育ててみないとわからない

5月に入っても、例年に比べると気温が低いようだ。暑さを感じる日があっても数日後にはまた穏やかになり、非常に過ごしやすい。暑さに弱いハーブたちにとっても楽なようで、見ていても安心できる。

しかし一方でバジルを初めとして暑さ大好きタイプのハーブは成長が芳しくなく、見ていてやきもきさせられる。毎日のように店頭には「バジルはまだですか」とのお問い合わせが入り、焦る一方である。

さて、そのバジル、一番可愛らしいのは本葉が出たばかりの頃。一丁前に大きくなったときと同じ雰囲気のぷっくらとした葉を広げている様子は毎年のように見ていてもやはり微笑ましく映る。

スイートバジル

写真は4月初めのころであるが、このままの姿で徐々に葉数を増やしてゆく。あとは天気次第である。

さて、バジルのように小さな頃から、大きく成長するまであまり姿が変わらないハーブは間違えることも無く、育てるのにも安心だ。しかし、中には「えっ?」と思わせられる種類もある。
スコティッシュブルーベル

上の写真で並んでいる2株はいずれも同じ植物。実生増殖ではない。同じ親株からの株分け、しかも同じ時期のものである。それなのにこの違いよう、初めて見るスタッフも、どちらかは雑草だと思ったぐらいだ。

自分も初めて育てた時には茎が同じ株から伸びているかどうか何度も確かめてしまった。ちなみにこれはスコティッシュブルーベル(Campanula rotundifolia・カンパヌラ・ロツンディフォリア)というワイルドフラワー。イトシャジンという名前でも知られている。

学名では、「丸葉のカンパヌラ」なのだが、丸葉でいるのは株が小さい時だけ。夏に向かい、花が上がる前になると細葉に変わってしまう。どうしてここまで葉の形を変えなければならないのか、不思議なことだ。冬から春にかけては面積の広い葉でしっかり光合成をして、花茎を長く伸ばす頃には、風に吹かれても大丈夫なように葉が細くなるんじゃないかなんて勝手な推測をしているが、本当のところは分からない。

まあ、一度育ててみれば覚えてしまうのだけれど、初めて目にするスタッフには必ず教えておかなければいけないことでもある。学名で判断して「丸葉のはずだ」と引っこ抜かれては大変だ。

あと、お客様へ。何株か注文されて、葉の形が違っていても御心配なさらぬよう。こんな性質なのですから。

ピーピー豆とアブラムシ

季節柄アブラムシに関する質問を良く受けるので、資料になればと思ってアブラムシの写真を撮りにでかけた。

まずは圃場の周りのピーピー豆(カラスノエンドウ)が繁っているところへ。先日草刈りをする時にイヤというほどたかっていたのである。ところが探そうとするとなかなかいないものである。

先に天敵のテントウムシの幼虫の方が見つかった。まだ小さな幼虫だが、動きはなかなか速い。この運動量ならお腹も空いてたくさんアブラムシを食べてくれるだろう。

テントウムシの幼虫

この間はいくらでもいたアブラムシがほとんど見つからない。これがアブラムシの不思議なところである。育苗しているハーブの苗の場合にしても、ある種類に発生しても、しばらくするといなくなり、他の種類に移っているのである。

アブラムシ

圃場を一回りしてようやく一群を見つけた。こういう写真が撮りたかったのである。先日まで、どのピーピー豆もこんな状況であった。新芽が出たでで美味しかったのだろう。あの強力無比のセイタカアワダチソウも新芽が出た時にはびっしりとアブラムシがつく。「健康この上ない」これらの雑草にさえつくのだから、普通の栽培植物につかない方がおかしいと思えてくる。

アブラムシの種類についてはまだ勉強が足りないので同じ種類かどうかは定かではないが、ピーピー豆に付く種類はうちのハーブたちではあまり見ないようだ。セイタカアワダチソウにももっと赤いような種類がつく。また改めて調べてみたい。

