが多い。

寒さに強いものは、かえってさっさと葉を落として地下でぬくぬくと春を待つ傾向が強い感じだ。コンフリーもそうだし、ルバーブなどはかなり深いところで芽を硬くして冬を過ごしている。

コンフリー
コンフリー。ちょっとだけ芽が出ている

植える時期としても極端な寒冷地でない限りおすすめなのだが、地上部がないと不安になるのももっともだ。とはいえ、下の写真のように、地植えで大株になったコンフリーも冬は葉が完全に枯れる。

地植えのコンフリー

レディスマントルは、夏の暑さに弱く、涼しいのが好きとはいえ、やはり大きな葉を広げておくのは負担なようで、夏までの葉は枯れて株元の小さな芽だけが青々としている。

レディスマントル。根はびっしり張っていても地上部はこれだけ

まだ今年は残っている方なのだが。同様にストロベリーも、大きな葉は枯れてしまって小さい葉だけになって冬をこす。

ストロベリー
ストロベリーの苗

ホップも同様。秋早いうちにさっさと葉を落としてしまって古いツルが残る。

ホップ
ホップは早ければ冬の初めには株元に新芽が見え始める

残念ながらこのツルからは春になっても葉が出てこない。株元のぎゅっと詰まった新芽が伸びてくるのを待つしかない。

まだまだ紹介したいものはたくさんあるのだが、とりあえず今日のところはここまで。これでも例年に比べると暖かいんだなあと実感させられるのだ。