寒さと梅の花

店の裏手には、紅白の梅の樹がある。出入り口とはちょうど反対になることもあり、普段どちらかといえばあまり足を運ばない場所だ。

だが、幹線道路に面していて、すぐ横にバス停がある。珍しく手入れをしていたりすると、バスを待っているご老人から、

「いつも綺麗に咲きますね、先に紅梅が咲いて、それから白が咲くでしょう?」

redplum

と声をかけられたりする。日々バスを利用している方々のほうがはるかに良くご存知だ。

それでも、車で脇を通るとき、花が咲いているのを見ると近づく春を感じられてやはり嬉しい。

例年、1月には紅梅が咲き出し、紅梅が終わる頃、バトンタッチするように白梅が咲き始める。

毎年若干の前後はあっても、だいたい同じようなパターンで咲いていたのだが、ここ2年ほどは妙にリズムを崩しているようだ。

まず、一昨年は12月の終わりには紅梅が咲き出した。しかし、その後の寒さで、白梅は全く咲く気配がなく、寒さのために紅梅が延々と咲き続け、3月に入る頃になって白梅が咲くまで、3ヶ月近く紅梅が頑張っていた。

whiteplum一方今年は1月から大雪が続いたせいもあるのか、赤も白も立春になっても全く咲く気配を見せず、3月に入ってから揃って咲きだす始末。今の所、むしろ白梅のほうが先行しているぐらいだ。

ハーブも含め、花が咲く時期は暑さや寒さ、日長などそれぞれ要因がある。梅の場合はなにが引き金になるのか詳しくは知らないが、近年の滅茶苦茶な天候にかき回されているようにも見える。「ここの梅が咲くと3月だな・・・」なんて言えるのも毎年穏やかで安定した天気のリズムがあってこそだろう。

さて、特に意図的に植えたわけではないが、すぐ隣にはマヌカを植えている。ごく近い種類はギョリュウバイ(檉柳梅、御柳梅、魚柳梅)と言われているぐらいで、梅によく似た花を咲かせる。

マヌカ
例年6月ごろ開花するマヌカの花。さて今年は?

こちらは今年の大雪と寒さで葉が結構傷んでしまったが、そろそろ新芽が伸び始めてきたようだ。

manuka
ところどころ枯れているが、なんとか冬を越したマヌカ

寒さの影響で花が咲くかどうかが問題だが、咲いたとしてもとんでもない時期に咲くのではないかと心配半分、興味半分である。

早起きは種子とともに

夜明けが少しずつ早くなってきた。朝はそれほど苦手ではないほうだが、冬の間は他の季節に比べると布団から出るのがおっくうだ。

それでも2月も後半になると、明るくなるのが早くなってきたことと、もう一つ布団から抜け出すモチベーションが発生するので、朝起きだす時間が早くなりつつある。

春の苗のための種まきは種類にもよるが秋遅くから始まる。場所の都合もあるが、一気に撒いてしまうのではなく、種類を変えたり同じ種類でもずらしてまいてゆく。

とはいえ、気温が極端に時期は撒いた種子も発芽する種類は非常に少ない。そして、それらの種子が眠りから目覚め始めるのが少し暖かくなるこの時期なのだ。

毎年同じような種類の種子だし、年によって姿が変わるわけではない。それでも種子が発芽するのは待ち遠しく、発芽を見つけるとやはり嬉しい。毎日何かが発芽しているわけではないにせよ、春に向けた動きがあるというだけでも朝布団から出る気分がずいぶん違うのだ。

