もう一つのハードル

真夏の間は、ちょっとした作業もつい後回しになりがちだ。暑さが目に見えないハードルとなって「風がある日に」とか、「夕方に日が陰ってから」、「朝の涼しいうちに」などといいつつ、いつまでも実行できない。

それでも、少し涼しくなるだけでそのハードルは自然に下がる。少し前から気になっていたビニールハウスの裾の部分の雑草とりも、ようやく取り掛かる気になった。長期間放置して目に余るほど伸びたので重い腰をあげたというのが正直なところだが。

雑草取りといっても、もう、手では全てを取りきれない状態だったりするので、鎌も必要だ。

ところが、いざ使おうと思ったら普段使っている鎌が見当たらない。いつも他のツールと一緒に車やバイクに乗せて圃場に来ているのだが・・・。思い当たる場所を探してもどこにもない。ずいぶん探し回ったが、どうしてもみつからないので、共用の鎌を道具小屋から出してきて使うことにする。

普段それほど頻繁に使うわけではないので、サビとヤニが結構ひどい。今日の作業ではもちろんこれでも十分可能なので、そのまま使おうと思ったが、やはり気になり、軽く研ぐことにした。鎌の研ぎはお手のもの。5分もかからず刃の状態はそこそこ復活。どうせビニールハウスのパイプや、土に隠れている石に当たったりして刃も欠けやすいのであまりきっちり研ぎ上げる必要もない。

研ぎ完了

それでも、ツールが万全になるとモチベーションも上がるもので張り切って作業を開始した。鎌もまずまず活躍したのだが、極端に太くなったヨモギなどの雑草は文字通り刃が(歯が)立たず、狭い場所も多いのでむしろハサミの方が登場場面が多かった。

取り掛かれば作業はあっという間。場所もそれほど広くないところだったので、余力で他の場所も草取りができた。あまり活躍しなかった鎌も、せっかく研いだので、きちんと拭いて油を塗って次回に備えておいた。

作業が終わってから、ふと閃いて見に行ったら、個人用の鎌が、この間庭仕事に行った時持って行った熊手や草掻き鎌と一緒にツール入れの中で見つかった。どうしてこの場所に思いが及ばなかったのだろうか。

実際、草取りをしている時間よりも、鎌を探し回ったり、鎌を研いだりしている時間のほうが長かったのではなかろうか・・・?

作業のハードルを下げるには、整理整頓も必要のようだ。

日陰の2時間

今日の夕方はバイクで圃場までやってきたが、風を切ると少し肌寒さを感じるほど。もう少ししたら帰り道は上着が必要になるかも。むしろ嬉しいぐらいだが。

一番西側のビニールハウスが山の影に入ってから日没まできっちり2時間。これは、季節によらずほぼ同じ。真夏、もっと日暮れが遅い時期は、5時半ぐらいに影ができはじめる。

今は4時半となった。これから2時間ほどは涼しいし何かと作業はやりやすい。もちろん、日没直前は暗くて細かい作業はできにくくなるが。

2時間弱という時間は、区切りとしてちょうど良い。これを超えると同じ作業では飽きてダレてくるし、様々な作業をしていても、少し疲れが溜まって来る頃だ。

ましてや、日暮れという強制的に終わりが告げられる時間帯。太陽が沈むのに急かされ、1日の終わりなのに案外作業がはかどる。夏は真昼の時間が作業効率も悪いのでゆっくり体を休め、むしろ夕方の作業は気合いも入りやすい。

こうして季節に応じて、時間を自分で差配できるのは農業のいいところだし、これを上手にできるかどうかは農業に向いているかどうかにも関わってくるとおもう。

今日はこの時間を使って秋まきの種子をいくつか撒き始めたり、畑の伸び過ぎた親株の剪定、この間までの渇水時に枯れてしまったベルガモットの古い枝の剪定などができた。同じ日陰の2時間でも、少し細かい作業や体を動かす作業もしやすくなった。ありがたい限りである。

紛失防止策

昨日ようやく雨が降った。気象台による観測でも、7月28日からずっと雨が降っていないようで、91年以降最長だとか。雑草さえも枯れはじめ、圃場の大きな菩提樹の葉がパラパラと落ち始め、この間からはメキシカンブッシュセイジもぐったりとしていた。他の地域では「8月1カ月分の雨が・・・」というような豪雨災害も頻繁に耳にするほどだったので、少し分けてほしいぐらいだった。

