紛失防止策

昨日ようやく雨が降った。気象台による観測でも、7月28日からずっと雨が降っていないようで、91年以降最長だとか。雑草さえも枯れはじめ、圃場の大きな菩提樹の葉がパラパラと落ち始め、この間からはメキシカンブッシュセイジもぐったりとしていた。他の地域では「8月1カ月分の雨が・・・」というような豪雨災害も頻繁に耳にするほどだったので、少し分けてほしいぐらいだった。

昨日はほんの1、2時間ほどの雨だったが、それでも気分的にずいぶん楽になった。台風が接近する心配はあるものの、それに伴うもう一雨が待たれる。もちろん、暴風はゴメンだが(虫が良すぎるか)。

水源の井戸もかなり心配な状態になっていたので秋に向けてのポット上げもかなり控えめにしていた。当てにならない(笑)天気予報によれば、今後は少し雨も期待できそうなので、ようやく本腰を入れてポット上げ作業を再開した。

今日は夏前に挿木をした種類のポット上げから。プラグの底からそっと押し出してやると、ちょっと遅くなったかなというほど充実したローズマリーの根が現れた。

この押し出すときに必要なのが、プラグの底の穴に合った棒なのだが、細すぎてもうまく出てこないし、太すぎては穴に入らない。ちょうど良い具合の太さの棒が必要となる。

昔からこの作業に、割り箸、鉛筆のお尻、竹の枝、などなどを使っていたが、どれも帯に短し、タスキに長しという感が強かった。

そこで、数年前から専用のプラグ出し棒(正式名称はないが)を使うようになった。泥にまみれても腐りにくいよう、栗の材を削って作ったもの。固くて作るのには結構苦労した。

ところが、色が土色に近いので、先代のものは土に紛れてどこかへ行ってしまった。苦労して作ったのでずいぶん探したが見つからず、とてもがっかりした。

今度こそは無くさないようにと、対策を練った。鈴でもつければいいかもしれないが、作業中うるさくてかなわない。紐をつけることも考えたが、作業しづらいだろう。

とりあえず、目立つように塗ることにした。手持ちのペンキで、紅白に帯状のラインを入れた。決して見た目は良くないが、とりあえずは紛失防止になるのではと思う。

土に紛れても、見つかる(かな?)

本当はもっと良い紛失防止策があるといいのだが、まだ決定打はない。そのうち、極小の紛失防止タグとかが発売されたら埋め込んでみるのもいいかなと考えている。

ブレンドの苦労から得られたもの

仕事でも趣味でも、園芸に携わる者にとって、土のブレンドは水やりと同じぐらい永遠のテーマだと思う。

たとえ、毎年同じ植物を同じ時期に育てるような場合でも、近年の変化著しい天候に対応していくには、当然土の配合も変わらざるを得ない。

そのうえ、ここ数年は材料自体の入手の面で問題も出てきた。資材の生産元が生産をやめたり、販売元がなくなったりと、油断ができない。

すでにブレンド済みの培養土を使うとしても、価格の上昇は如実だ。

もちろん、我々のようにそれが仕事であればなおさらだし、同業者に会えば肥料の高騰についての悩みが話題となる。

圃場で使っている資材も例に漏れず年々価格上昇。腐葉土や赤玉土など、ポット上げなどに使う用土類はもちろんだが、挿し木や種まきに使う用土もここ10年で倍以上の値段になった。

挿し木や種まきに使う資材、当初は市販されているものをそのまま使っていたのだが、そのころからすでに、コストが悩みだった。

挿木用土とプラグ
挿木用土とプラグ

挿し木や種まき用だから少量で済むだろうと思うのは甘い。うまく発芽しなかったり途中で枯れたりすることもあって、廃棄する量も思いの外多い。

そんなこともあって、市販のものにパーライトやバーミキュライトなどを加え、いわば水増ししてコスト削減に努めていた。

さらに困ったのは、製品の度重なる仕様変更・価格変更。袋は変わらないのに、中身が明らかに変わっていることもあり、閉口したものだ。

こうした経緯もあり、なんとか挿し木・種まき用土を自前でブレンドできないかと模索を続けていた。

もちろん、専業のメーカーが作るものとはクオリティはもとよりコスト面で太刀打ちできないのは分かりきったことなので、むしろ、発根・発芽率を高めてポット上げまでの歩留まりを上昇できないかと試行錯誤を続けていた。

