観賞用か食用か

バジルの季節も終わりが近づきつつある。今年のバジルの出来は場所によってかなりばらつきがあったようだ。全く育たなかったと言う話も結構聞いたし、害虫が少なくて、希に見る良い出来だったと言うお客さんもあった。

ブッシュバジル

さて、こちら、市内の幼稚園の前庭に植えたブッシュバジルである。雨続きの天候に少し心配していたが、なかなか良い感じの球形に育った。花もちらほら咲きはじめているものの、まだしばらくは楽しめそうである。

いわゆる普通のスイートバジルはガーデンの中で観賞用としての役割はあまり高くない。また、それを狙うならかなりしっかりとした管理が必要になってくる。一方でブッシュバジルは日当たりさえよければ結構ほったらかしでも面白い素材になってくれる。鉢植えなら、時々回転させて平均的に日が当るようにすれば面白いほどに球形に育てることもできる。

料理用としてはスイートに軍配が上がるものの、以前、「サラダに散らすのにはこっちのほうがいい」と仰るお客様もおられてなるほどと思ったことがある。ただ、この幼稚園では、形が崩れるのが怖くてなかなか収穫できなかったとか。さもありなん。

冷夏の香り

松江市はこの夏日照時間が非常に短くなっているというニュースを聞く。いつぞやの冷夏の年と同じような感じで、この先がやや不安である。

例年なら強い日差しと少雨のために畑のバジルも葉が硬く、色も薄くなってくる頃なのに、今年はまだ青々と柔らかい。先日、今年初めてのバジルペーストを試してみたが、去年に比べるとなにか力強さ、パンチが足りないような気がした。本来の夏のエネルギーが感じられない。

そんな状態でも、バジルは着々と花を咲かせる準備を始めている。

スイートバジル

上の株はもう既に花芽がわかるぐらい成長している。このまましばらくすれば花穂が立ち上がってくる。普通はこのぐらいで花芽と一緒に葉を収穫すれば開花を遅らせることができる。

下の写真ぐらいだと、これから花芽を作りますよ〜という感じである。これぐらいで収穫するタイミングがつかめるようになると、バジルを育てるのも気楽にできるようになる。

スイートバジル

それにしても、弱々しい太陽の光には気持ちも滅入る。早くバジルにもガツンと強烈な光を当てて夏の香りを与えて欲しいものだ。

育て加減はいかほどに

植物はその環境で育ち方が大きく変わる。バジルのような一年草ならなおさらはっきりと表れる。下の写真、いずれも同じスイートバジルである。種子を蒔いた時期も同一。用土・肥料も全く同じ。ただ、違うのはポット上げしてからの置き場所と管理だ。

スイートバジル

左は午後から少し陰になるような場所で水もやや多め、右は一日中しっかり日が当り、水は他のハーブ苗と同様、やり過ぎないようにして育てたものである。

どちらが良いかというと・・・・。結論は出ない。店頭に出せば、お客様が手に取るのはまず左のほうである。見た目も明らかに美味しそうだ。ただ、このまま植えると、風でも吹けば頭が重いためにすぐに倒れてしまう。とりあえず一度すぐ収穫するのが前提である。

右のほうは見た目もいまいち。葉も硬そうだ。でも、過酷な場所に植えても、こちらのほうが絶対活着が良い。

植えてもらって、うまく育つ方が良いか、まず手に取ってもらえる方が良いか、苗を作る側としては迷うところである。

いずれにせよ、どちらの苗も、今後の育て方によって葉を柔らかくも硬くもできる。

柔らかくするには水を切らさないように、肥料も多め、収穫をこまめにして新芽を次々出せばよい。若干遮光しても良いだろう。葉は柔らかで大きく、つやが有り、丸みを帯びる。香りも柔らか、まさに「スイート」なバジルになる。生でサラダに入れるのなら食感もよいし見た目も良好だ。そのかわり、水を切らすとしおれやすいし、バッタなどの被害にも合いやすい。

硬めにするなら水はそこそこ、肥料も普通のハーブプラスアルファぐらいで充分。結構ほったらかしでも大丈夫。花芽は早く付くけれど。ガンガンの日なたで育てれば、スパイシーな香りの強い、小さくて厚めの葉のバジルのできあがりだ。というか、あまり面倒を見ないとこんなバジルになる。でも、案外火を通すのならこちらの方が良いのかも知れない。

このへんを上手にコントロールして作り分けられるぐらいになると、園芸もいろいろ楽しくなってくるのだ。

育ててみないとわからない

5月に入っても、例年に比べると気温が低いようだ。暑さを感じる日があっても数日後にはまた穏やかになり、非常に過ごしやすい。暑さに弱いハーブたちにとっても楽なようで、見ていても安心できる。

しかし一方でバジルを初めとして暑さ大好きタイプのハーブは成長が芳しくなく、見ていてやきもきさせられる。毎日のように店頭には「バジルはまだですか」とのお問い合わせが入り、焦る一方である。

さて、そのバジル、一番可愛らしいのは本葉が出たばかりの頃。一丁前に大きくなったときと同じ雰囲気のぷっくらとした葉を広げている様子は毎年のように見ていてもやはり微笑ましく映る。

スイートバジル

写真は4月初めのころであるが、このままの姿で徐々に葉数を増やしてゆく。あとは天気次第である。

さて、バジルのように小さな頃から、大きく成長するまであまり姿が変わらないハーブは間違えることも無く、育てるのにも安心だ。しかし、中には「えっ?」と思わせられる種類もある。
スコティッシュブルーベル

上の写真で並んでいる2株はいずれも同じ植物。実生増殖ではない。同じ親株からの株分け、しかも同じ時期のものである。それなのにこの違いよう、初めて見るスタッフも、どちらかは雑草だと思ったぐらいだ。

自分も初めて育てた時には茎が同じ株から伸びているかどうか何度も確かめてしまった。ちなみにこれはスコティッシュブルーベル(Campanula rotundifolia・カンパヌラ・ロツンディフォリア)というワイルドフラワー。イトシャジンという名前でも知られている。

学名では、「丸葉のカンパヌラ」なのだが、丸葉でいるのは株が小さい時だけ。夏に向かい、花が上がる前になると細葉に変わってしまう。どうしてここまで葉の形を変えなければならないのか、不思議なことだ。冬から春にかけては面積の広い葉でしっかり光合成をして、花茎を長く伸ばす頃には、風に吹かれても大丈夫なように葉が細くなるんじゃないかなんて勝手な推測をしているが、本当のところは分からない。

まあ、一度育ててみれば覚えてしまうのだけれど、初めて目にするスタッフには必ず教えておかなければいけないことでもある。学名で判断して「丸葉のはずだ」と引っこ抜かれては大変だ。

あと、お客様へ。何株か注文されて、葉の形が違っていても御心配なさらぬよう。こんな性質なのですから。