カラタチの実が落ちるとき

あれほどやかましかった蝉の声もいつしかコオロギや鈴虫の音色に変わり、それも聞こえる回数が徐々に減ってきた。少しずつ静かな季節へ移り変わろうとしている。

用水路を流れる水音も田んぼで使われなくなると穏やかな流れになり、耳を澄ましても聞こえないほどだ。

いつも聞こえるのは風の音と、小鳥の鳴き声ぐらいになってしまった。でも、耳をつんざくような蝉の鳴き声の中での作業に比べれば、静かに集中して作業ができる方がずいぶん良い。

後ろの方で、「ストン」と何か落ちる音がした。どうやら熟したカラタチの果実が落果したようだ。樹の下にはいくつも黄色い実が落ちているが、実際に落ちるところはまだ見たことがない。リンゴが落ちるのを見れたニュートンは運がいいのだろう。

今年はカラタチも豊作のようだ。せっかくたくさん実がなったので、何かに使えないか思案中。

ちなみに棘だらけの枝は、今年の夏活躍した。思っても見ない使い方だったが、孵化したツバメの雛を野良猫からうまく守ってくれた。

棘には悩まされているが、使い方が見つかると見方も変わり、あまり疎ましく思わなくなった。人間は身勝手なものだ。

花も実も

この秋も、きっとどこかで季節外れで桜の開花のニュースがあるかもしれないが、ビニールハウスの畑にあるズミ(キミズミ)も一部の花が開花を始めた。

例年、4月にちょうど桜と入れ替わるように咲いてくれるこのズミ。この夏の渇水で葉が完全に落ちてしまった。もちろん、株自体は枯れることはなかった。葉を落として自分の身を守ったのだろう。果実もしっかり残っていたので、次世代を優先したのかもしれない。

キミズミの果実

落葉したことで、ホルモンに影響が出て春を待たずに開花してしまったとされるが、実もついているのに花が咲くというのはやはりしっくりこないものだ。花も春ならば枝が隠れるほどびっしりと咲いて見事だが、ところどころポツポツと咲いているに過ぎないので寂しい感じだ。

 

気になるのはいまの花が咲いた後は、これも果実を結ぶのだろうか。興味深く、観察してみたい。

春のキミズミ

種子ができても

一番西側のビニールハウスのすぐ横には、見上げるようなネムノキが生えている(正確には種子で芽生えたものをこの場所に移植したもの)。

今年の暑い夏も、このネムノキのおかげで程よい日陰ができて、ずいぶん涼しい思いをさせてもらった。もちろん、ビニールハウス自体にも寒冷紗を設置しているのだが、人工的な寒冷紗と、自然の葉によってできる陰の組み合わせが絶妙だったりする。これがどちらか一方ではうまくいかないのだ。枝が風にそよぐと、影も揺れて、それがまた涼感を増してくれる。今の時期は、ミンミンゼミが奥の山から降りてきてこの夏最後のコーラスを歌うステージとなっている。

今後冬に向けては落葉するので、毎年少しずつ枝の剪定を行う。あまり丈夫な樹ではないようなので、時々古い枝を外した方が良いようだ。そしてその枝は、一年ほど乾燥させて冬のストーブの良い焚き付けになって作業場を温めてくれる。こちらの方は、火持ちは良くないが、ストーブの焚きはじめや、一時的に火力を上げたいときには十分だ。

そう、夏前にはピンクの花もたくさん咲いて甘い香りを漂わせてくれるのも嬉しい。こうして一年中のように恩恵を与えてくれることには感謝するばかりだ。

そのネムノキに、種子がいっぱいできていた。毎年たくさん種子ができるのだが、株元にこぼれダネで発芽しているかというと、ほとんど見たことがない。ちょっと残念な気もするのだが、まあ、一本あれば十分かもしれない。