ただ、ひとつ壁になったのが、同業のA氏から聞いた言葉。

「なんとかならないかとずいぶん試してみたんですが、なかなか市販レベルのものは作れないですね・・・」

うちよりも歴史が古く、相当規模が大きい生産者でもそうなのかと思うとなかなか本腰を入れて取り組むことができなかった。

だが、昨年の秋、さまざまな資材が高騰したのをきっかけに、やはり歩留まりを高めるための挿し木・種まき用土が必要だという結論に落ち着いた。

まずはブレンド内容を模索する。

普通ならば市販されている用土を集めて、成分を調べるところだが、大量生産されている市販のブレンドに寄せる必要はない。まったく白紙の状態、むしろ自分たちが使いやすいブレンドに振るという方針でスタートすることにした。

ポイントは次の5つ

  • 普段使い慣れている資材、かつ、安定して入手が可能な資材を使うこと。
  • もう一つの悩みの種である、いままでの用土の苔の生えやすさを解決すること。
  • ラベンダーをはじめ、発根・発芽まで長期間を要するハーブ類の増殖に向いていること
  • できればコスト面でも市販の製品と遜色ないこと
  • 吸水しやすく、水捌け・水もちの性質も両立させること
  • 市販の用土と同程度またはそれ以上の発根・発芽率であること

こうして書き出してみるとなかなかハードルが高い。2番目と3番目については肥料を加えないことでなんとかなりそうだ。そもそも、発芽と発根には肥料分は必要ないので、市販の用土がわざわざ肥料を入れているのは我々にとってはむしろ余計なお世話だったりする(短期で発芽・発根するものについては有効だろう)

いちばん難しいのが最後の2つだ。挿木用土に限らず、用土類は乾燥すると水をはじきやすくなる。挿し木や種まきの直後に水やりをしようとしてもなかなか水が染み込んでくれなかったり、発芽・発根を待つ期間にうっかり乾かし過ぎてしまった時に水を吸わないで困ることもよくある。

その対策として展着剤や界面活性剤を使う手もあるが、いままで使ったことがないし、面倒くさそうなのでなんとか回避したい。同様に殺菌剤などのケミカルも使わない方針とする。

発根・発芽率は土の水分の安定が第一だが、肥料を使わないことで土が腐敗しにくいというアドバンテージはあると思う。また、肥料を入れない分、コスト面ではプラスに働きそうだ。

というような想定で試作ブレンドを作ってみた。最初の数回のブレンドは全くお話にならなかったが、この時点ですでに何が多すぎるのか、何が少なすぎるのかが混ぜてみただけでもわかる。このへんは経験のなせる技かもしれない。ポット上げに使う土でもそうだが、手や指の感触はとても大事だ。触ってみて気持ちがいい土は、おおよそ結果も良いものだ。

話はそれるが、挿し木や種まき用土は必ずしもブレンドでなくても良い。発根だけであれば、単用でかまわない。赤玉土やパーライト、砂だけでもいいし、種まきもバーミキュライトだけでかなりの種類に対応できる。実際そのようにしている園芸家も多い。ただ、いろいろな種類をいろいろな時期に挿し木・種まきしたり、主にプラグを使う場合はそれも難しいため、なるべく多くの種類に対応できるようなブレンド用土が必要となってくる。

さて、その後ブレンド・微調整を繰り返し、比較的良さそうなブレンドを二つ選び、今度は実際に使ってみる段階に入る。

ブレンド途中経過
ブレンド途中経過

この段階で、吸水や水持ち、発芽・発根についてはそこそこ使える土にはなっていたが、細かい点でいくつか不満が残った。

まず、土が渇きすぎるとサラサラになりやすく、水分をやや吸収しにくい。プラグに詰めたときに下の穴から流れ落ちてしまう。また、ポット上げするときに、プラグから取り出す時に根から用土が落ちてしまうのが気になった。

このあたりは、ココナッツピートとパーライトの割合を調整することで改善した。

また、砂が多かったせいか、土が固く締まりやすく、ごく細いタイムのような挿し木がやや困難だった。そのため、砂の量を調整した。

この変更で、渇き過ぎた時にも、今まで使っていたものよりも吸水がよくなったし、タイムの細い枝のような繊細な種類も容易に挿し木ができるようになった。

タイムも容易に挿せる
タイムも容易に挿せる

また、新ブレンドについて何にも伝えていなかったスタッフが「この土、手触りいいですね」と感想をくれ、思わずガッツポーズをしたくなった。

発芽・発根率については、市販のものと比較して特に優劣はつけにくかったのだが、長期間の使用という意味ではアドバンテージができたように思う。また、乾燥したあとの吸水性については市販のものよりいい感じを受ける(すべての市販のものとは比べていないのだが)。

