この冬の苗たち(その2)

2月6日、昨夜から今朝にかけてようやく雪らしい雪が降る。

道路の雪は昼までにはずいぶん溶けたが、昼頃を過ぎてもビニールハウスの雪が落ちずに冷蔵庫状態だった。

雪のビニールハウス
屋根に雪が積もると冷蔵庫のように冷えて作業にならない

前回に引き続き、冬の苗たちの紹介。春や夏の様子とはずいぶん違っているので、見慣れていないと驚かれるかもしれないが。

ローズマリーは、寒さに結構強い種類からそれほどでもない種類まであるのだが、寒さにあまり強くない種類の方が青々として、寒さに強い種類はかえって冬の初め頃から赤くなったり、葉がくすんだりし始める。

トスカナブルーローズマリーはまだグリーンが残る

トスカナブルーローズマリーや、プロストレイトローズマリーは、冬の終わりぐらいまでグリーンが残る方なのだが、寒さに強いアープローズマリーやセイレムローズマリーなどはさっさと葉緑素を減らしはじめることが多い。

セイレムローズマリー
セイレムローズマリーは早めに葉が赤っぽくなる

見た目には、調子が悪くなってきたと思ってしまう。

タイムの仲間は多くの種類が葉の色が褪せる。一方で斑入りの種類は鮮やかさを増す。夏の間はなかなか色が出ないドーンバレータイムやゴールデンクイーンタイムなども寒くなると黄色が鮮やかになりようやく見応えが出てくる。

ゴールデンクイーンタイム

ただ、いちばん綺麗になるのはやはり春の初め頃だ。

シルバータイム

シルバーバイムは3色ぽくなってこれもまたいい感じ。

赤花クリーピングタイム

赤花クリーピングタイムは葉が赤っぽくなる。古い葉は下の方から落ち始めている。

また、秋に古い枝を剪定したタイムの中には早々と新芽を伸ばすものもあったりする。

レモンタイム
レモンタイム

オレガノは種類によって様々だが、多くは株元に葉をぎゅっと縮こませて冬を越えようとしている。

オレガノ
オレガノは冬にかなり葉が赤くなる

普通のオレガノは葉がかなり赤くなるし、オレガノ・ミクロフィラなどは、赤黒っぽく変化する。

ラベンダーは、落葉することはないが、下の方の古い葉を落とそうとするのか、硬く枯れてくる。

また、今年はそれほどでもないが、葉が赤っぽくなったり、逆にシルバーに近い色になってくる。これが本来の姿だが、見慣れないと枯れてしまったと思うかもしれない。

斑入りドワーフマートルも葉が真っ赤になる。ちょっと斑点ぽくなってあまり綺麗ではないのだが。

斑入りドワーフマートル

もっと寒くなると年によっては葉を落とすことさえある。斑入りマートルは少し寒さに強いのだろうか、まだ赤みが弱い。

斑入りマートル
斑入りマートルは、ドワーフよりは変化は少ない

もう少し紹介したい種類はあるが、次回につなげたいと思う。

この冬の苗たち

とても穏やかな1月が終わった。雪かきを一度もせずに過ぎた1月というのはあまり記憶にない。そのためか、1月がとても長かったという声を何度か聞いた。

天気が冬の山陰とは思えないような穏やかな日差しだったり、降っても雨。みぞれもごくわずか。雪が降っても1日のうちに一瞬降る程度だった。

ところが、立春を過ぎ、ようやく冬の山陰らしい天気になった。激しくはないものの雪が降ってはやみ、みぞれ混じりだったり。もちろん、積もるには至らない。

こういう冬なので、普段とはハーブの苗たちの様子もずいぶん違っていて驚かされる。ただ、そんな状態の苗でも、初めてみる人にとってはびっくりするような姿だったりするようなので、いくつか紹介してみたいと思う。

まずはミントの仲間。ミントは種類によって冬に完全に地上部をなくすものもあれば、案外葉が残るもの、土の表面ギリギリに小さい葉を残すものなど様々だ。

日本ハッカ
日本ハッカを始め、ミントは地上部がなくなるものも多い

日本ハッカの仲間は、完全に地上部が枯れる。これでも、秋までは青々としていたのだ。他にもレモンミントやバナナミント、ジンジャーミントなどが同様に葉がなくなる。ところがポットを外すと、中でフレッシュな地下茎がびっしりと伸びていてびっくりさせられる。

アップルミント
比較的葉が残りやすいアップルミント

一方、アップルミントは葉を少し多めに残して冬をこす。例年はそれでももっと葉が赤っぽくなったり、伸びた上の方の葉が枯れたりするのだが、今年はとても青々としている。まるで3月ぐらいの様子だ。

オレンジミント
オレンジミント。葉が真っ赤〜黒っぽくなって冬をこす

その中間が、写真のオレンジミントなど。他にもブラックペパーミントやオーデコロンミントなどが同じように地面ギリギリのところに葉っぱを残して春を待つ。どの葉も赤黒っぽく変色することが多い。

