目にもさやかに

秋きぬと目にはさやかに見えねども・・・の和歌も、詠まれた時代には、何月ぐらいのことだったのだろうと思う。

案外8月の半ばぐらいだったのかもしれない。

今のような気候なら、ひと月ぐらいは遅くならないとこんな歌を詠む気にはとてもなれないだろう。

自分が毎年秋を感じるタイミングは風ではなく、収穫の終わった田んぼから籾殻を焼く香りがする頃だ。

ところが今年はまだ一度も香ってこない。

圃場の近所でも、作付けが毎年のように減っていき、遠目でしか稲が育つ姿を見る事ができない。

この、籾殻を焼いてくん炭を作る香りは苦手な人も多いようだが、自分にとっては夏を乗り越えて穏やかな秋を迎える事ができたとしみじみ感じる香りだ。

秋遅くなって、本業が一段落したら譲ってもらった籾殻を使ってくん炭も作るには作るのだが、早くとも11月。まだまだ先。

くん炭
これは昨冬製作の籾殻くん炭

香りを楽しむだけのために今からくん炭作りをするわけにもいくまい。

さて、ちょうどこの時期、ブルーミストフラワーも涼しげな色の花を咲かせる。

ブルーミストフラワー

秋の涼しい風が吹くころに毎年咲き始めるのので、「目にもさやかに」秋を感じさせてくれる。しかも遠目で見ると、ふわふわとした花という感じだけの印象だが、近づいてみるとその繊細さに少し「おどろかれぬる」なのである。

ところが花を咲かせて寒くなると、急にシワシワと葉が枯れていき、完全に地上部がなくなってしまう。

あまりにもあっさりしているので、本当に枯れてしまったと勘違いするぐらいだ。

でも心配は無用。翌年にはしっかり復活してくれる。

籾殻を焼く香りも、また復活してはくれないだろうか。

香らない葉に潜む香り

10月とは思えない暖かい日が続いていたが、ようやく、朝夕はパーカでも着ないと体が冷えるようになってきた。

スイートバジル

畑の手入れをしていたら、目を疑うような光景が。スイートバジルの零れ種。近くに親になった大株があるので不思議ではないのだが、例年ほとんど零れ種は見ないか、見てもごく小さい双葉程度。ポット苗サイズまで育ったのは今年が初めてではないだろうか。このままどうなるか様子を見よう。

さて、この秋、下記のようなお問い合わせをいただいた。いままで何度か同じような質問があったが、ハーブの多くは触ると良い香りがするので、触っても強い香りを感じないスイートグラスは不思議に思われても当然だろう。

スイートグラスに香りがありません | ヘルプ・Q&A

結局のところ、甘く感じる成分であるクマリンは葉を乾かすことで生成される物質なので、生のままではよく香らないようだ。乾かして初めて香ってくる植物に、昔の人は神秘性を感じたのかもしれない。ホーリーグラスの別名があるのもそのためなのだろうかと思えてくる。

事実、育てているときも、香りや見た目ででなかなか判断しにくいので、雑草ではないかと不安になることが多い。そのため、現在は一部の試験栽培を除いては、鉢植えで管理している。

この秋、少し多めに収穫できたので、葉の香りが実際にどのように変わっていくのかを試してみた。

スイートグラス
生の葉。ほとんど香らない

収穫してすぐは、「そう言われれば甘い香りがするかも」という程度の微妙な香り。擦るとまだしも、鼻を近づけたぐらいでは青臭さの方が強いので、似たような雑草と比べたらきっとわからないだろう。

今回、日中エアコンがついている店内で乾燥させてみた。三日目ぐらいから甘い香りが漂い始め、乾燥から五日目、触るとカサカサと音を立てるようになったころには明らかに甘い香りが立ち始めた。

スイートグラス
乾燥5日目。甘い香りがしてくる。

さらに2~3日すると、2~3メートル離れたところでもやや気になるぐらいの強さになる。

ところが、乾燥から10日ちかくなるとまったく気にならなくなる。もちろん、鼻を近づけると香りはする。5日目以降のような強い香りの成分はすでに揮発してしまったのだろう。当たり前といえば当たり前のことなのだが。

スイートグラス
10日目。鼻を近づけないと香らない

この変化は育てて収穫・乾燥してみて初めてわかる。いままで、日数の経過による変化までは見ていなかったのでなかなか面白い経験だった。

スイートグラス、浄化用として使う場合は、火をつけて燻らせて煙を出す場合が多いのだが、きっと燻らせた場合でも乾燥の段階によってずいぶん香りも違うことだろう。次回収穫した時はこの辺りもぜひ試してみたいところだ。