昨日はほんの1、2時間ほどの雨だったが、それでも気分的にずいぶん楽になった。台風が接近する心配はあるものの、それに伴うもう一雨が待たれる。もちろん、暴風はゴメンだが(虫が良すぎるか)。

水源の井戸もかなり心配な状態になっていたので秋に向けてのポット上げもかなり控えめにしていた。当てにならない(笑)天気予報によれば、今後は少し雨も期待できそうなので、ようやく本腰を入れてポット上げ作業を再開した。

今日は夏前に挿木をした種類のポット上げから。プラグの底からそっと押し出してやると、ちょっと遅くなったかなというほど充実したローズマリーの根が現れた。

この押し出すときに必要なのが、プラグの底の穴に合った棒なのだが、細すぎてもうまく出てこないし、太すぎては穴に入らない。ちょうど良い具合の太さの棒が必要となる。

昔からこの作業に、割り箸、鉛筆のお尻、竹の枝、などなどを使っていたが、どれも帯に短し、タスキに長しという感が強かった。

そこで、数年前から専用のプラグ出し棒(正式名称はないが)を使うようになった。泥にまみれても腐りにくいよう、栗の材を削って作ったもの。固くて作るのには結構苦労した。

ところが、色が土色に近いので、先代のものは土に紛れてどこかへ行ってしまった。苦労して作ったのでずいぶん探したが見つからず、とてもがっかりした。

今度こそは無くさないようにと、対策を練った。鈴でもつければいいかもしれないが、作業中うるさくてかなわない。紐をつけることも考えたが、作業しづらいだろう。

とりあえず、目立つように塗ることにした。手持ちのペンキで、紅白に帯状のラインを入れた。決して見た目は良くないが、とりあえずは紛失防止になるのではと思う。

土に紛れても、見つかる(かな?)

本当はもっと良い紛失防止策があるといいのだが、まだ決定打はない。そのうち、極小の紛失防止タグとかが発売されたら埋め込んでみるのもいいかなと考えている。

ブレンドの苦労から得られたもの

仕事でも趣味でも、園芸に携わる者にとって、土のブレンドは水やりと同じぐらい永遠のテーマだと思う。

たとえ、毎年同じ植物を同じ時期に育てるような場合でも、近年の変化著しい天候に対応していくには、当然土の配合も変わらざるを得ない。

そのうえ、ここ数年は材料自体の入手の面で問題も出てきた。資材の生産元が生産をやめたり、販売元がなくなったりと、油断ができない。

すでにブレンド済みの培養土を使うとしても、価格の上昇は如実だ。

もちろん、我々のようにそれが仕事であればなおさらだし、同業者に会えば肥料の高騰についての悩みが話題となる。

圃場で使っている資材も例に漏れず年々価格上昇。腐葉土や赤玉土など、ポット上げなどに使う用土類はもちろんだが、挿し木や種まきに使う用土もここ10年で倍以上の値段になった。

挿し木や種まきに使う資材、当初は市販されているものをそのまま使っていたのだが、そのころからすでに、コストが悩みだった。

挿木用土とプラグ
挿木用土とプラグ

挿し木や種まき用だから少量で済むだろうと思うのは甘い。うまく発芽しなかったり途中で枯れたりすることもあって、廃棄する量も思いの外多い。

そんなこともあって、市販のものにパーライトやバーミキュライトなどを加え、いわば水増ししてコスト削減に努めていた。

さらに困ったのは、製品の度重なる仕様変更・価格変更。袋は変わらないのに、中身が明らかに変わっていることもあり、閉口したものだ。

こうした経緯もあり、なんとか挿し木・種まき用土を自前でブレンドできないかと模索を続けていた。

もちろん、専業のメーカーが作るものとはクオリティはもとよりコスト面で太刀打ちできないのは分かりきったことなので、むしろ、発根・発芽率を高めてポット上げまでの歩留まりを上昇できないかと試行錯誤を続けていた。