暑さに平気になれたら

少し前のブログでも述べたが、今年は稀に見る渇水だった。全国的には豪雨のニュースが目立ったので、他の地域の方には「去年のことですか?」と言われそうだが。甲信越のお客様からも、雨がなかったという話を聞いたので、雨の被害ばかりだったように思える夏でも渇水のところが他にもあったようだ。

当店の場合、雨不足は井戸の水量に直結するので深刻な問題だ。

渇水の兆候は、まず、畑のキウイの葉に現れる。ニュージーランドの果物というイメージが強いので(原産は中国だそうだ。長い間知らなかったが)、乾燥に強いような感じもするが、案外水分を必要とするらしいし、植えた場所のせいもあるようで、日照りが続くと葉が徐々に萎れていき、さらにはパラパラと落葉し始める。

少雨で水が貴重になってくると水をやるのも憚られるので、枝ごと剪定して負担を減らすが、今年は一株がほぼ落葉してしまい、情けないサイズの果実だけがなんとか残った。

それでも、先日の雨の後に復調したのか、落葉したところからすぐにみずみずしい葉が伸び始めてきた。今年も果実はあまり期待できないが、枯れることはなさそうだ。

もう秋なので、落葉したままでいいのに・・・とも思うのだが、まだ可能なうちは光合成したいのだろう。果実にもっとエネルギーを送りたいのだろうか。太ってくれるのは大歓迎だが。

そんな過酷な夏だったのだが、平気な顔で咲いているのが、カラミントの仲間たちである。

カラミント・ネペトイデス

日当たりも良くオープンな場所でむしろ徒長せずに形良く咲いているのがカラミント・ネペトイデス。これから気温が下がると花に紫色が混じってくるのも楽しみだ。

また、ネムノキの下で、しっとり咲いているのがレッサーカラミント。それほど強そうには見えないのだが、厳しい夏の終わりにもくたびれた様子を見せない。

毎年のように過激さが増してくる夏の暑さだが、これらの花たちのように平気になれたら・・・と、みるたびに思う秋の入り口だ。

ご褒美はプロの剪定

ビニールハウスの前に立つギンヨウボダイジュ。

シンボルツリーとして存在感を誇っているが、大きくなるにつれて剪定が困難になってきた。

私自身、高所恐怖症というわけではないが、高いところで太い幹を相手に鋸やチェーンソーを使うのはさすがに怖くなってきた。

そこで数年前から、友人の庭師さんに一切合切をお願いする事にした。

私では技術的にも切ることができず、適当なところで剪定されていたので、木の側としても嬉しがっているに違いない。

また、ちょうど隣地との境に近く植わっているので、空き地とはいえいくらでも大きくするわけにもいかない。下手に剪定すると反発して余計にでも大きくなろうとする。

それが専門家の腕にかかると、弱らせずに伸びすぎないような仕立て方も可能なのだ。我々のような小さな草花を扱っているものにとってはなかなかできない技術である。

もう彼に任せて三年以上、徐々に私がしていた適当な剪定の頃とは明らかに整ってきたようだ。また、この冬の剪定を行う時点で、来年はこの枝を剪定して・・・と数年先が見えていることにも凄さを感じる。

最初の頃は「どうしてその枝を切るのだろう?」と見ていてもよくわからなかった。もちろん今でもよくわからないが、もうそのような疑念さえ湧くこともない。おまかせである。

今年は大きな幹を一本外す事になった。年輪を数えてみるとおよそ十五年。成長が早いので年輪の幅も広い。

伐採されたたくさんの枝は後日玉割り、薪割りして、次の冬の燃料にするつもりだ。薪が燃えるストーブがあるのは樹のすぐ横にある休憩用ビニールハウス。運搬も最小限で究極の「えすでぃじーず」だ。

冬は薪で温めて、夏は木陰を作って涼しくしてくれるありがたい樹。一年に一度、プロに剪定してもらうぐらいのご褒美をあげる価値がある。