また、スイートグラスの葉は、別名バイソングラスと呼ばれ、ポーランドのお酒であるズブロッカの瓶の中に入っている。

きっと製造現場でも乾燥具合を見極めて一番いいときにお酒に香りをつけるのだろう。

一時、この香りが気に入ってしばらくズブロッカを飲んでいたことがあった。

飲みながら

「ウォツカにスイートグラスを入れたらズブロッカになるんだろうな」

と思うのは自然な流れ。いつか試してみたいところだが、最適な乾燥具合を見つけた頃にはきっとアル中になっていることだろう。

庭仕事に同行

今日は久しぶりに庭仕事に出かけることになった。

もう20年近いおつきあいで庭づくりをさせていただいているお客様から、庭がすごいことになっているので少し手を入れて欲しいとの要請。今年前半は主に他のスタッフが出かけていたのだが、時には様子も見ておきたいので同行することにした。

今年の春はバラを中心にとても楽しめたと喜んでいただけたのが嬉しかった。何年も咲かずに「どうしてかしら」と言われ続けていた白花のモッコウバラもとてもよく咲いたというし、庭の奥のつるバラも絶好調だったという。更に、普段の年はところどころ咲くことが多いスイートブライアーローズも満開だったとのこと。ローズヒップの多さがそれを物語っている。確かにこんなにローズヒップがついているのは見たことがない。

スイートブライアーローズのローズヒップ
スイートブライアーローズのローズヒップ

つるバラの下はかなりのシェードになるため、日陰に耐えれるようにアカンサスモリスを植えているが、これも何本もの花茎の名残が枯れたまま残っていた。どうやら花の数も結構咲いたようだ。

アカンサスモリスの株元の新芽
アカンサスモリスの株元の新芽

夏を迎えると枯れてしまう大きな葉の株元から、小さな芽が顔を出していた。冬にかけてまたつやつやとした葉を広げてくれるだろう。もうこの場所はほとんど手を入れなくてもよくなった。バラの肥料も2年ほど前から与えていないが毎年よく咲くし、パープルペリウィンクルがびっしりと増えたので草取りも短時間で終わる。むしろ広がり過ぎたところをバサバサと刈り取るぐらいだ。

このお庭のお手入れは午前中でほぼ完了。午後は近所の別のお庭へ。お庭の中心には長年サンカクバアカシアが枝を広げ、春には明るい黄色で目を楽しませてくれていたが、幹におそらくテッポウムシが入ってダメになってしまった。かなり大きな株になっていたので、その場所が開いてしまうとあまりに寂しい感じになってしまった。広い庭なのでなおさらである。

今年の春、懇意にしている樹木医さんと相談して、ネグンドカエデのフラミンゴを定植した。春先、少し心配する時期もあったがどうやらうまく活着したようで、この夏も無事乗り切れそうだ。

ネグンドカエデ・フラミンゴ
ネグンドカエデ・フラミンゴ

ただ、一部の枝と葉に枯れが見られたので、すぐに樹木医さんに連絡。写真を撮って送ったらすぐに返事があり、枝をカミキリムシがかじった影響ではないかとの判断。樹木医さんもテッポウムシを心配しておられたのだが、株元をチェックしてもその気配はなく一安心。

ネグンドカエデ・フラミンゴ
一部の枝が枯れていた

よく見ると確かに枝の裏にカミキリムシがかじったような跡が残っていた。さすが樹木医さんである。もう少し冬に近づいた時どうなるかまた見にきたいところだが、さて、その時タイミングよく庭仕事に同行できるかどうかが問題である。

作業の途中、冷たい風が吹いてきたかと思ったら、急に土砂降りの雨が降り出した。雷も鳴りだし、真上に稲光も見える。しばし雨が止むまで作業中断。ここまで、とんでもない暑さだったのが、雨の後はずいぶん過ごしやすくなる。普段、1日の作業だと、最後の2時間ぐらいはどうしてもペースダウンしがちなのだが、今回はむしろペースアップしつつ終わりを迎えた。

早起きは種子とともに

夜明けが少しずつ早くなってきた。朝はそれほど苦手ではないほうだが、冬の間は他の季節に比べると布団から出るのがおっくうだ。

それでも2月も後半になると、明るくなるのが早くなってきたことと、もう一つ布団から抜け出すモチベーションが発生するので、朝起きだす時間が早くなりつつある。

春の苗のための種まきは種類にもよるが秋遅くから始まる。場所の都合もあるが、一気に撒いてしまうのではなく、種類を変えたり同じ種類でもずらしてまいてゆく。

とはいえ、気温が極端に時期は撒いた種子も発芽する種類は非常に少ない。そして、それらの種子が眠りから目覚め始めるのが少し暖かくなるこの時期なのだ。

毎年同じような種類の種子だし、年によって姿が変わるわけではない。それでも種子が発芽するのは待ち遠しく、発芽を見つけるとやはり嬉しい。毎日何かが発芽しているわけではないにせよ、春に向けた動きがあるというだけでも朝布団から出る気分がずいぶん違うのだ。