タイムの花壇

昨年、花壇作りをさせていただいたお客様の家に伺った。カナリーキヅタで覆われていた花壇を整理してタイムを中心に再構成したのが昨年の夏前であった。

いま、何種類か植えたタイムが順番に咲き出している。最初はイブキジャコウソウ、続いてキャラウェイタイム、徐々にレイタータイムも咲きはじめている。まだ蕾だが、そのうち白花クリーピングタイムが楽しめるだろう。

タイムの花壇

ちょうど椅子に座ると程よい高さに目線が行く。このような花壇なら、もっと様々な花を色とりどりに植えたくなるところであるが、あえてタイムを中心にして、補助的に何種類かのハーブを周りに植えた。

この花壇は南向きのテラスの上にあるため、驚くほど風通し、日当たりがよい。松江では蒸れに注意が必要なタイム類もトラブルフリーで育てることができる。

キャラウェイタイム

うちの圃場では徒長しやすいキャラウェイタイムも密に繁る。その上、花色も見事な鮮やかさであった。

イブキジャコウソウ

もともと丈夫なイブキジャコウソウは特にすごい、まだ7分咲きという感じでもこの状態である。

お客様にも喜んでいただき、突然の来訪であったのに、お茶を御馳走になってしまった。日々楽しんでいらっしゃる話を聞きながら飲むお茶は格別だった。

ごちそうさまでした。

埋もれる花

毎日つぎつぎと花が咲きはじめるようになった。そんな季節、つい派手な花に目がいってしてしまうのは人間の性であるから地味な花はよけいに見過ごしがちである。

サラダバーネットの花も毎年見過ごされ、写真に写そうと思いながら何年もたってしまっていた。地面にロゼット状に這いつくばっている冬場はもちろん、せっかく葉が成長する頃になってもとりたてて見所のある姿ではない。

サラダバーネット

今年こそはと花が上がるのを待ち、ようやく写真に収めた。遠くから見ていては、やはり他の大きな花に埋もれてしまう感じだが、小さな花ながらなかなか面白い姿である。

サラダバーネット

秋に愛でられるワレモコウと同属で、サラダバーネットが秋に咲いたら結構目立つだろう。ワレモコウも春、他の花のなかで咲いていたら顧みられることもないかもしれない。

邪魔になるほど大きくはならないが、丈夫で、よほどのことがないかぎり枯れることは無い。もちろん幅広い環境に適応する。派手さはないものの、光る個性を持っている。われも、こうありたいものである。

苦手なアルパイン

ハーブが好きなひとは、割と小さめの花が好きなように思う。そして大きくなる植物よりも小さく可愛らしくまとまる草花も好まれるようだ。

まあ、自分にしても同じようなタイプだ。ただ、好きであることと育てるのが上手ということは別問題。

園芸にはAlpine Plantsというカテゴリがある。高山植物である。コンパクトで愛らしく、えも言われぬ美しい花を株を覆い尽くすように咲かせるというイメージだ(私にとっては)。

アルパインフォックスグローブの園芸品種

非常に魅かれる植物群なのに、育てるのは苦手である。写真のErinus alpinus(Fairy Foxglove、イワカラクサ)の園芸品種。何年もかかってようやく2株ほど開花するまで育てることができた。当然大きな障害は夏である。まあ、他のハーブと一緒に育ててしまうのが問題なことは明らかで葉がカリカリに焼けてしまう。

適度に遮光するとか、ロックガーデンに植えるとか、用土を調整するとかすればもっといい結果が出そうではあるが、そこまで特別扱いはしない。そもそも、種子を購入する時、「Alpine plants」だとか、学名の「alpinus」という文字を見ておきながら注文してしまうのだから世話無いのである。

もう少し年を取って引退したらロックガーデンでも作って楽しむのだ。それまでは準備期間として細々と育てて見よう。

それにしてもなぜFairy Foxgloveと呼ばれるのだろう。フォックスグローブとは似てもにつかぬこの姿。妖精のようなかわいらしさというのは頷けるけれど。ロックガーデンで育て、本性が表れると分かるのかも知れない。それもまた楽しみである。