日々の発見

生き物を育てていて面白いのは、毎日のように新たな発見があることだと思う。

もう30年近く育てているハーブについてもそれは変わらない。

いままで気がつかなかったことに出会える楽しさがいつもそこかしこに潜んでいるというのは、何とも嬉しいことだ。

先日、お客様の花壇のメンテナンスに伺った時のこと。この花壇は以前、コガネムシの幼虫によって大被害を受けて、その後大幅に改良を行った。改良後一つ心配していたのは匍匐性のレイタータイムがうまく伸びてくれるかどうかであった。

理由はコガネムシ対策のために花壇の表面に厚く敷き詰めた小石。コガネムシの成虫が土に潜って産卵するのを妨ぐためのものだ。

レイタータイムは、ラベンダーやセイジなどの他のハーブに比べるとそれほど根が深くは伸びない。特に横に伸びて行った先の茎から出る根が、下の土までうまく到達するかどうかが不安だった。そもそも、朝から晩まで日が当たる過酷な場所なので、夏、焼けた小石の熱が伸び始めた根の負担にならないだろうかという心配もあった。

うまくいかないならば止むなし、他の種類を検討しようという心づもりでいた。

実際、定植後しばらくはやや足踏み状態の時期が続いた。ただこれは、コガネムシの幼虫の食害でもともとの根がだいぶダメージを受け、それから回復するのに時間がかかったせいもあるようだ。その後、ゆっくりと伸び始めた。しかし、他のハーブたちに比べると足取りは遅めだった。心配しつつも、その後は着実に成長しつつある。
レイタータイム
おおよそ、一気に成長したものは、その後急にトラブルに巻き込まれるなどあまり良い結果が待っていないのだが、時間をかけて成長したものは長く安定しやすいものだ。

今年の冬始め、以前にも増してびっしりと花壇の表面を覆ったレイタータイム。傷みやすい夏以降は、夏前と比べると明らかに見た目も悪くなりがちなのだが、今年の強烈な暑さを感じさせないような調子よさだった。

レイタータイム
今まで植えていなかったところにも徐々に広がりつつある

端をそっと引っ張り上げて見ると、長くて健康そうな根が深くまで伸びていた。梅雨や、秋雨の季節、冬初めの長雨などでも、たまった水に浸りにくく、それが功を奏したのかもしれないと考えている。

レイタータイムの根
小石をくぐり抜けて、調子よく根が伸びていた

もっと大きな砂利の上でも可能かどうかは微妙だが、比較的小さめの小石の上ならば匍匐性のタイムもむしろ良く育つ可能性が高いようで、これは一つの収穫だった。

きっと来年も新たな発見があることだろう。

早々と防寒対策

11月は、あっという間に過ぎてしまった。これから年末に向かってせわしない12月と、行く、逃げる、去るの3ヶ月も控えている。きっと春まであっという間だろう。

昨年の12月は雨が多いぶん、それほど気温が下がらなかった。それが災いし、1月の寒波に書いたように、急な冷え込みでいろいろなハーブが大きなダメージを受けた。

一番ひどかったのがレモンティートゥリー。これまでは、特に防寒対策をしていなかった。葉が赤くなったり、一部の枝が枯れたりはしていたが、「案外強いものなんだな」と気にしていなかった。もちろん、どの程度まで耐えるか、調べてみたいという意味もあったのだが・・・。きっと、しんどい思いをしていたのだろう。

そのため、春になっても一向に芽が出てくる気配がなく、もう枯れてしまったとばかり思っていた。

レモンティートゥリー
4月終わりのレモンティートゥリー。全く芽が出る気配はない。
レモンティートゥリー
7月始め、諦めていた頃、株元から新芽が

それでも「もしかして・・・」と未練がましく畑に残していたら、なんと7月になって株元から新芽が。秋遅くには60センチぐらいまで盛り返した。

レモンティートゥリー
10月にはここまで復調

せっかくここまで頑張ってくれた株、今度は傷めてはならないと、先日、早々に防寒対策を行った。

レモンティートゥリー
まずは長く伸びた枝を剪定

防寒しやすいように伸びた枝は剪定。周りを大きめのビニールで囲う。

防寒

四隅に支柱を挿して行燈仕立てにするだけの簡単な防寒だが、この場所は谷風が吹き抜けるので、これだけでもだいぶ違う。
防寒
ついでにレモンヴァーベナも同じようにビニールで囲ってやった。

多分、今年もレモンティートゥリーはそれなりに傷む可能性もあるだろう。レモンヴァーベナは完全に落葉してしまうが、昨年も大丈夫だったし、暖かくなると少し遅い時期とはいえ、かならず芽が出てくる。

「今年は寒くなるぞー」とか、「雪が多いぞ!」と周りの人々は恐れさせて言う。しかし、前もって対策している年は案外拍子抜けするぐらいになるものなのだ(そうあってほしいけど)。

