ルーペとアブラムシ

春になって、生き物たちを目にすることが多くなってきた。先日も、久しぶりの快晴の日、ゴソゴソと歩き回るてんとう虫を見つけた。春だなぁ・・・。

さて、てんとう虫が動き回るということは、当然餌になるアブラムシも活躍し始めている。

この時期、発送時に一番気をつけているのがアブラムシのチェックである。

アブラムシのチェック
ご注文いただいた苗をビニールハウスで準備する時にまずチェックしてアブラムシを取り除くのだが、それでも葉の裏や茎の付け根などに隠れているものもいる。

そこで、発送時に最終のチェックをしてから箱に入れる。

慣れてくると、おおよそどの種類のハーブのどんな場所によくいるかがわかってくるので、そう難しいことはないのだが、昨年あたりから新たな問題がでてきた。

現在、発送作業をするすべてのスタッフが40代以上。皆、多かれ少なかれ老眼が心配なお年頃になってきたのだ。

明るい場所へ苗を持って行ったり、メガネを外したりと作業がスムーズに進みにくい。

とりあえず作業台にルーペでも置いておこうか、と、ホームセンターへルーペを見に行ったのだが、適当なのが見つからなかった。

ネットで探してみるとフレキシブルアームが付いたルーペが結構見つかった。そのなかから、作業台の脇に固定できるタイプのものを購入することに。

ルーペ

昔カメラを少しいじっていた頃によく目にしていた「ケンコー」というブランド名も決め手だった。

実際に使ってみるとなかなか良さそうだ。レンズの付け根にLEDが付いているので逆光でも比較的見やすいし、いままでに比べると、2倍ぐらい見つける精度が高まりそうだ。

ルーペ

それでも全ては取りきれないとはおもうが・・・。アブラムシとのたたかいは、半袖になりたくなるぐらいまで、まだしばらく続きそうだ。

思い出の香り

先週終わり頃から、いったん春を思わせる陽気になったのだが、その後はまた最高気温が10度を下回るような日が続く。

作業場のストーブもまだしばらくは活躍してもらうことになりそうだ。
杉葉
着火時に重宝しているのが、枯れ落ちた杉の葉。油分が多いようで、マッチの小さな火があっという間に大きく広がる。

パチパチとはぜる音とともに、香ばしい独特の香りが立ち昇る。

杉葉
いつもこの香りを嗅ぐと思い出すのが父方の祖父母である。

父方の祖父母は少し遠方に住んでいたので、顔を見るのはお盆の時ぐらいだった。

祖父母の家の裏山の急な坂を登った場所に一家の墓地があり、一緒に息を切らしてお参りしたものだ。

墓地に着くと、周りの杉から落ちてきた杉葉を集めるのが小さな頃の私の仕事。祖父母は杉葉に火をつけると瞬時に大きくなる炎に驚いたものだ。

大きくなった火で、何十本もの線香に火をつけると私に渡してくれた。一体いつからあるのかわからないような古い墓碑に線香を手向けてまわる。

線香の香りとともに、普段嗅がない杉葉の燃える香りが、小さい私にはとても印象的だった。

一緒にお墓参りをした祖父母もまもなく鬼籍に入ったが、いまでもこうして杉の葉が燃える香りを嗅ぐと祖父母を思い出す。

祖父母は生粋の農家だった。いつも朝早くから農作業に励んでいることが小さな私にもよくわかった。まさか、のちに自分も農業に携わるとはそのころは思ってもいなかったのだが・・・。

日々の忙しさにかまけて、10年近くも祖父母のお墓に参っていない。

もうすぐ春のお彼岸。今年は久しぶりにお墓参りに行こうか。もちろん杉葉を携えて。

拡張工事

今日も朝から雪が舞う。山陰の春はもう少し先になりそうだ。

ビニールハウスは無加温なので、日がささなければ温度は外気温とほとんど変わらない(さしてもあまり変わりはないが)。

気温が低ければ苗たちの成長もゆっくりで、したがってできる仕事も限られる。

そんな冬のあいだに行う大事な仕事がビニールハウスの補修や改良である。

ビニールハウスも雨風にさらされて、年とともに部材が錆びてきたり、ビニールが破れてきたりする。また、使っているうちに、使い勝手が悪い場所が出てきたりするので時間に余裕がある冬のうちに改良して、春以降に備える。