ただ、ひとつ壁になったのが、同業のA氏から聞いた言葉。

「なんとかならないかとずいぶん試してみたんですが、なかなか市販レベルのものは作れないですね・・・」

うちよりも歴史が古く、相当規模が大きい生産者でもそうなのかと思うとなかなか本腰を入れて取り組むことができなかった。

だが、昨年の秋、さまざまな資材が高騰したのをきっかけに、やはり歩留まりを高めるための挿し木・種まき用土が必要だという結論に落ち着いた。

まずはブレンド内容を模索する。

普通ならば市販されている用土を集めて、成分を調べるところだが、大量生産されている市販のブレンドに寄せる必要はない。まったく白紙の状態、むしろ自分たちが使いやすいブレンドに振るという方針でスタートすることにした。

ポイントは次の5つ

  • 普段使い慣れている資材、かつ、安定して入手が可能な資材を使うこと。
  • もう一つの悩みの種である、いままでの用土の苔の生えやすさを解決すること。
  • ラベンダーをはじめ、発根・発芽まで長期間を要するハーブ類の増殖に向いていること
  • できればコスト面でも市販の製品と遜色ないこと
  • 吸水しやすく、水捌け・水もちの性質も両立させること
  • 市販の用土と同程度またはそれ以上の発根・発芽率であること

こうして書き出してみるとなかなかハードルが高い。2番目と3番目については肥料を加えないことでなんとかなりそうだ。そもそも、発芽と発根には肥料分は必要ないので、市販の用土がわざわざ肥料を入れているのは我々にとってはむしろ余計なお世話だったりする(短期で発芽・発根するものについては有効だろう)

いちばん難しいのが最後の2つだ。挿木用土に限らず、用土類は乾燥すると水をはじきやすくなる。挿し木や種まきの直後に水やりをしようとしてもなかなか水が染み込んでくれなかったり、発芽・発根を待つ期間にうっかり乾かし過ぎてしまった時に水を吸わないで困ることもよくある。

その対策として展着剤や界面活性剤を使う手もあるが、いままで使ったことがないし、面倒くさそうなのでなんとか回避したい。同様に殺菌剤などのケミカルも使わない方針とする。

発根・発芽率は土の水分の安定が第一だが、肥料を使わないことで土が腐敗しにくいというアドバンテージはあると思う。また、肥料を入れない分、コスト面ではプラスに働きそうだ。

というような想定で試作ブレンドを作ってみた。最初の数回のブレンドは全くお話にならなかったが、この時点ですでに何が多すぎるのか、何が少なすぎるのかが混ぜてみただけでもわかる。このへんは経験のなせる技かもしれない。ポット上げに使う土でもそうだが、手や指の感触はとても大事だ。触ってみて気持ちがいい土は、おおよそ結果も良いものだ。

話はそれるが、挿し木や種まき用土は必ずしもブレンドでなくても良い。発根だけであれば、単用でかまわない。赤玉土やパーライト、砂だけでもいいし、種まきもバーミキュライトだけでかなりの種類に対応できる。実際そのようにしている園芸家も多い。ただ、いろいろな種類をいろいろな時期に挿し木・種まきしたり、主にプラグを使う場合はそれも難しいため、なるべく多くの種類に対応できるようなブレンド用土が必要となってくる。

さて、その後ブレンド・微調整を繰り返し、比較的良さそうなブレンドを二つ選び、今度は実際に使ってみる段階に入る。

ブレンド途中経過
ブレンド途中経過

この段階で、吸水や水持ち、発芽・発根についてはそこそこ使える土にはなっていたが、細かい点でいくつか不満が残った。

まず、土が渇きすぎるとサラサラになりやすく、水分をやや吸収しにくい。プラグに詰めたときに下の穴から流れ落ちてしまう。また、ポット上げするときに、プラグから取り出す時に根から用土が落ちてしまうのが気になった。

このあたりは、ココナッツピートとパーライトの割合を調整することで改善した。

また、砂が多かったせいか、土が固く締まりやすく、ごく細いタイムのような挿し木がやや困難だった。そのため、砂の量を調整した。

この変更で、渇き過ぎた時にも、今まで使っていたものよりも吸水がよくなったし、タイムの細い枝のような繊細な種類も容易に挿し木ができるようになった。

タイムも容易に挿せる
タイムも容易に挿せる

また、新ブレンドについて何にも伝えていなかったスタッフが「この土、手触りいいですね」と感想をくれ、思わずガッツポーズをしたくなった。

発芽・発根率については、市販のものと比較して特に優劣はつけにくかったのだが、長期間の使用という意味ではアドバンテージができたように思う。また、乾燥したあとの吸水性については市販のものよりいい感じを受ける(すべての市販のものとは比べていないのだが)。

