三択

圃場にはピンク色をしたローズマリーが三種類ある。

花の色はさほど大きな違いはないけれど、全体的にはいずれも個性がある。なのに、どれを一番薦めるかと言われるとすぐには答えが出ない。

マジョルカピンクローズマリーは国内でも割と古くから流通しているし、花のつきも良好である。分枝が少ないのでとても特徴のある姿に育つのだが、そのため、大きくなりすぎると長く伸びた枝がたれてちょっとみっともない姿になりやすい。

マジョルカピンクローズマリー

ピンクローズマリーは分かりやすく言えば、ごく普通のローズマリーのピンク花。花付きも普通、特別よく咲くわけでも無いし、咲きにくいとも言えない。形も極々一般的だ。可もなし、不可もなし。「ピンクのローズマリーも可愛いですよね」ってぐらいにしか評しようがなかったりする。

ピンクローズマリー
ポルトグースピンクローズマリー
は全体的に繊細である。特に細身の葉がそう感じさせる。また、性質もやや弱めのように思う。品があると言えばそうなのだけれど、これもなかなか強く押せる種類でも無い。

なので、お客様に聞かれても今のところは「ま、好みですね」としか言えない。

そう言えば、昔から三択問題は苦手な方だった。決めかねるのだ。そのためなのかな?

一瞬の黒

ブラックペパーミントキャンディミントはミントの中でも紛らわしい種類である。春から秋まではパッと見ただけでは区別がつかない。香りも、二つを比べれば、より強いブラックペパーミントと、甘みのあるキャンディミントでかぎ分けることもできる。しかし、どちらか一つを差し出され、「どっちのミントだ?」と言われたらお手上げである。

だいぶ「黒」からグリーンに戻りつつある
だいぶ「黒」からグリーンに戻りつつある

それでも冬の一時だけは、見た目に違いが現れる。同じ環境で育てているとまさに寒中、ブラックペパーミントは濃いめの葉色がより濃くなり、『ブラック』と言う名にふさわしい姿に変わる。一方のキャンディミントは濃い葉色ながらも、ブラックペパーミントほどしっかりした色にはなりにくい。

キャンディミント

そんなブラックペパーミントも暖かい日が増えてくると徐々に色がグリーンに戻ってくる。

まあ、これもビニールハウスの中でと言う条件付きなので、外のふきっさらしだったらもう少し際立った違いが見えてくるかも知れない。

どちらが幸せ?

3月の声を聞くと土の中から緑色がエネルギーとなって飛び出してくる。

ハウスの周りでも頼みもしないのに一斉にヨモギが顔を見せ始めた。「あ〜、今年も元気だね〜」と一人呟く。

ヨモギ
草押さえに撒いたそば殻も地下から出てくるヨモギには無力に近い

今はまだ可愛らしい姿に見えても、あっという間に大きくなる。そして、既に土の下では強力な地下茎が繁茂していることだろう。

ひな祭りにそなえる菱餅にでも使えばまだ溜飲を下げることもできよう。もちろん、優れた薬用植物としての利用もできる。しかし残念ながら需要に対して供給が恐ろしく過剰である。今年もまた草刈りの相手として立ち向かわなくてはならない。

毎年ながら、ヨモギを見るとこれがどうしてタラゴンと同じ属なのか頭をひねりたくなる。

でもきっと、タラゴンもヨモギぐらい強力だったら雑草として嫌がられただろうし、ヨモギもタラゴンぐらい繊細だったらきっと大切に扱われたことだろう。さて、どちらが幸せなのだろうか。

ルックスは二の次?

個人的に、タイムはハーブの中でも好きな方である。大きくなりすぎて困ることも少ないし、どちらかと言えば控え目。でも、香りはしっかりしているし、きちんと育てると予想外に良い花を咲かせてくれるのも嬉しい。

場所さえ適切に選べば、比較的安定した育ち方をするのもポイントが高い。寒さにも強いので、冬も特に心配する必要がないのだが・・・。

タイムは比較的強いハーブであるが、過湿は避けた方がベターだ。冬場もそれに習い、水のやりすぎにならないように育苗している。ところが、乾燥気味にすればするほど、(且つ、寒くなればなるほど)葉の色は赤茶けてくる。株自体は健康なのに、見た目は決して良いとは言えない。写真はクリーピングレモンタイムである。

クリーピングレモンタイム

これも、少し暖かいところにおいて、水やりを多めにすればもっとグリーンがきれいになる。しかし、その株の根を見れば、根腐れ気味であることが多い。

見た目よりは株のコンディションを優先するべきなので赤茶けようがあまり気にせずにいるのだが、それでもやはり褪せた色に変わった葉を見るたびにどうにかできないものかと思うのである。

珍しい鉢植え

圃場には鉢植えがたくさんある。でも、ほとんど全てと言っていいほど親木としての鉢植えである。形良く育てるとか、花をたくさん咲かせるとか言うのとは無縁の鉢花たちだ。

形良くと言うのはともかく、花をたくさん咲かせるとそれだけ株はエネルギーを消費する。親木用としては花は咲かせない方が育てる目的にかなっているのだ。第一、挿し穂をとられたり、株分けに使われたりで花を咲かせている余裕はないと言うのが正しいかも知れない。

八重咲スイートバイオレット

そんな中でも、珍しく良く花を咲かせた鉢があった。この八重スイートバイオレットは確か昨年の秋植え替えした時、株分けのニーズから上手に逃れて、株が充実したままその後を過ごしたのだろう。見本のような咲き方である。実際この圃場では珍しい。

八重咲スイートバイオレット

あまりに珍しい?状態なのでついつい写真に撮ってしまった。