発根も遜色なし

残念ながら仕入れ規模という、いかんともしがたい条件により、コスト面では納得が行くほどの数字は出せなかった。

悩みのコケについても抑制できた模様

テスト期間も含め半年以上使ってみて、以降このブレンドを使って増殖を行うことになった。それなりに手間やコストもかかったが(テストに使ったブレンドやさし穂、種子なども決して少なくはないし)、長年の悩みが少し解消できた。いまのところこれといった不満もない。

挿木用土ブレンド
挿木用土ブレンド

もともと自分たちのために企画し、自分たちだけで使うつもりだったのだが、予想外にいいものができたのでお客様にも試してもらいたいと思い、販売に踏み切ることにした。特にラベンダーやローズマリー、タイムなどの発根や発芽まで時間がかかる挿し木や種まきに試していただければと思う。いままでよりも成果を高めたいという人はもちろん、どうしても挿し木や種まきがうまくいかないという初心者の方も使ってみてほしい。

オリジナル【無肥料】挿し木・種まき用土1リットル

オリジナル【無肥料】挿し木・種まき用土10リットル

 

ローズマリーのような発根に時間がかかるものにも使いやすい

逆にあまり必要ない場面もある。すぐに発芽して定植まで短期間の野菜や花、バジルなどの種まきや、ミントなどの発根率がとてもいいハーブ類。これらは市販の手に入りやすい種まき用土などで充分だと思う。

用土のブレンドは完成までに時間もコストもかかる。手間も多いが、取り組んでみるといろいろな問題も解決できて満足度も高い。

「無理でしょ」と言われても、一度は試してみることが大切だということがわかったのも大きな収穫だった。自分の年齢的にも、今後そういう場面は増えてきそうだし。

こんな場所にはこのハーブ-プロストレイトローズマリー

匍匐性のローズマリーと聞くと、横に這って行くようなイメージを持ちやすいのだが、むしろ本領を発揮するのは壁面のようなところを上から下へ滝のように落ちて行くような育ち方をするときだと思う。

この場所は、結構通行量の多い四つ角に位置した花壇。曲がった先に大きな量販店があることで大型の納品トラックがよく曲がってくるし、逆方向から出てくる車も多い。そのため、入ってくる車の後部や後輪が当たってしまうのだろう(内輪差による事故という意味がよくわかる・・・実際作業していてもなんどかヒヤリとした)。花壇の隅がいつからから欠けるようになり、徐々に崩壊していった。

とりあえずは応急処置の為、レンガ用の接着剤で補修していた。この頃、2014年であった。

それからしばらく、崩れては応急処置を繰り返していたが、焼け石に水。修理してもしばらく経つとまた車が当たったようでレンガが落下していた。いいかげん、直すのにも疲れてきた。

そこで、少しでも目立つものを植えれば巻き込みも緩和されるのではないかと考えた。落葉するようでは意味がないので、常緑であることが条件。ある程度のサイズになって、かつ夏のガンガンの日当たりや、冬の四方八方から吹き荒ぶ風や雪にも耐え、長期間水やりなしでも耐える(通常メンテナンスは月一度なのだ)。となると非常に限られてくる。

ありきたりだが、ローズマリー、かつ、壊れたレンガの目隠しになることも考えてプロストレイトローズマリーを植えることにした。この際、成長が遅いことには目をつむる。

幸い、植えてから半年後にはそこそこのサイズとなって、下に向いて伸びるようになった。

2018年。植えてすぐの頃。まだ小さい。
2019年。見えにくいが(右上)少しレンガを覆い始めた。

2年が過ぎ、見事に崩れたレンガを覆うようになり、花もいい感じに咲くようになってきた。

2020年。この一年でずいぶん大きくなった

それでも時々こすられることがあるのか、少し枝が折れているようなことはあったのだが、レンガの損傷は見られなくなるようになった。どうやら役目を果たしてくれるようになったようだ。レンガの硬い雰囲気も和らげてくれるのも良い。

2021年。完全に角を覆う

ところが昨年の冬、現地を通りかかると、数人の作業員の方が花壇のレンガを修理していた。この時すぐに立ち止まって様子を見れば良かったのだが、あいにくそれができない状況。数日後行ってみると、花壇は車が当たらないように角をカットする形で修理されていた。