ハーブの防寒の詳しい方法については、

ハーブの防寒・地植え編(その1)
ハーブの防寒・地植え編(その2)
ハーブの防寒・地植え編(その3)

でご紹介しています。

安定の不安定

昨日、11月3日、文化の日。松江ではかつてこの日に鼕行列(どうぎょうれつ)が行われていた。

ところが、11月にもなると突然雨が降りやすく、しぐれると結構寒くなる山陰の天気。観光的には望ましくないということで、数年前からは、10月に行われるようになった。

でも、個人的にはやはり少し寂しさを感じる中、鼕と笛の音が小雨交じりの街中に響くほうが冬を前にした松江にはぴったりとくるような気がする。
笛
ちなみに私の母方の祖父はこの鼕行列が大好きで、いわゆる鼕だらず(鼕行列バカ)と言われるレベルであったらしい。本人も笛の奏者として練り歩いていたようだが、結局その姿は一度も見ることがなかった。でも、何度か家で笛の音を聞いたことはあったような気がする。普段、特に趣味もなく、孫と遊ぶこともない祖父。可愛がられたおぼえもないが、この時期にはなぜかふと思い出す。少し前、私もなんとなく吹きたくなって笛(鼕行列の笛ではない)を購入したのも祖父の血がさせたのかもしれない。その後ほとんど練習できずに机の片隅に置きっぱなしだが・・・。

その11月3日の松江はやはり安定しない天気だった。早朝妙に晴れたかと思うと雨が降り出した。その後回復に向かい、午前中は結構晴れ間も見えたのだが、午後はまた曇天。気まぐれな山陰の秋から冬の空模様。これからは外での作業にいろいろ支障が出そうだが、天気が不安定なのがむしろ例年通り。安定した11月なのだ。

さて、今年の夏から秋はとにかく芋虫系、毛虫、幼虫系の被害に悩まされた。秋口から続いたビオラ、スミレへのツマグロヒョウモンの食害は未だなお見られるし、今年はお客様の庭に植えていたサワフタギという樹が5年目にして始めて毛虫の被害にあい、丸坊主になってしまった。

サワフタギ
サワフタギも大被害を受けた

店頭にいらしたお客様からも、アカシアがミノムシで覆いつつされたとのこと。何十年植えていて初めてだったそうだ。

もちろん、各地のお客様からもいろいろな被害について情報や相談をいただいた夏から秋だった。全国各地で不安定な天気が続いたのも原因かもしれない。

そうそう、畑に植えた自家用のパセリも一体何度アゲハの幼虫に食べられ続けているだろう。春以降、伸びては食べられ、伸びては食べられで一度も収穫できていない。アゲハのために育てているようなものだった。そろそろ収穫させてもらえると良いのだが。

ルーとアゲハの幼虫
11月4日、ルーの苗についていたアゲハの小さな幼虫(中央部)

また、例年のごとく、コガネムシの幼虫の被害も多かった。

店舗の向かいにあるお医者さんの花壇、3年ほど前に相談を受けてサツキの代わりにとラベンダーとローズマリーを植えた。

日当たり良い場所で、屋根の下で極端な雨もかからず、また手入れもよくされていたようで年ごとに大きくなり、毎年職員の方がラベンダーバンドルズを作っておられたようだ。

ところが今年の夏、なぜか調子が悪くなったという相談を受けた。見てみると妙に元気がない様子。蒸れか、はたまたコガネムシの幼虫か・・・といったところだったが、まだ芽が残っていたことと、暑さの残る夏の終わりであまり動かしたくなかったので、少し様子を見ることにした。

そもそもコガネムシの幼虫ならすぐ隣に植えているローズマリーも被害にあってなんらかの影響が出ていてもおかしくないがこちらは絶好調。ラベンダーも、今年の開花まではとても調子が良かったので、その後剪定しすぎたのかも・・・と心配されていたが、特にその影響もない様子だった。
ラベンダー被害
それから半月ほど経ったが、どうやら確実にダウンした模様。結局掘り上げることにした。

ラベンダー被害
案の定、細い根がすっかり食い荒らされていた。周りの土を掘ってみると、何匹かのコガネムシの幼虫が出てきたが、思ったより少ない。被害が大きい時にはもう一桁多い数がでてくるところだ。犯人(犯虫?)の大半はもう出て行ってしまった後なのか・・・。

しかも相変わらずとなりのローズマリーは調子が良いので、なおさら首を傾げてしまう。本当なら全部掘り上げてチェックしたいところだが、玄関脇の一番目立つ場所でそれもかなわない。