今年の仕事は苗を育苗する台が古くなってきたので、台の上面の竹を張り直し、あわせて拡張を行うことにした。苗を大移動したり、例年よりも大仕事となった。こんな仕事は他の季節ではとても行えない。
拡張工事
いままで台が少し狭めだったので、通路部分は広くて使い勝手はよかったものの、面積を有効的に活用しているとは言いにくかった。特にオンシーズンには、発芽した苗をポット上げしようとしても、場所が足りなくて困ることもしばしばであった。

そこで、今回は約60cm幅を広げることにした。スタッフの計算によると置ける数が2割増えるとのこと。実際出来上がった台を見てみると、予想していたよりも広い。

竹の台
緑色もまだ鮮やかに残る竹は見た目にもフレッシュでいい感じ。もう少し暖かくなるとこの上に続々と新しい苗が並ぶことだろう。

でも、きっと、あっという間にいっぱいになってしまうんだろうなぁ。

雪の日の作業は静寂の中で

先週末は、春を思わせる暖かさで気分もちょっとゆるんでいたのだが、今朝は一転して雪模様。
雪の日
気温はというと、さほど下がっていなくて零度前後。でも春の暖かさから引きずり戻された体にはとても寒く感じる。
雪の畑
畑もビニールハウスも雪に覆われた。

雨が降ると雨音がうるさいほどのビニールハウスの中なのだが、雪の日は一転して静寂に包まれる。

ビニールハウスの雪
雪の降った朝は静かだというが、上下左右が雪に囲まれた広い空間は、すべての音が雪に吸い込まれるようでなにか怖さを感じるぐらいの静けさだ。

ときおり、ビニールハウスから滑り落ちる雪の音にさえびっくりさせられる。周りが静か過ぎるので、自分がたてる音さえもとても大きく感じる。でも、それが悪いというわけではなく、かえって一つ一つの作業が丁寧になる感じだ。

そういえば先日、ネットで雪の朝のような静けさを作り出す耳栓の記事を見つけた。

デスクワーク時の耳栓愛用者としてはとっても気になる。

まだ発売は先のようだが、一度試してみたい。雪の日のハウスの中とどっちが静かかな?

付箋の行方

読書をゆっくり楽しめるのもあとしばらく。オンシーズンになったら、しばらくお預けだ。

書店で新刊を眺めるのも楽しいものだが、図書館には図書館の楽しみがある。

先日借りた、ある一冊の本。読み進めていたページの中に、一枚の付箋。
付箋
前に借りた人がつけたのだろうか。

名前のように思える数文字は、前後のページには見当たらなかった。著者はフランス文学者なので、フランス文学に関わる人の名前かもしれない。フランス文学に縁のない私は知りようもないが。

それとも、前に借りた人が本を読んでいた時、テレビやラジオで聞いた名前をさっとメモしたものかもしれない・・・と想像は広がる。付箋に書くぐらいだからきっとその人にとっては大事なデータに違いない。

普段ならついネットで検索してみるところだ。きっとGoogle先生ならこの数文字について詳細に教えてくれるだろう。でも検索したら、「ああそうか」と、それでおしまい。

一昔前なら、人名辞典で探してみたり、図書館のインデックスあたりを覗いてみたり・・・とちょっと探偵気分が味わえただろう。わからなければなおさら前に借りていた人がどんな人なのか興味もわいてくるだろう。

なんでもすぐわかるというのは便利なことでもあるが、面白みに欠ける。

植物を育てていて楽しいのも、わからないこと、思いもよらないことが日々たくさん出てくるからだ。もしゲームの攻略本のように、全てこの通りにすればうまく育てられるというマニュアルがあったら園芸の楽しみなんて一体どれほど残ることか。

毎日育てているラベンダーだって、ローズマリーだって、タイムだって、同じ種類なのに、毎年のように新たな疑問が湧いてくる。Google先生でも、「これかもしれない」という答えはいくつか示唆してくれるが、どれが正しいかは自分で確かめてみるしか方法がない。そして、自分で思考錯誤しつつ答えを見つけることに園芸の喜びと楽しみがあると思う。

結局付箋はそのままにして返却した。

次、このページを開いた人は検索するのだろうか。もしかしたら、前借りていた人が、付箋のことを思い出して再び借りに来るのかもしれない。

次の冬が訪れたら、またこの本を借りて、付箋の行方を追ってみようと思う。