寒さに強いものは、かえってさっさと葉を落として地下でぬくぬくと春を待つ傾向が強い感じだ。コンフリーもそうだし、ルバーブなどはかなり深いところで芽を硬くして冬を過ごしている。

コンフリー
コンフリー。ちょっとだけ芽が出ている

植える時期としても極端な寒冷地でない限りおすすめなのだが、地上部がないと不安になるのももっともだ。とはいえ、下の写真のように、地植えで大株になったコンフリーも冬は葉が完全に枯れる。

地植えのコンフリー

レディスマントルは、夏の暑さに弱く、涼しいのが好きとはいえ、やはり大きな葉を広げておくのは負担なようで、夏までの葉は枯れて株元の小さな芽だけが青々としている。

レディスマントル。根はびっしり張っていても地上部はこれだけ

まだ今年は残っている方なのだが。同様にストロベリーも、大きな葉は枯れてしまって小さい葉だけになって冬をこす。

ストロベリー
ストロベリーの苗

ホップも同様。秋早いうちにさっさと葉を落としてしまって古いツルが残る。

ホップ
ホップは早ければ冬の初めには株元に新芽が見え始める

残念ながらこのツルからは春になっても葉が出てこない。株元のぎゅっと詰まった新芽が伸びてくるのを待つしかない。

まだまだ紹介したいものはたくさんあるのだが、とりあえず今日のところはここまで。これでも例年に比べると暖かいんだなあと実感させられるのだ。

菩提樹で出初め式

年が明けてから雨が降る日がなかったが、仕事始めは久しぶりの雨模様となった。

仕事始めと言っても、年末から水やりや片付けなど、細々とした仕事があるので久しぶりという感じは全くない。

朝、樹木医のMさんから連絡が入り、頼まれていたボダイジュの剪定に伺いたいとのこと。

この雨模様で剪定作業するなんて、新年から気合が入っているなぁ。と感心した。

この銀葉ボダイジュもビニールハウスの脇に植えてもう10年近くになるだろうか。夏はいい木陰を作ってくれるようになったが、さすがに大きくなりすぎた。しばらくは自分で剪定していたのだが、高所で太い枝を剪定するのは緊張するし、怖さのため、作業自体もついつい適当になってしまう。

数年前からMさんに依頼していたのだが、急な海外出張などもあり、結局は自分で行う年が続いた。なので、ようやく念願が叶いそうだ。幸先いい新年だ。

所用でビニールハウスから一旦離れ、戻ってきたらMさんが既に到着して10時のお茶中。ところが、今日は作業を諦めたという。こっちにきたらあまりに強い雨だったので断念したとのこと。安全第一なので無理は言えない。

お茶を飲みながら「本当はあまり剪定しないほうがいい」という話を聞く。強く剪定するとどうしても樹は反発して余計でも枝を伸ばそうとするとのこと。とは言え、周囲への配慮もあり、伸ばしっぱなしにするわけにもいかない。樹木医さんの腕を頼むよりほかはない。

結局午前中は作業は見送りとなったのだが、少し雨が落ち着いた夕方、Mさんがもう一度作業に現れた。残念ながら自分はいなかったのだが、スタッフが写真を残しておいてくれた。

雨の中この細い枝に登り、出初め式ばりのアクロバットで剪定作業をしていらしたとのこと。

やはりプロはすごい。

翌朝、圃場に着くと、大量の枝が剪定されて積まれていたのだが、樹を見るとそれほどではない。樹もきっと、あまり剪定されたと思わずに反発しないでいてくれると助かる。

さらに、樹木医さんから、「挿し木をするなら横に伸びようとする枝よりも、上に伸びようとする枝の方が、根を出しやすい」というアドバイスをいただく。早速剪定枝の中から真上に伸びたものを選んで挿し木を実行。このところあまり活着率が良くなかった原因の一つかもしれない。

出初め式は見れなかったが、やはり幸先いい新年になりそうだ。

ビニールハウスの張替え

今日は一年に一度、恒例のビニールハウスのビニールの張替え。本当は9月に行いたかった(以前お願いした張替え業者さんのすすめで)のだが、色々な都合で10月も終わりになってしまった。

毎年一棟ずつ張り替えて行くのだが、今年は比較的小さいビニールハウスの張替えなので少し気が楽だ。少々風が吹いてもおそらく大丈夫だろう。しかも、昨年までの経験で、事前準備もかなりできている。

ビニールハウス張替え

今日は全員で6人がかり。4人ぐらいでもできそうだが、人数が多いに越したことはない。初めて参加というメンバーはいないので、大まかな手順だけ確認してスタート。

ビニールハウス張替え

昨日古いビニールを外していたのだが、朝のうちにわか雨。パイプが濡れていて、ビニールがうまく広がるか心配したのだが、全く問題なかった。

ビニールハウス張替えサイズもぴったりだったので切って調整する箇所も少なく、特に大きなトラブルなく終わった。課題としては、足場が悪いので、次回は何か工夫をした方がよいというぐらいだろうか。