ハーブの場合、いろいろな種類があるので発芽の姿も様々。サイズも様々。仕事にもまだ余裕があるこの時期はじっくり観察するのもまた楽しいものだ。

イタリアンパセリの発芽

気温が低くてもよく発芽するイタリアンパセリ。少し気まぐれで、発芽するときはすごくたくさん出てきて困るが、同じパッケージでも「あれ?」と不思議に思うぐらい発芽しないこともある。
ジャーマンカモミールの発芽
ジャーマンカモミールは、とっても小さいが、ギザギザがついた本葉が出てくると見分けやすい。こぼれだねで生えてきても見つけやすい種類だと思う。
ローマンカモミールの発芽
こっちはローマンカモミール。いつもは株分けで増殖するので、発芽した姿は普段そんなに見かけない。
コリアンダーの発芽
以前も紹介したコリアンダー。たまに一つだけしか出てこないこともある。
ストロベリーの発芽
ルーゲンストロベリー。小さくてもしっかりイチゴの葉だ。ハーブも、種類によっては小さいうちと大きくなってから葉の形が違うものも結構あるが、これは見間違えることがない。
アニスヒソップの発芽
アニスヒソップは小さい上にあまり特色がない芽生え。本葉が出てくるとすこし分かりやすいが、零れ種で生えてきたら雑草と見分けるのは困難だ。
ナスタチウムの発馬
ナスタチウム。丸い葉の上に玉のように乗る露が魅力だが、発芽したばかりの葉にもしっかりと露が乗る。
カルドンの発芽
たくましく大きく育つカルドンは、発芽からして力強く土を押しのける。
チャービルの発芽
チャービルも割と気まぐれで、出るときにかぎってこんなにたくさん。分けるのが大変だ。
ローズマリーの発芽
普段は挿し木でばかり増やすので、これもお目にかかることが少ないローズマリーの発芽。親木の株元の零れ種である。

まだまだ数え切れないほどあるのだが、今日のところはこれまで。

ゆっくりとハーブたちの芽生えを観察できるのももう少し。本格的な春になるとそんな余裕もすくなくなるから、せいぜい今のうちにじっくりちいさな命のスタートを見つめてみたい。

寒波の後で

1月20日。大寒。氷点下にはならなかったものの、西風がとても強い。

少し穏やかだった昨日とはうって変わって、一時間おきにみぞれ混じりの雨が差したかと思えばお日様が現れ、めまぐるしい天気となった。

先週末の寒波による雪が、日当たりが悪くてなかなか解けなかったのだが、ようやく消え、ハーブたちも顔を覗かせ始めた。

昨年1月の寒波で大きな被害を受けて、種類によっては夏まで影響が残ったものもあったので、圃場を一回りしてチェックした。

冬の初めに、防寒しておいたレモンティートゥリーや、レモンヴァーベナも特に問題はなさそうだ。

レモンティートゥリー
レモンティートゥリー。風除けだけの防寒。上の方の葉は傷んでいるが、株元は元気そう
レモンヴァーベナ
レモンヴァーベナ。こちらも、普通落葉して丸坊主になるぐらいなのでほとんど問題なし。

先週末はマイナス3度ぐらいだったので、心配しなくても大丈夫なようだ。それなりに葉は傷んでいるが。

同じく、マートルなども、昨年ほどのダメージは少ない。その他、寒さに弱い種類もとりたてて影響はなかった模様で安心した。

カルドン
カルドン。ちょっと大きくなりすぎた

また、大雪が降ると潰れてしまうカルドンも10センチに満たない積雪では影響はなさそうだ。ただ、冬に葉が傷んでばっさり剪定することで、ある程度サイズが抑えられて良いのだが・・・。現在株幅2メートルぐらい。もうこの場所を我が物顔で占拠している。

 

雪が降って周りの雑草が枯れてしまったことで顔を覗かせたのがボリジ

ボリジ

草に覆われていた時にはわからなかったが、零れ種で案外たくさん出ていた。すでに移植が難しいぐらいのサイズに成長している。雪が降るまでは雑草の下で伸びるチャンスをうかがっていたのだろう。これからは一気に葉を広げて場所取りを進めてくるに違いない。

