苗を発送する時に重要な役割を果たすのがこの段ボールの台である。当店から苗を受け取った方にはおなじみかもしれない。
でも、「実はこの台、子供たちが作っているんです」と聞いたらきっとびっくりされる事だろう。
一体なぜ子供たちがこの台を????
それにはこんないきさつがあったのである・・・。
通信販売で苗を送るとき、一番気を遣うのが苗の転倒。上下がひっくり返るのは言うまでもなく、横に倒れるだけでも種類によっては大きなダメージを受ける。
通販をスタートして以来、どうしたら苗が倒れたり、ずれたりする事無く、お客様の元へ届けることができるかについて工夫を続けてきた。
箱の中に仕切りをつけてみたり、新聞紙で包んでみたり、試行錯誤が続いた。
そして数年前から、このような段ボールの台と輪ゴムで固定して発送するようになった。決してこれで完成型とは思っていないのだが、いまのところ、他の方法よりは総合的にメリットが多いようだ。
さて、この台、もちろん自作であるが、発送する際に作っていたのでは間に合わない。そこで冬など、比較的時間に余裕がある時にストックを作るようにしていたのだが、毎年オンシーズンになって慌てて作るというのが常態化しつつあって、悩みの種であった。時には一日で百枚単位で使うこともあるので、少々のストックではあっという間に尽きてしまうのだ。
実際の作業としては、輪ゴム4本をかけていくだけという非常に簡単な作業なのだが、これがなかなか取りかかれない。簡単だからこそ、いつでもできそうで優先順位がさがりやすく、つい後回しにして行くうちに忙しい時期がやってくるというパターンである。
検討した結果、どこかへ外注しようと言う話になった。が、一体どこへ頼めばいいのか想像もつかなかった。
たまたま、プリザーブドフラワーを作る方と話している時に、ごく簡単な花材の処理を福祉作業所に外注しているという話をうかがう機会があった。そこで、福祉のNPOを運営する友人に相談してみたところ、「たぶん、どこでも引き受けてくれるでしょう」と言われ、近所の「放課後等デイサービス・ピピ」さんを紹介してもらったのである。
子供たちが通うデイサービスで、そのような作業を引き受けてもらえるのか、また、そんな事お願いしてもいいのだろうかと最初は思った。しかし、「ぜひやらせてください!」と快い返事を頂いたのである。
そもそも、お金を払って発注する仕事である。「子供たちに仕事をさせるのは問題ないのだろうか」というのが、率直な疑問であった。
ところが、「お金を払って仕事をお願いする」と言うことが大事だったのである。
私の疑問に、ピピのスタッフさんから後日、丁寧な回答を頂いた。
ピピでは、ハーブショップSORAMIMIさんのご厚意に甘えて「ごむぱっちん」のお仕事をしています。
「ごむぱっちん」は12㌢くらいの正方形のダンボールに縦2本・横2本輪ゴムをかけるお仕事です。
できあがったごむぱっちんは、ハーブの苗を送るときの苗の固定のために使われます。
こどもたちは、このゴムパッチンを1枚1円として10枚1セット(1セット=1ポイント=10円)で取り組んでいます。
その日の調子ややる気によって1セットする子もいれば、3セットする子もいます。
ピピは放課後等デイサービスという福祉サービスをする事業所です。
文字通り、子どもたちの放課後(学校が終わってから)の時間に開いています。
利用しているのは、障害がある子どもたちです。
ですので、ピピは子どもたちの放課後の時間に療育をするところになります。
療育というととても範囲が広いのですが、子どもひとりひとりの将来を見据えて今必要なことを楽しみながらやっていくことではないかと考えています。
子どもたちの将来を見据えた時の願い・・・これは障害があろうがなかろうが
「元気にたのしくはたらく大人になってほしい」ということではないでしょうか。
現在はキャリア教育という言葉もよく耳にするようになりました。おとなになってはたらくってどういうことなのか それを子どもたちがイメージできるような体験を用意する教育のことです。
学校によっては、町探検だったり見学だったりといった時間がそれにあたるとおもいます。
ここで大切なのは、子どもたちがイメージできる・将来の自分と重ねあわせることができるような体験だと思います。
ピピを利用している子どもたちが苦手なことの一つに、この『イメージする』ということがあります。
そして、得意なことの一つに『経験やくり返しの中で得たことは確実に自分の力にしていく』ということがあります。
ピピが活動の中でお仕事に取り組んでいる理由はここにあります。
「自分が働いた分がお金になり、自分の好きなものが買える」
これを経験することで、なんのためにはたらくのか・お仕事をするってどういうことなのかを自分なりに理解してもらい、元気にたのしくはたらく大人になるお手伝いがしたいと考えています。
