菅笠ヒーロー

「暑さ寒さも彼岸まで」の、彼岸の入りを迎えた。

店頭のお客様との会話で
「今年のお彼岸はずいぶん涼しいですね」
という言葉がよく出てくる。

例年、「暑さ寒さも彼岸まで」と言いながら、暑さを我慢してここまで過ごしてきているのだが、今年はもう8月の終わり頃にはそれほど暑さを感じなかった。

体も楽だが、暑さに弱いハーブたちにとっては本当に過ごしやすい夏だったようで、苗の調子もこの時期にしては良好だ。

朝など、快適というよりも、寒さを感じるほど。

こんなとき困るのが、頭に何をかぶるかである。

朝は野球帽でもかぶっていないと、寂しくなった頭頂がますます寒さを感じる。

でも、野球帽をかぶっていられるのは、夜明け前や、陽が登ってしばらくまで。バタバタしていると、やはり暑くなってくるので、麦わら帽子に変わる。

軽く涼しい麦わら帽子をかぶっていると気分も軽やかに作業が進む。

麦わら帽子といえば、昔は子供とおじいさん、高原のお姉さんがかぶるイメージだったのだが、近年は現実的な暑さ対策に有効だったり、人気漫画の主人公の影響か、若いお兄さん方がかぶっているのもよく見かける。もちろん彼らはちょっとおしゃれなタイプで我々は作業用の安いぶんだが。

とはいっても、さすがに日中ちかくなると、この麦わら帽子でさえ、内側の縁が汗で濡れてきて不快さが増してくる。通気性が良いとはいえ、帽子の中も蒸れてくる。少ない頭髪にもよくない。
菅笠
なので、この時期まだまだ手放せないのが竹笠(菅笠)である。昨年から使い始めたのだが、「夏はこれなしには過ごせません!!」というほど愛用している。

遮光性、通気性とも言うことなし。物理的に頭から離れているので蒸れというものがありえない。

また、使ってみて気づいたのが「雨に強い」こと。麦わら帽子は雨に濡れるとてきめんに弱い。濡らすべきではない。濡れたらきちんと乾かさないと大変なことになる。以前、雨に濡れたまま翌日までビニールハウスにおいていたら見事に全体が緑のカビに覆われてしまった。その点、菅笠はちょっとした雨では中には浸みてこない。少しの雨なら、傘がなくても大丈夫だったりする。にわか雨の多い山陰ではなおさらありがたい。

もう、菅笠のない夏など考えられないほどである。考え出した人に感謝である。

もちろん、難点もある。構造的に近くで大きい音がすると、ものすごく響くのだ。耕運機や草刈機のエンジン音が反響するように耳を直撃する。サンダーという切断工具を使った時は、菅笠を外さざるを得なかった。

そしてもうひとつは、社会の認知度。初めてかぶる時は実際、恥ずかしかった。菅笠姿の私を見た人の感想も、「ベトナム土産ですか」というのが一番多く、次が「お遍路さんにいかれましたか?」である。

実際、時々チェックするのだが、周りで農作業をしている人を見ても、菅笠率は極めて低い。こんなに快適なのに不思議に思う。

ましてや、街中では・・・。真夏なら、麦わら帽子を被って、例えば図書館に行ってももうそれほど目立つことはないだろう。でも、菅笠をかぶって行ったら相当視線を感じることになりそうだ。

でも、なんと言われようとも、もう手放せない。

だれか、菅笠をかぶったヒーローが出てくる漫画でも書いてくれませんかねぇ。お遍路漫画でもいいですから。

香ばしい秋

夏の終わり、そして秋の始まりを感じさせるのがクン炭を焼く匂いだ。

稲刈りが始まり、脱穀した籾殻が、田んぼに盛られ、燻すようにして炭にする。
ゆっくりと、ゆっくりと、時には何日もかけて炭になる間、香ばしい香りが辺りにただよう。

この香りが苦手だという人も中にはいるが、確かな秋の訪れを感じさせてくれる、ちょっぴり切なさを感じさせる香り。いつもこの香りを嗅ぐとホッとする。

さて、秋が来るとなぜか飲みたくなってくるのが浜茶である。
カワラケツメイというマメ科の植物で作られたお茶だ。この頃は焙じたものが多い。地域によって「ネム茶」とか、「まめ茶」などとも呼ばれているようだが、この辺りでは、「浜茶」と呼ばれている。以前、聞いた話ではお隣の鳥取県・弓ヶ浜のあたりでよく作られているから「浜茶」というとかいわないとか。利尿作用のある、日本古来のハーブティーである。

秋の気配を感じると、浜茶を買いに行くのがここ数年の習慣のようになっている。毎年買っていた店に行ったら、今年はパックのものしかなかった。ちょっと風情に欠けるが、パックも作業途中の休憩時間に飲むには手軽だ。

浜茶
お客様からいただいた、出西窯のマグで。香ばしさが引き立つ

浜茶もまた香ばしさが特徴である。

そういえば、秋の味覚のサンマを始め、焼き芋、栗、最近ご無沙汰でもう香りも忘れつつある松茸焼き・・・秋は香ばしさと深く関わりがあるのかもしれない。

初秋の朝

朝夕の空気がとても気持ちが良い季節になってきた。

早朝、草にしっとりと露が降り、すこし歩くだけでも靴を濡らす。
朝の芝生
雑草混じりで、日中はみすぼらしく見える芝生も、この時間だけは別なのである。

さて、この芝生の隅に、何年前からかレウコジャム(レウコユム)が芽を出した。おそらく種子で飛んできたのだろうが、この圃場では地植えしているところはない。すべて鉢植えや苗で管理しているから、それらから落ちたのだろう。

きっと最初は一粒だったかもしれない。毎年ゆっくりではあるが、徐々に分球しているのか、年を追うごとに花の数が増えていく。
レウコジャム
スタッフも芝刈りをするときには気をつけているようで、芽を出す頃になるとこの周りだけは残している。

芝生にぽつんと咲いているのも、ちょっと寂しげではあるが、凛とした風情が伝わってくる。

今の時期、夏のくたびれでダラダラとなったハーブたちもたくさんある。それに比べ、こんなに繊細ながらもしゃんと背筋を伸ばしている姿をみるとこちらの気持ちまで引き締まってくるようだ。

そろそろ、周りからこぼれ種で芽を出してくるのがあるかもと時々チェックしている。来年の秋も楽しみである。