結局、新しい株を植えなおして今後の成長に期待することになった。寒くなると幼虫の被害もおさまるだろうが、春からはすこしこまめに様子を見た方が良さそうだ。

来年は安定した春夏の天気で健やかに育ち、不安定な秋を迎えてくれると良いのだが。

二番穂

先日の休み、久しぶりに自転車に乗った。

街中を外れると田んぼが広がり、のんびりとペダルをこぐには最適だ。
刈り取られたあとの水田は、秋の終わりとともに、冬が間近なことも感じさせる。

ふと横を見ると、実った稲穂が頭を垂れている田んぼがあった。
「まだ稲刈りが終わってないんだな・・・」
と思ったが、何か違和感がある。妙に稲穂の高さが低い。

よくよく見てみると、一度刈り取った稲からまた新芽が出て実っている。それにしても収穫期と見間違うほどの成長ぶり。稲刈りが相当早かったのだろう。その後の高い気温などでここまで育ったのかもしれない。

田んぼを持つスタッフに尋ねてみると、この辺りでは「二番穂」と言うとか。また、二番穂に実った米は寒さに当たって美味しいという話も聞いた。

でもきっと収穫されずにそのままなのだろう。冬鳥たちの餌になるのだろうか。

圃場でも、ハーブの二番穂?が豊作だ。
9月はじめの剪定
9月はじめ、台風に備えてラベンダーセイジを強剪定した。

ラベンダーセイジの剪定
これだけしか葉が残っていなかったのに・・・

その時には倒れるよりはマシ・・・と、下から10センチぐらいで思い切り剪定した。

 

 

もうその時点ですでに咲いていたし、今年はそんなに伸びることはないだろうと思っていた。

ところがその後気がつくと、初夏のようにすくすく成長して、花もつけようとしていた。秋以降の気温の高さも手伝って今、見事に開花している。
ラベンダーセイジ
大抵ラベンダーセイジは背が高くなりがちで、折れたり、倒れたりしやすいのが難点だ。なので、わざと夏前に剪定して、秋にほどほどの高さで開花するよう調整してみるのだが、なかなかうまくいかない。同じような剪定をレモンマリーゴールドなどでも行うが、やはり「いい感じで咲いたな〜」と思えることはそう多くはない。

ラベンダーセイジ

今回のラベンダーセイジの咲き具合は、その点見事だった。花茎の数も抑制されたのか、花穂のサイズも大きい。こんもりと丸く育った株の形も悪くない。色の鮮やかさに至っては、夏の花色にない深みもあり、見とれてしまうほどだ。

二番穂、きっと植物が冬に向かって最後のエネルギーを振り絞って咲かせるのだろう。そのひたむきさが花の色を鮮やかにしているように思えてならない。

こんな場所にはこのハーブ-ゴールデンヘリオトロープ

以前、こんな場所にはこのハーブ-ナスターチウムで紹介した病院のエントランス部分の花壇。ナスターチウムも良かったが、あまり長期間おなじハーブが植わっているというのも芸がないのでときどき種類を変えている。

パンダスミレ
花も長期間咲いて手間いらずのパンダスミレ

球根類を多めに植え込んでみたり、ビオラの仲間を植えてみたり。特にパンダスミレはよく広がってくれた。トラブルも少なく、花壇全体を覆いそうな勢いだった。

当初、この場所に何を植えるかについてはかなり危惧していた。上に屋根があるので雨はかからないし、西側と南側にスリット状の壁があるので日差しも遮られる。そもそも、エントランスのすぐ脇、もっとも人目につきやすい場所であるというのがプレッシャーである。

何年も試しているが、いつも、うまくいくだろうと思う種類が案外イマイチで、「大丈夫かな」と思いつつ植えた種類が思わぬ成長を見せるという厄介な場所である。

今年の春に植えたのが、ゴールデンヘリオトロープ

これも結構な賭けだった。ヘリオトロープ自体が、そもそもちょっと気まぐれなところがある。通販で購入されたお客様からも、「何年も咲かない」とか、「急に葉が茶色になり始めました」と相談があったり、一方で苗から数ヶ月経たないうちに開花したり

そのうえ、葉色が鮮やかな黄色をしているゴールデンヘリオトロープはなおさら葉が弱く、強光線や強い風、乾燥でも傷んでしまいやすい。

「ま、うまくいけばしめたもの、葉の色も鮮やかだし、花も咲いたら香りはいいだろうし」
という感じだった。そもそも、夏が越せないのではないかと思っていた。

今年の夏、ここ山陰は雨が非常に少なく、気温も非常に高かった。なので、メンテナンスに行くたびにドキドキだったが、「え?」と拍子抜けするぐらいに順調に育った。この花壇、見た目より結構深く、根が暑さで傷まなかったのも良かったかもしれない。
ゴールデンヘリオトロープ
秋、少し気温も下がり、一層元気をましてきたようだ。

このスリットから斜めに差し込む太陽が気持ちよさそうだ。

花芽の兆しも見えているが、さて、寒くなるまでに開花してくれれば良いのだが。