実生は気長に

ハーブの場合、増殖方法はいろいろある。当店では主に挿し木で増やすことが多いが、株分けも結構するし、種子(実生)で増やすことも多くはないが行っている。

もちろん、種類によって適した増殖方法も違うし、容易さや確実性、完成までにかかる時間などでどの増殖方法を選択するかが決まる。

実生が少ないのは、比較的時間がかかりやすいという理由もある。ローズマリーやラベンダーなど、種子からスタートするとその年に苗ができないことも多いのだ。

一方で気長に楽しむという面では実生栽培はおすすめだ。

今、ビニールハウスの前で大きな実をつけている八朔の木は、種子(食べた後の残り)から育てたものだ。実がなるまで実に15年ぐらいかかった。

もちろん、果実が目的ならばさっさと接木苗の大きなのでも植えておくのが賢明だが、子供が小さい時に種子を蒔いたものなのだ。まさか発芽するとも思わなかったが、捨てることもできず、苗となり、大きくなったので地面に植えたら実がなったというわけ。気長に待った甲斐はあった。

場所が良かったのか、昨年は30個以上の豊作。今年も20ぐらいは実がついているので、家族で食べるには充分なほど。子供の小さかった頃のことを思い出したり、この20年近くを振り返ったり、種子の成長とともにその期間をしみじみと味わえる。早く収穫を・・・と接木苗で育てるよりもそれは大きい。

収穫はもう少ししてからだが、そのあと一ヶ月ぐらい置いておくと美味しく食べることができる。こちらも春まで気長に楽しむのだ。

カラタチの実が落ちるとき

あれほどやかましかった蝉の声もいつしかコオロギや鈴虫の音色に変わり、それも聞こえる回数が徐々に減ってきた。少しずつ静かな季節へ移り変わろうとしている。

用水路を流れる水音も田んぼで使われなくなると穏やかな流れになり、耳を澄ましても聞こえないほどだ。

いつも聞こえるのは風の音と、小鳥の鳴き声ぐらいになってしまった。でも、耳をつんざくような蝉の鳴き声の中での作業に比べれば、静かに集中して作業ができる方がずいぶん良い。

後ろの方で、「ストン」と何か落ちる音がした。どうやら熟したカラタチの果実が落果したようだ。樹の下にはいくつも黄色い実が落ちているが、実際に落ちるところはまだ見たことがない。リンゴが落ちるのを見れたニュートンは運がいいのだろう。

今年はカラタチも豊作のようだ。せっかくたくさん実がなったので、何かに使えないか思案中。

ちなみに棘だらけの枝は、今年の夏活躍した。思っても見ない使い方だったが、孵化したツバメの雛を野良猫からうまく守ってくれた。

棘には悩まされているが、使い方が見つかると見方も変わり、あまり疎ましく思わなくなった。人間は身勝手なものだ。

花も実も

この秋も、きっとどこかで季節外れで桜の開花のニュースがあるかもしれないが、ビニールハウスの畑にあるズミ(キミズミ)も一部の花が開花を始めた。

例年、4月にちょうど桜と入れ替わるように咲いてくれるこのズミ。この夏の渇水で葉が完全に落ちてしまった。もちろん、株自体は枯れることはなかった。葉を落として自分の身を守ったのだろう。果実もしっかり残っていたので、次世代を優先したのかもしれない。

キミズミの果実

落葉したことで、ホルモンに影響が出て春を待たずに開花してしまったとされるが、実もついているのに花が咲くというのはやはりしっくりこないものだ。花も春ならば枝が隠れるほどびっしりと咲いて見事だが、ところどころポツポツと咲いているに過ぎないので寂しい感じだ。

 

気になるのはいまの花が咲いた後は、これも果実を結ぶのだろうか。興味深く、観察してみたい。

春のキミズミ

種子ができても

一番西側のビニールハウスのすぐ横には、見上げるようなネムノキが生えている(正確には種子で芽生えたものをこの場所に移植したもの)。

今年の暑い夏も、このネムノキのおかげで程よい日陰ができて、ずいぶん涼しい思いをさせてもらった。もちろん、ビニールハウス自体にも寒冷紗を設置しているのだが、人工的な寒冷紗と、自然の葉によってできる陰の組み合わせが絶妙だったりする。これがどちらか一方ではうまくいかないのだ。枝が風にそよぐと、影も揺れて、それがまた涼感を増してくれる。今の時期は、ミンミンゼミが奥の山から降りてきてこの夏最後のコーラスを歌うステージとなっている。

今後冬に向けては落葉するので、毎年少しずつ枝の剪定を行う。あまり丈夫な樹ではないようなので、時々古い枝を外した方が良いようだ。そしてその枝は、一年ほど乾燥させて冬のストーブの良い焚き付けになって作業場を温めてくれる。こちらの方は、火持ちは良くないが、ストーブの焚きはじめや、一時的に火力を上げたいときには十分だ。

そう、夏前にはピンクの花もたくさん咲いて甘い香りを漂わせてくれるのも嬉しい。こうして一年中のように恩恵を与えてくれることには感謝するばかりだ。

そのネムノキに、種子がいっぱいできていた。毎年たくさん種子ができるのだが、株元にこぼれダネで発芽しているかというと、ほとんど見たことがない。ちょっと残念な気もするのだが、まあ、一本あれば十分かもしれない。

暑さに平気になれたら

少し前のブログでも述べたが、今年は稀に見る渇水だった。全国的には豪雨のニュースが目立ったので、他の地域の方には「去年のことですか?」と言われそうだが。甲信越のお客様からも、雨がなかったという話を聞いたので、雨の被害ばかりだったように思える夏でも渇水のところが他にもあったようだ。

当店の場合、雨不足は井戸の水量に直結するので深刻な問題だ。

渇水の兆候は、まず、畑のキウイの葉に現れる。ニュージーランドの果物というイメージが強いので(原産は中国だそうだ。長い間知らなかったが)、乾燥に強いような感じもするが、案外水分を必要とするらしいし、植えた場所のせいもあるようで、日照りが続くと葉が徐々に萎れていき、さらにはパラパラと落葉し始める。

少雨で水が貴重になってくると水をやるのも憚られるので、枝ごと剪定して負担を減らすが、今年は一株がほぼ落葉してしまい、情けないサイズの果実だけがなんとか残った。

それでも、先日の雨の後に復調したのか、落葉したところからすぐにみずみずしい葉が伸び始めてきた。今年も果実はあまり期待できないが、枯れることはなさそうだ。

もう秋なので、落葉したままでいいのに・・・とも思うのだが、まだ可能なうちは光合成したいのだろう。果実にもっとエネルギーを送りたいのだろうか。太ってくれるのは大歓迎だが。

そんな過酷な夏だったのだが、平気な顔で咲いているのが、カラミントの仲間たちである。

カラミント・ネペトイデス

日当たりも良くオープンな場所でむしろ徒長せずに形良く咲いているのがカラミント・ネペトイデス。これから気温が下がると花に紫色が混じってくるのも楽しみだ。

また、ネムノキの下で、しっとり咲いているのがレッサーカラミント。それほど強そうには見えないのだが、厳しい夏の終わりにもくたびれた様子を見せない。

毎年のように過激さが増してくる夏の暑さだが、これらの花たちのように平気になれたら・・・と、みるたびに思う秋の入り口だ。