修理されてしまった花壇

ローズマリーはというと、適当に花壇の中央付近に植え替えられていた。あらかじめ伝えてもらっていたら一時隔離するなどもできたのだが。

冬ということもあるので、とりあえず強く剪定をかけてみたが、ひと月後、やはり調子が悪くなってきた。やむを得ず、元の位置の近くを改めて土づくりをして、植え戻した。掘り上げてみると残念ながら細い根はほとんど残っていなかったので、かなり厳しい状態だった。結局、夏になるまでに残念ながら息絶えてしまった。

とはいえ、十年近くの間、本来の役目をしっかり果たしたローズマリー。立派だった。

実はその後日談もあるのだが、またそれは別の機会に。

なにかの拍子

年末の大掃除、途中までは順調にいっていた。このままいい感じで終わるだろうと思っていた。

ところが例に漏れずなにかの拍子で本来の掃除から離れてしまうものだ。

なにかの拍子、今回は種子を分類していた小箱だった。

箱に入り切れないぐらい種子の小袋が乱雑に押し込まれていたのがどうも気になり、入れ直したのがいけなかった。

相当昔の日付の袋もある。冷蔵庫内とはいえ、密閉も適当、発芽率も落ちているだろうし、そろそろ処分すべきと思いつつも捨てられない。

服とか、本とかならば結構大胆に処分できるのだが、種子はなぜか処分のハードルがとても高い。

「いっそ発芽しないならば思い切れるかも・・・」

と、さしあたり二つほど袋を引っ張り出して圃場へ持って行き、適当に撒いてみた。

ひとつは三年半ほど前のローマンカモミール。もう一つは、2018年のフィバーフュー。

もしかしたら忘れた頃、春にでも奇跡的に生き残った種子が発芽するかも・・・という程度の気持ちだったのだが、今朝鉢の表面に緑のものが見えて驚いた。

ローマンカモミール
ローマンカモミール

ローマンカモミールは一斉に発芽しているし、フィバーフューもちらほら。どちらもまだこれから更に芽が出てきそうだ。

フィバーフュー
フィバーフュー

どちらもとても小さな粉のような種子なのだが、改めて種子の持つ生命力に驚く。

しかし、ローマンカモミールは普段株分で増やすことが多いし(その方が速い)。フィバーフューはもうこの冬の分はおおよそ間に合っている。

場所も確保しないといけないし、発芽したからには長期間放っておくわけにもいかない。

あの小箱さえ目に入らなかったら・・・と年明けに思ってももう遅いのである。

歴戦の勇士たち

12月に入ってようやく冬用のタイヤも準備完了。まだ半月先も雪のマークは見えないので準備が早すぎたかもという気もするが。

あわせて、ビニールハウスの積雪対策のストーブも引っ張り出してきて、少しだけ灯油を入れて点火のチェックをする。

普段は使うことはないのだが(うち1台は、介護事業所の利用者さんが作業をするときに時々使ってもらう)、積雪が予想される夕方にはビニールハウスの中央部の雪解けを促進して、倒壊を防ぐためにごく弱火で灯す。翌朝にでも、ビニールハウスの雪が自然にずり落ちるようになったら任務終了。すぐ消化だ。

こういう使い方なので、性能は二の次。信頼性第一なのだ。見た目も問題にしない。全てリユース品で、家庭で使わなくなったものの再利用。中には30年以上?の歴史がありそうなストーブもあるが、ボロボロになりながらも毎年問題なく仕事をこなしてくれる、たのもしき歴戦の勇士たちだ。むしろ、変なセンサーや制御装置付きのエリート最新機種でも劣悪環境下で動かない心配があるようなものはお話にならない。もちろん、電源が必要なストーブも論外である。

電池のケースもサビサビで使えない(使わない)ので、着火はマッチ一択。

それでも火がついて極限まで炎を絞るとしっかり朝まで燃え続け、構造的に一番弱いハウスの中央部の雪を少しでも溶かして倒壊から守ってくれている。

幸いここ数年、ひと冬の間にいちどか二度ていどの出番。とはいえ、いざという時に火がつかないとなると取り返しがつかないことになるから、今のうちに着火試験だけは完了しておく必要がある。

スタッフと「この頃の子供はストーブをマッチでつけれないだろうね~」とか話しながら作業はあっという間に完了した。

さて、歴戦の勇士たち、この冬の出番はあるだろうか。