ですので、ピピのお仕事の活動は「お仕事をしてポイントをためて、ほしい物を手に入れる」ところまでがセットです。
毎日少しずつポイントをためて、アイスを食べに行ったり、駄菓子屋さんで好きなおやつを買ったり、行きたいイベントの入場料をはらったり。自分の働いたお金で楽しんでいます。
ピピでは、ごむぱっちんの他にペットボトルのラミネートはがしもお仕事として用意しています。
これはピピでのお仕事の時間に取り組んだことがお家でのお手伝いにつながるといいなぁと考えているお仕事です。6~10本で1ポイント(10円)です。
「ペットボトルのラミネートはがし」と「ごむぱっちん」のお仕事の違いは、働くことでお金になって好きなモノが買える だけでなく『はたらくことがだれかの役に立つ』というはたらくということのもう一つの大切な意味を子どもたちに伝えてくれるところです。
ごむぱっちんの納品に行った時「ありがとう!たすかった!」と店長さんや奥様に言っていただいた時の子どもたちのうれしそうな笑顔。
「いつもありがとう」のメッセージと一緒にプレゼントしていただいたおやつをたべる時のこどもたちのちょっと誇らしそうな瞳。
自分たちがしたお仕事がお店の人に喜ばれている・役に立っている これをいつも子どもたちに伝えてくださるSORAMIMI店長さん奥様に心から感謝しております。
はたらくということが、ポイントをためること(お金を稼ぐこと)だけではなく その向こうにある自分のお仕事を待っている 喜んでくれる人を思い浮かべることができる貴重な経験をこどもたちは「ごむぱっちん」のお仕事の中で積んでいます。
そして回りの大人たち(親御さんやスタッフ)にも「この子たち 元気にたのしくはたらく大人にきっとなってくれるんじゃないかしら」とこどもたちの将来のイメージを抱かせてくれています。
うまくいったりいかなかったり、やる気がいい方向に発揮されたり空回りしてしまったり
日々いろんなことがありますが、子どもたちの今が確実に将来へ向かっていると実感させてくれる取り組みがお仕事の「ごむぱっちん」です。
子どもたちが楽しみながら取り組んでいます。
今後共どうぞよろしくお願いします。
放課後等デイサービス ピピ
児童発達支援管理責任者 高橋歩美
————————-
外注を思いついた当初は、簡単な仕事なのだから外注などせず、自分たちで時間を工夫して作ってコスト削減に努めるべきではないかという考えも強かったのだが、こんな子供たちの姿を伝えて頂くと、お願いして良かったと素直に思える。
さて、ピピではこのお仕事、「ごむぱっちん」という名前で呼ばれているとの事。いつしか当店でも「ごむぱっちん」と呼ぶようになってきた。
とにかく、ピピの子供たちの仕事はとても丁寧である。
当店で台を作ると、作っては箱にポンポン投げ入れるだけなので、ぐちゃぐちゃだし、取り出しにくい。
ピピで作ってもらうと、丁寧に10枚ごとにカラー輪ゴムでまとめてあり、しかも取り出しやすい。初めて受け取った時には正直、感動した。
初回納品の時には製作に携わる子供たちも、勢揃いで納品にきてくれた。
自分たちの作った製品を渡す時の誇らしい顔!
納品の挨拶はちょっぴり恥ずかしそうだったりするのも微笑ましい。
せっかくきてくれたので、ごむぱっちんを使って、どう言う風に苗を送っているのかを実演。
皆、興味深く使われかたを覗き込んでいた。
スタッフさん製作の丁寧な製作マニュアルも見せていただいた。
——————————————————————————————————————————
春からごむぱっちんの仕事をお願いして、半年が過ぎた。夏休みの間も、頑張って作ってくれたようだ。また、自分たちで働いて得たお金でアイスクリームを食べに行ったりしたとの事、きっと格別の味だったろう。
夏の終わりに、感謝の気持としてわずかではあったがお菓子をプレゼントさせて頂いた。
持って行った時の「わ、なにこれ、なにこれ」と驚く子供たちの様子が嬉しかった。これからも、苗の発送を陰で支える重要なスタッフとして頑張ってもらいたい。クリスマスには何を持って行こうか、今から考えているのである。
放課後等デイサービス・ピピのブログより
*ごむぱっちんの納品に行った時のこと
http://d.hatena.ne.jp/guriguripipi/20140328#1396440323
*おしごと「ごむぱっちん」コーナー登場のときのこと
http://d.hatena.ne.jp/guriguripipi/20140402#1396441727
*アイスを食べに行った時のこと
http://d.hatena.ne.jp/guriguripipi/20140804#1407148176
*駄菓子屋さんへいったときのこと
http://d.hatena.ne.jp/guriguripipi/20140807#1407492791