香らない葉に潜む香り

10月とは思えない暖かい日が続いていたが、ようやく、朝夕はパーカでも着ないと体が冷えるようになってきた。

スイートバジル

畑の手入れをしていたら、目を疑うような光景が。スイートバジルの零れ種。近くに親になった大株があるので不思議ではないのだが、例年ほとんど零れ種は見ないか、見てもごく小さい双葉程度。ポット苗サイズまで育ったのは今年が初めてではないだろうか。このままどうなるか様子を見よう。

さて、この秋、下記のようなお問い合わせをいただいた。いままで何度か同じような質問があったが、ハーブの多くは触ると良い香りがするので、触っても強い香りを感じないスイートグラスは不思議に思われても当然だろう。

スイートグラスに香りがありません | ヘルプ・Q&A

結局のところ、甘く感じる成分であるクマリンは葉を乾かすことで生成される物質なので、生のままではよく香らないようだ。乾かして初めて香ってくる植物に、昔の人は神秘性を感じたのかもしれない。ホーリーグラスの別名があるのもそのためなのだろうかと思えてくる。

事実、育てているときも、香りや見た目ででなかなか判断しにくいので、雑草ではないかと不安になることが多い。そのため、現在は一部の試験栽培を除いては、鉢植えで管理している。

この秋、少し多めに収穫できたので、葉の香りが実際にどのように変わっていくのかを試してみた。

スイートグラス
生の葉。ほとんど香らない

収穫してすぐは、「そう言われれば甘い香りがするかも」という程度の微妙な香り。擦るとまだしも、鼻を近づけたぐらいでは青臭さの方が強いので、似たような雑草と比べたらきっとわからないだろう。

今回、日中エアコンがついている店内で乾燥させてみた。三日目ぐらいから甘い香りが漂い始め、乾燥から五日目、触るとカサカサと音を立てるようになったころには明らかに甘い香りが立ち始めた。

スイートグラス
乾燥5日目。甘い香りがしてくる。

さらに2~3日すると、2~3メートル離れたところでもやや気になるぐらいの強さになる。

ところが、乾燥から10日ちかくなるとまったく気にならなくなる。もちろん、鼻を近づけると香りはする。5日目以降のような強い香りの成分はすでに揮発してしまったのだろう。当たり前といえば当たり前のことなのだが。

スイートグラス
10日目。鼻を近づけないと香らない

この変化は育てて収穫・乾燥してみて初めてわかる。いままで、日数の経過による変化までは見ていなかったのでなかなか面白い経験だった。

スイートグラス、浄化用として使う場合は、火をつけて燻らせて煙を出す場合が多いのだが、きっと燻らせた場合でも乾燥の段階によってずいぶん香りも違うことだろう。次回収穫した時はこの辺りもぜひ試してみたいところだ。

また、スイートグラスの葉は、別名バイソングラスと呼ばれ、ポーランドのお酒であるズブロッカの瓶の中に入っている。

きっと製造現場でも乾燥具合を見極めて一番いいときにお酒に香りをつけるのだろう。

一時、この香りが気に入ってしばらくズブロッカを飲んでいたことがあった。

飲みながら

「ウォツカにスイートグラスを入れたらズブロッカになるんだろうな」

と思うのは自然な流れ。いつか試してみたいところだが、最適な乾燥具合を見つけた頃にはきっとアル中になっていることだろう。

思い出の香り

先週終わり頃から、いったん春を思わせる陽気になったのだが、その後はまた最高気温が10度を下回るような日が続く。

作業場のストーブもまだしばらくは活躍してもらうことになりそうだ。
杉葉
着火時に重宝しているのが、枯れ落ちた杉の葉。油分が多いようで、マッチの小さな火があっという間に大きく広がる。

パチパチとはぜる音とともに、香ばしい独特の香りが立ち昇る。

杉葉
いつもこの香りを嗅ぐと思い出すのが父方の祖父母である。

父方の祖父母は少し遠方に住んでいたので、顔を見るのはお盆の時ぐらいだった。

祖父母の家の裏山の急な坂を登った場所に一家の墓地があり、一緒に息を切らしてお参りしたものだ。

墓地に着くと、周りの杉から落ちてきた杉葉を集めるのが小さな頃の私の仕事。祖父母は杉葉に火をつけると瞬時に大きくなる炎に驚いたものだ。

大きくなった火で、何十本もの線香に火をつけると私に渡してくれた。一体いつからあるのかわからないような古い墓碑に線香を手向けてまわる。

線香の香りとともに、普段嗅がない杉葉の燃える香りが、小さい私にはとても印象的だった。

一緒にお墓参りをした祖父母もまもなく鬼籍に入ったが、いまでもこうして杉の葉が燃える香りを嗅ぐと祖父母を思い出す。

祖父母は生粋の農家だった。いつも朝早くから農作業に励んでいることが小さな私にもよくわかった。まさか、のちに自分も農業に携わるとはそのころは思ってもいなかったのだが・・・。

日々の忙しさにかまけて、10年近くも祖父母のお墓に参っていない。

もうすぐ春のお彼岸。今年は久しぶりにお墓参りに行こうか。もちろん杉葉を携えて。