今夜の賭け

以前、親しくなった方からなにかの折に

「ギャンブルはされますか?」

と尋ねられたことがある。

「日々がギャンブルみたいなものですからねぇ」

と、冗談交じりに答えたら

「事業はギャンブルではありません」

と諌められた。

少なくとも、仕事をギャンブルとは考えていないが、農業には賭けのつもりで向かうしかない天気という相手がいる。

あらかじめ大雪が降りそうな日の夕方はビニールハウスのなかにストーブを灯す。ハーブを凍えさせないためではなく、積雪が少しでも落ちやすくするためだ。ビニールハウスの雪は、一部が落ちるとその周りから落ちていきやすい。そのきっかけを作るのが小さなストーブの灯だ。

石油ストーブ
古い石油ストーブも活躍中

昨日の夕方は強い風とともに横殴りの雪が降り、大雪警報も発令。相当に積もりそうな雰囲気だったので、疑うこともなくそれぞれのビニールハウスにストーブをつけた。

ところが、雪のピークはその時が最高で、今朝起きてみると、ほんの少し積雪が増えた程度だった。

特に心配することなくビニールハウスにむかった。ストーブの置いてあるあたりから雪が滑り落ちて、縁の方に若干残っていたが、その雪も午前中日がさすと綺麗さっぱり下へ滑り落ちて行った。

ビニールハウスと雪
中央あたりにストーブがある

残念ながら一晩中つけっぱなしにしていたストーブはあまり意味がなく、減った灯油を給油する作業も少し気が重かったが、昨日の判断を賭けとするなら、賭けに負けたわけではない。おかげで一晩ゆっくり眠れたのである。

温度計
昨夜はマイナス3度まで下がった模様

今夜もそれなりに冷え、雪も降る予報が出ているが、さて、今夜の賭けはいかに?

OPECの回し者

圃場では、11月の半ばぐらいからストーブが登場する。天気が良い日はともかく、これから曇天が多くなる山陰の冬はストーブ無しでは作業にも支障を来す。もちろん?、ハーブたちのためではなく、我々スタッフのためである。

もともと、山際で湿気が多い事も有り、冬は底冷えがひどい。バタバタする作業はともかく、植替や挿し木など、長時間じっとして行なう作業は足元からズーンと冷えてくる。広いビニールハウスを暖めるような事はもちろんしないので、足元だけを暖めるためのストーブである。それでも無いよりはずいぶんましだ。

そんなストーブが3台ほどあるのだが、いずれもお払い箱になったものをもらい受けてきたものばかり。ここには掲載し辛いほどボロボロになった歴戦の勇者ぞろいである。

そんなところに、今年一台のニューフェイスが現れた。スタッフが知り合いの電気屋さんからもらったようなのだが、まだまだ新品に近く、スイッチで火がつく。(他のは全てマッチが必要なのだ)。

ストーブ

サイズもコンパクトで、ついついこちらを使いたくなるのだが、しばらくして重大な事に気がついた。灯油の消費量が多いのか、すぐにタンクが空になる。他の大きな図体のストーブもタンクはほぼ同じ。手をかざして分かった。燃焼効率が良いようで、実際に非常に熱い。

ところが、この場所では強力な熱さよりも、長時間ほのぼのとした熱さであれば充分なのである。

以来、スタッフの間では「OPECの回し者」と呼ばれ、やや冷遇されつつある。