ハーブの場合、いろいろな種類があるので発芽の姿も様々。サイズも様々。仕事にもまだ余裕があるこの時期はじっくり観察するのもまた楽しいものだ。

イタリアンパセリの発芽

気温が低くてもよく発芽するイタリアンパセリ。少し気まぐれで、発芽するときはすごくたくさん出てきて困るが、同じパッケージでも「あれ?」と不思議に思うぐらい発芽しないこともある。
ジャーマンカモミールの発芽
ジャーマンカモミールは、とっても小さいが、ギザギザがついた本葉が出てくると見分けやすい。こぼれだねで生えてきても見つけやすい種類だと思う。
ローマンカモミールの発芽
こっちはローマンカモミール。いつもは株分けで増殖するので、発芽した姿は普段そんなに見かけない。
コリアンダーの発芽
以前も紹介したコリアンダー。たまに一つだけしか出てこないこともある。
ストロベリーの発芽
ルーゲンストロベリー。小さくてもしっかりイチゴの葉だ。ハーブも、種類によっては小さいうちと大きくなってから葉の形が違うものも結構あるが、これは見間違えることがない。
アニスヒソップの発芽
アニスヒソップは小さい上にあまり特色がない芽生え。本葉が出てくるとすこし分かりやすいが、零れ種で生えてきたら雑草と見分けるのは困難だ。
ナスタチウムの発馬
ナスタチウム。丸い葉の上に玉のように乗る露が魅力だが、発芽したばかりの葉にもしっかりと露が乗る。
カルドンの発芽
たくましく大きく育つカルドンは、発芽からして力強く土を押しのける。
チャービルの発芽
チャービルも割と気まぐれで、出るときにかぎってこんなにたくさん。分けるのが大変だ。
ローズマリーの発芽
普段は挿し木でばかり増やすので、これもお目にかかることが少ないローズマリーの発芽。親木の株元の零れ種である。

まだまだ数え切れないほどあるのだが、今日のところはこれまで。

ゆっくりとハーブたちの芽生えを観察できるのももう少し。本格的な春になるとそんな余裕もすくなくなるから、せいぜい今のうちにじっくりちいさな命のスタートを見つめてみたい。

蕎麦と蜂

「うどん食べる?蕎麦にする?」
と聞かれたら、8対2ぐらいの割合で蕎麦を選ぶ。
秋になってお蕎麦屋さんの前に「新蕎麦」ののぼりが立つと、やはりウキウキしてくる。決して蕎麦通などではないんだけれど・・・。

私の好みとは関係ないが、苗を育てている土にも蕎麦殻を混ぜている。土を軽くしたり、水はけを良くし、微生物の住処としても有効のようだ。

ただ、蕎麦殻の中には、脱穀されずに残った蕎麦の実も混じっているようで、ときどきこんな風に芽を出してくることがある。
蕎麦の芽
時々、ハーブ用の土を購入いただいたお客様からも「なんか変わった芽が出てきた」というお問い合わせをいただくこともある。
蕎麦の花
蕎麦は成長が速いとはよく言ったもので、主のハーブをあっという間に追い越して小さくても花を咲かせてしまう。

蕎麦の芽

とはいえ、根はそれほど強くはないので、抜くのは簡単だ。小さい芽をこまめに集めれば一皿のサラダに加えるスプラウトがまかなえるかもしれない。

さて、そんな蕎麦だが、先日ちょっと気になる話を聞いた。製粉所の方から伺ったのだが、今年は蕎麦の実の入りが非常に良くないとのこと。蜂が少ないのが一因だそうで、そもそも北海道や東北の豪雨被害などもあり、決して豊作とは言えない状況らしい。特に地元や近県でそのような状態だとのこと。確かに先日も、どこかのブログかフェイスブックで、実入りの悪さで新蕎麦のイベントに影響があるようなことを目にした。そこでもミツバチの少なさが述べられていた。

そういえば、今年はミツバチに限らず、アシナガバチもあまり見ない夏だった。秋になると、アシナガバチは特に活動が活発になるのかよく見かけるようになり、時々ドキッとさせられるのだが、今年はまだ一度もないような・・・。一時的なことであれば良いのだが。

畑にも蜂のためにもうすこし蜜源植物を増やそうかなと考えたりしている。

そんなとき、店頭に、地元松江の養蜂家さんから蕎麦の蜂蜜が入荷した。

蕎麦の蜂蜜

普通の蜂蜜(左)と比べると色も濃厚だが、まず、口に近づけた時から強い香りが鼻に届く。口にすると、極めて個性的。何につけて楽しむと良いか迷うぐらいだ。飲み込んだ時には喉の奥で蕎麦の香りが広がりびっくり。

やはり蕎麦は喉で味わうものなのだ。