ビニールハウス張替え毎回のことだが、新しいビニールは気持ちが良い。昨日まではビニールがずいぶんコケで汚れていたので、日差しもずいぶん遮られていた。この下で育つハーブも、今日からは少し日差しが眩しいかもしれない。コケで雪が滑りにくかったので、この冬はこのハウスが一番早く雪が落ちていくだろう。

お茶の時間にはまだ余裕があったので、次の作業に取り掛かることにした。作業用の小さなビニールハウスのビニールが破れているので、昨日取り外したビニールをそちらに付け替える。大きなビニールを小さなハウスに貼るのはなかなか面倒が多い。古いビニールなので、それまでの貼りグセがついていてなおさら綺麗に貼りにくいが、使えるところは再利用せねば勿体無い。

一段落したところでちょうど10時で休憩。このころから風が強く吹き出した。小さいハウスとはいえ、この風では少し難儀することになったかもしれない。張替え業者さんが言っていた、「7時スタート、貼り終えるまでは休憩をしない」という言葉がしみじみとよくわかる。

午後からは作業用ハウスの大掃除も行う。人数が多いと、一気に進めることができるし、少人数ではどうしても息切れして「また明日にしようか」となりがちなのだが、物事を進めるエネルギーが多いというか、一度動き出したら慣性の力が働くかのように進んでいく。

結局、夕方まで、寒冷紗の片付けや、種子や挿し木を管理するハウスの内張の取付や、刈草の片付けなどみっちり行うことができた。ぐずついていた空模様も午後にはずいぶん回復。今日完了できてよかったとしみじみと思う。これでいつ雪が降っても安心だ。もちろん、まだ先になってほしいけれど。

香らない葉に潜む香り

10月とは思えない暖かい日が続いていたが、ようやく、朝夕はパーカでも着ないと体が冷えるようになってきた。

スイートバジル

畑の手入れをしていたら、目を疑うような光景が。スイートバジルの零れ種。近くに親になった大株があるので不思議ではないのだが、例年ほとんど零れ種は見ないか、見てもごく小さい双葉程度。ポット苗サイズまで育ったのは今年が初めてではないだろうか。このままどうなるか様子を見よう。

さて、この秋、下記のようなお問い合わせをいただいた。いままで何度か同じような質問があったが、ハーブの多くは触ると良い香りがするので、触っても強い香りを感じないスイートグラスは不思議に思われても当然だろう。

スイートグラスに香りがありません | ヘルプ・Q&A

結局のところ、甘く感じる成分であるクマリンは葉を乾かすことで生成される物質なので、生のままではよく香らないようだ。乾かして初めて香ってくる植物に、昔の人は神秘性を感じたのかもしれない。ホーリーグラスの別名があるのもそのためなのだろうかと思えてくる。

事実、育てているときも、香りや見た目ででなかなか判断しにくいので、雑草ではないかと不安になることが多い。そのため、現在は一部の試験栽培を除いては、鉢植えで管理している。

この秋、少し多めに収穫できたので、葉の香りが実際にどのように変わっていくのかを試してみた。

スイートグラス
生の葉。ほとんど香らない

収穫してすぐは、「そう言われれば甘い香りがするかも」という程度の微妙な香り。擦るとまだしも、鼻を近づけたぐらいでは青臭さの方が強いので、似たような雑草と比べたらきっとわからないだろう。

今回、日中エアコンがついている店内で乾燥させてみた。三日目ぐらいから甘い香りが漂い始め、乾燥から五日目、触るとカサカサと音を立てるようになったころには明らかに甘い香りが立ち始めた。

スイートグラス
乾燥5日目。甘い香りがしてくる。

さらに2~3日すると、2~3メートル離れたところでもやや気になるぐらいの強さになる。

ところが、乾燥から10日ちかくなるとまったく気にならなくなる。もちろん、鼻を近づけると香りはする。5日目以降のような強い香りの成分はすでに揮発してしまったのだろう。当たり前といえば当たり前のことなのだが。

スイートグラス
10日目。鼻を近づけないと香らない

この変化は育てて収穫・乾燥してみて初めてわかる。いままで、日数の経過による変化までは見ていなかったのでなかなか面白い経験だった。

スイートグラス、浄化用として使う場合は、火をつけて燻らせて煙を出す場合が多いのだが、きっと燻らせた場合でも乾燥の段階によってずいぶん香りも違うことだろう。次回収穫した時はこの辺りもぜひ試してみたいところだ。

また、スイートグラスの葉は、別名バイソングラスと呼ばれ、ポーランドのお酒であるズブロッカの瓶の中に入っている。

きっと製造現場でも乾燥具合を見極めて一番いいときにお酒に香りをつけるのだろう。

一時、この香りが気に入ってしばらくズブロッカを飲んでいたことがあった。

飲みながら

「ウォツカにスイートグラスを入れたらズブロッカになるんだろうな」

と思うのは自然な流れ。いつか試してみたいところだが、最適な乾燥具合を見つけた頃にはきっとアル中になっていることだろう。