アピールは秋にこそ

他の季節に咲く花が、季節を忘れたかのように秋に咲くと思わぬ表情を見せることがある。秋の空気の中で咲くことももちろんその理由の一つだろう。そして思わぬ時に咲いたことを喜ぶ我々の心によるところも大きいに違いない。

コモンラベンダーが秋に咲くと、特に美しい。花数が少ないのは仕方がないが、しっとりと朝露を身にまとい、春よりもいちだんと濃く色づいた姿はまた格別である。残念ながら、今年の夏のコンディションがあまりよくなかったせいか、圃場では秋のラベンダーはあまり楽しめなかった。まあ、秋のラベンダーは夏越しが大変なこの地域では、夏の間良く管理が出来ましたという御褒美みたいなものだと思っている。

ウッドカラミント

そのかわり、今年はウッドカラミントがなかなか良い花を咲かせている。夏前に咲くよりもむしろ大輪で花の数も多いように思える。寒さのせいか、赤みも強いようだ。カラミント・ネペトイデスほど長期間は咲かないし、ラージフラワーカラミントのような大きな花ではないが、
「おいらも結構実力はあるんだぞ」
とアピールしているかのようだ。

草に埋もれて

まだインターネットがこれほど普及していない頃、得られる情報は限られていた。外国のカタログから種を注文する時も、写真がない場合も多く、テキスト情報から想像するしかなかった。ネット検索で花の写真もパッと見つかる今とは雲泥の差である。

それゆえ、育ててみたものの期待外れに終った種類も多々ある。そういう種類に限ってカタログでは魅力的な説明がされているのだ。

Salvia tilifoliaもそのひとつ。素敵な花が咲きそうな説明に惑わされ、種を購入した。発芽率がものすごく良かったのを素直に喜ばず、怪しむべきだった。

その後すくすくと育ち、いよいよ開花。
「あれ?これかい?」
期待しすぎも有り、妙に拍子抜けしてしまった。こうなると関心が薄れていくのも速い。一年草ということもあり、それ以降育てなくなってしまった。

Salvia tilifolia
花もちもあまりよくない

それなのに、である。しっかりと種子を飛ばしていたのだ。圃場の隅に毎年生えてくるようになった。邪魔になるわけではなく、さりとて気にすることも無くそのままの状態が続いている。回りの雑草に埋もれながらも毎年伸びてくる力には少し驚いている。

Salvia tilifolia

もうひとつ、このサルビアをみると、サルビアがシソ科だということを改めて実感させられる。圃場にきた近所の方が、花の終った後の穂を見て
「あ、あんなところにシソが」
と間違えてしまったぐらいである。

最後の職場

作業をする時に欠かせないツールはまずハサミであるが、ポット上げや挿し木などをする場面も多いのでラベルと鉛筆も必携である。

ラベルはともかく、ラベルを記入するための筆記用具については、園芸に携わるようになってしばらくの間、色々な種類を試した後、ようやく鉛筆にたどり着いた。最初に手を出したのは、ホームセンターの園芸コーナーにあった園芸用の太い鉛筆である。しっかり書けるのは良いのだが、細かい字は無理。長い名前など、何を書いているか後で見ても分からなくなる。「ひまわり」とか、「あさがお」と書くには良いのだろう。

同時期に園芸用マーカーも使いはじめたのだが、これもちょっと乱雑な使い方をしたり、泥がついたラベルに記入しようものならすぐに書けなくなる。これも字が太めだし、そもそも、どこが園芸用なのか良く分からなかった。細字タイプもある汎用の油性マーカーもしばらく試した後、使わなくなった。書き味は良いものの、水や泥がかかったり、高温、低温下ではじきに使えなくなる。その上、案外耐候性は低く、数年はおろか、一年でだいぶ字が薄くなってしまい、書き直す手間も出てくる。

結局、一番シンプルで昔から使っていた鉛筆が最良だということが分かった。水に濡れようが、日に当ろうが、少々のことで問題はない。文字の太さや濃さも種類や削り具合でいかようにもなる。耐候性も一群の筆記用具の中では抜群である。実は鉛筆愛好家は結構いるようで、それぞれに柔らかめの2Bが書きやすくて良いとか、硬い4Hのほうが消えにくいとかこだわりを持って使っていらっしゃるようだ。

うちのスタッフの間にはそれほどのこだわりはないものの、いつもハサミたちとともに腰にぶら下がっているし、圃場の要所要所においてある。

もちろん、そんな過酷な場所で使うので、新品など使ったりしない。子供の使い古しや、道端で拾ったものなど、既に一度その役目を終えたような鉛筆ばかりである。

それにしても削り方が下手である。一番下のはプラグ苗を下からつっつくのでお尻のところが摩耗している。
それにしても削り方が下手である。一番下のはプラグ苗を下からつっつくのでお尻のところが摩耗している。

彼等にとってはおそらく最後の職場。頑張って欲しい。

危険な密航

朝、圃場にやってきたスタッフの車になにか付いていた。良く見るとカマキリが一匹。一体どこからついてきたのやら。彼の自宅はそれほど遠くは無いのでもしかしたら家からついてきたのかも。と言う話になった。つるつるすべる車体にしがみつくのは大変だっただろう。
「洗車してないから、案外つかまりやすかったかも」
とは車の所有者の談。

カマキリ

次の世代を残すために、少しでもエサが多そうなところに来ようとしたのだろうか。その後、しばらくするといつの間にかどこかへ行ってしまったようだ。

以前、一人のお客様に聞いた話である。
隣町に車で出かけた時のこと。目的地について車から降りると、何やら下のほうでニャーニャーと鳴き声がする。野良猫でもいるのかと思いきや、そこにいたのは自分の飼い猫。どうやら車の下部にしがみついたまま家からここまでやって来てしまったらしい。5〜6キロはあるだろうに、良く振り落とされたり、中に巻き込まれたりしなかったとびっくりしたということである。

必死でしがみついている時の猫の顔を想像すると可笑しいやら、ホッとするやらだったそうだ。

このカマキリも必死の良い旅を終えて今ごろホッとしていることだろう。

下向きのベクトル

朝夕だいぶ涼しくなってきて、早朝など、上着が無いと作業がしにくい気温になってきた。ハーブたちの成長も目に見えて遅くなりつつあり、こちらの感覚とずれが出てくるようになった。成長の具合が一週間前とあまり変わらず、「あれ、この前見たのはいつだったっけ?」てな具合である。

イタリアンパセリ

このイタリアンパセリも、夏の終わり頃、店頭でのお客様に、「10月には出せるようになりますよ」と返事をしておきながら、いまだ約束が果たせていない。もう一歩がなかなか成長しないのだ。

サクラタデ

一方で、以前もとりあげたサクラタデはその後、ゆっくりゆっくり開花して、この頃は更に蕾の色づきが良くなってきた。もう一月以上楽しませてもらっている。春からの成長と違って、下向きのベクトルで育つ秋の草花をもっと楽しみたいものだ。