花の木

今日は休日だが、親戚の家へお茶摘みの手伝いに行った。秋の晩茶摘みである。

さて、ここへ手伝いにくるとよく耳にする植物名がある。「花の木」である。地元のじいさん、ばあさんたちがしきりに、「花の木をもらいにきて」とか、「花の木が植わっちょって」などと話しているのをよく耳にする。地元の人の花の木にかける熱意は相当のものがある。かなり遠くはなれた町からわざわざもらいに来られたりしている。

どうやら仏壇などに供えるものだと言うことは話の筋から推測できるが、具体的に何という植物なのか、ずっと分からずじまいだった。聞いてみても良いけれど、
「そぎゃん、花の木は花の木だわね」
(そりゃ、花の木は花の木ですよ)
と言われることは目に見えている。
ネットで調べても良いのだが、地元の通称と世間一般の通称が違ったりすることは決して珍しくはないのであまり頼りにならない。

ところがある日、同じ市内のホームセンターの花木コーナーで、「花の木(シキミ)」と札がついた木を見つけた。ようやく見当がついた。

シキミはお寺やお墓に植えられたり、仏壇に供えたりされるらしいが、白くて可憐な花を咲かせる。ところが、全草が毒で、特に実は猛毒。植物性としては唯一劇物指定もされているらしい。とある本によると、そのため、土葬が主だった時代、墓地の周りに植えることで獣などが近づくのを防いだという。殺虫剤としての利用もあったというが取り扱いは難しそうだ。

今日、ようやく実物をこの山で確認できた。既に花は終っていて、果実ができている。近縁種にスパイスで使われるスターアニスがあるが、確かに良く似ている。
花の木
ちなみに、地元の人に「花の木って猛毒だってご存知ですか?」と訪ねたら、ほとんどの人が知らなかった。売ると結構いい稼ぎになるということで好きな人は多いようだが。ただ、近隣の野山のことに精通し、私も敬愛するMさんだけは、
「ああ、花の木だけは鹿もかじーませんけんねぇ(齧りませんからねぇ)」
と、ご存知だった(この辺りは鹿の被害も多いのだ)。ついでに、
「実は熟すとポ〜ンとはじけて、遠くまで飛びますけん」
と教えてくれた。こういうデータはどんな植物事典にも載っていない。

熟しつつある果実
熟しつつある果実

いつか、機会があれば白い花と実がはじける様子も見てみたいものだ。