ブルーキャットミント
ブルーキャットミント。株元の新芽はぎゅっとひきしまって色も濃い。

ブルーキャットミントも古い枝や葉が傷んで、株元から新芽が顔を覗かせていた。天候が落ち着いたら少し剪定してやらねば。

もちろん、ラベンダーをはじめ、ローズマリーやタイムなど比較的寒さに強い種類はノープロブレムだった。

とはいえ、まだ少なくとも節分ぐらいまでは油断できない。おだやかな季節が来るのが待ち遠しい。

民族大移動

心配していた割には積雪が少なかった週末の寒波。それでも10センチほどの積雪があると日当たりがあまり良くないこの場所ではしばらくは外仕事ができにくい。

仕事の選択肢が少なくなってしまうが、こんなときには、しなくても大丈夫だがしておくと後で楽になる仕事を行うのには丁度良い。

そこで、冬の間ほとんど成長しない種類の苗をより寒さが厳しいビニールハウスに移動させる作業を行った。

寒さに強い種類は、冬の間は成長を諦めて落葉したり、さらにはあっさり地上部をぜんぶ無くして冬を凌ぐ。こういう種類はむしろしっかり寒さに当ててやる方が春からグンと成長するし、少し暖かいビニールハウスにおいていてもあまりメリットはない。

なので、始終開けっ放しでほぼ外気と同じ環境のビニールハウスで春まで過ごさせるのだ。

例えば、ホップや地上部がなくなる種類のミントなどがこれにあたる。

ただ、単に移動させるだけでなくて、少し手を加える。

苗には秋に枯れた葉が残り、株元には雑草の芽やコケが生えていることも多い

まず、枯れた枝や葉を剪定して、株元の草やコケも取り除く。

株元をきれいに掃除

湿り気が多い山陰の冬は放っておくとコケばかりが良く育つのが悩みの種。そこで、コケが生えにくいように表面をそば殻くん炭で薄く覆っておく。これでコケが生えるのが相当防げる。おそらく、そば殻くん炭のアルカリ性がコケを抑制しているのではないかと考えているが、実際のところはよく分からない。もちろん、春先に生えてくる雑草対策としても有効だ。

表面に薄くそば殻クン炭を敷く

表面を覆ってしまうと、乾き具合がわかりにくくなるのが難点だが、乾きにくいこの季節だし、土の表面が覆ってあることでより乾きにくくもなるようだ。

1ケース作業完了!

1ケース処理するのに5分ぐらいはかかるが、忙しい春になって雑草やコケを取る手間を考えると決して無駄ではない。

株元にすでに小さな芽が

処理を終えたケースは極寒のビニールハウスへ大移動。

ずらりと並んで春を待つ苗たち。春には元気に芽を出してくれるだろう。

これからしばらくこの作業が続きそうだ。

コリアンダーの親心

比較的低い温度でも発芽しやすいコリアンダー。春にむけた苗の種子もぼちぼち芽を出し始めた。
コリアンダーの発芽 二つ仲良く並んで芽を出す
コリアンダーの種子は、丸い殻の中に二つの種子が入っている。そのため普通に蒔くと、二つの芽が仲良く発芽する。なので、後で分けたり、間引きするのが面倒なら始めから二つに割ってから蒔いてもよい。
コリアンダーの種子
コリアンダーの種子 殻(下側)の中に、二つの種子(上)が入っている
コリアンダーの発芽を眺めていると、なんで二つ入っているのかいつも不思議に思う。しかもわざわざ殻の中に入れて・・・。
きっと何かの理由があるのだろう。正月の暇に任せて想像を巡らせてみた。
二つの種子が入っている殻はまん丸で、気をつけないと少し傾いたところではコロコロと転がっていってしまう。
コリアンダーの種子 植物全般に言えることだが、親が育っているところからなるべく離れた場所へ広がっていく工夫が多くの種子にある。タンポポのように飛んでいく能力を持っている種子などが代表だ。
きっと、コリアンダーの殻もコロコロと遠くへ転がるために丸くなっているのかもしれない。
「もしかして」と思い、殻ごと水に浮かべてみたら案の定プカプカ浮く。大雨が降った時にはゴムボートのように水に浮かびながら遠くへ行くことを期待しているのかもしれない。
コリアンダーの種子 水に浮かべてみた。半日経っても浮いていた
種子が二つ入っているのも、一つがうまく発芽しなかった時の保険や、共成長といって、単独で育つよりもまわりに複数の株があった方が競って成長しやすいことを狙っているのだろう。
でも、遠くへ旅立って発芽した時、寂しくないように二つの種子を入れてやった親心ではないかとつい思えてしまうのだ。