思い出の香り(2)

雨のスタートとなった新年度。

こんな仕事をしていると年度が変わったとか、月が変わったとかいうことがそれほど大きな意味を持たなくなる。

気温がはじめて氷点下になったとか、梅雨が明けたというような天候の変わり目の方がはるかに大きな節目だ。

とはいえ、周囲の新年度感や、新学期感はなんとなく伝わってくる。「気分を新たに」スタートしている人も多いのではないだろうか。

自分の場合、気分を新たにというよりも、この時期、「初心を忘れずに」という気持ちが強い。

もう25年近くになるだろうか。初めてハーブに出会ったのがこの季節。忘れもしない、米子市のアーケード街の中にある園芸店の店先に並んでいたちいさなポット苗にふと目が止まったのがハーブの実物と出会った最初だった。

それまで植物など育てたことはほとんどなかったのに、なぜか興味をひかれ、葉を触ってみた。

レモンバームと、タイムだった。指先に残った香りに驚きを受けた。

その一瞬の驚きはよほど鮮烈だったのだろう。いまでもこの時期にレモンバームとタイムの香りをかぐと当時に引き戻される。

レモンバーム
長年おなじ仕事を続けていると、垢がたまるように、慣れや惰性に自分が包まれてしまいやすい。日々、ハーブが周りにあるのが当然になり、ハーブをただの商品としてしか見れなくなったらもうこの仕事を続ける資格はないと思う。

そのような不要な垢を取り除くためにもこの時期、伸び始めたフレッシュな葉の香りを確かめる。

なので、レモンバームとタイム、とても平凡なハーブなのだが、私にとってこの二つは特別なのである。