発根も遜色なし

残念ながら仕入れ規模という、いかんともしがたい条件により、コスト面では納得が行くほどの数字は出せなかった。

悩みのコケについても抑制できた模様

テスト期間も含め半年以上使ってみて、以降このブレンドを使って増殖を行うことになった。それなりに手間やコストもかかったが(テストに使ったブレンドやさし穂、種子なども決して少なくはないし)、長年の悩みが少し解消できた。いまのところこれといった不満もない。

挿木用土ブレンド
挿木用土ブレンド

もともと自分たちのために企画し、自分たちだけで使うつもりだったのだが、予想外にいいものができたのでお客様にも試してもらいたいと思い、販売に踏み切ることにした。特にラベンダーやローズマリー、タイムなどの発根や発芽まで時間がかかる挿し木や種まきに試していただければと思う。いままでよりも成果を高めたいという人はもちろん、どうしても挿し木や種まきがうまくいかないという初心者の方も使ってみてほしい。

オリジナル【無肥料】挿し木・種まき用土1リットル

オリジナル【無肥料】挿し木・種まき用土10リットル

 

ローズマリーのような発根に時間がかかるものにも使いやすい

逆にあまり必要ない場面もある。すぐに発芽して定植まで短期間の野菜や花、バジルなどの種まきや、ミントなどの発根率がとてもいいハーブ類。これらは市販の手に入りやすい種まき用土などで充分だと思う。

用土のブレンドは完成までに時間もコストもかかる。手間も多いが、取り組んでみるといろいろな問題も解決できて満足度も高い。

「無理でしょ」と言われても、一度は試してみることが大切だということがわかったのも大きな収穫だった。自分の年齢的にも、今後そういう場面は増えてきそうだし。

食わず嫌いと適材適所

新しいもの(具体的には電動草刈機だが)を使い始めたことがきっかけになって、いままで使わなかったものにも目が行くようになった。

草刈り機の草を刈る部品には、金属製の草刈り刃と、ナイロンコードがある。いままでは草刈り刃ばかりを使っていた。

ナイロンコードも今はだいぶ市民権を得た感じがするが、出た当初は「細かい砂や葉のクズばかり飛んできて使い物にはならない」という印象だった。

それに、草をコードが切っていく際のバリバリという音も耳障りだった。(金属の刃が石に当たる「チューン」という音もずいぶん耳障りだが)。

今年、電動草刈機導入でエンジンの音が気になっていた女性スタッフも草刈りができるようになったが、やはり金属の刃を使うことには若干恐怖心があるようだ。

今回、草刈機が2台になったこともあり、エンジンの草刈機には金属刃を使い、電動にはナイロンコードという選択肢が可能となった。

そこで、ホームセンターに行ったついでにコーナーを冷やかしてみた。

普段意識していないと、わからないものだ。ナイロンコードタイプだけでもいろいろな種類が並んでいた。つい目移りするが、ごくシンプルなタイプが千円台で売られている。数千円はするものかと思っていたので、気軽に購入。ダメ元でも構わない。

 

草刈りナイロンコード
草刈りナイロンコード

ところが使ってみたらこれがなかなか良い。30分や1時間使ってもコードが使えないほど短くなることもない。

しかも、いままで金属刃では非常に難儀していたビニールハウスの裾ギリギリの草を刈るときに抜群の威力を発揮した。

草刈りがしにくいハウスとハウスの間
草刈りがしにくいハウスとハウスの間

ビニールハウスの裾近くには、ビニールはもちろんだが、ビニールを上から押さえる「マイカ線(地域によっては別の呼び方もあるかもしれない)」、マイカ線を張るためのパイプ、パイプを固定するためのアンカーが設置されている。これらが金属刃と非常に相性が悪い。アンカーと刃が当たるとものすごい衝撃で、ときには刃も欠ける。マイカ線も刃に絡むとうんざりするほど厄介だ。しかもそれらが雑草に隠されているところを刈っていくわけなので、慎重に作業していても10メートルに一度ぐらいは引っかかったりする。

金属刃ではとても面倒くさいハウスの地際
金属刃ではとても面倒くさいハウスの地際

なのでこのビニールハウス際の草刈りは、あまり疲れている時や、暑さがひどい時などには避けたい作業だ。

そういったストレスが、ナイロンコードではほぼ皆無。なぜ早く使わなかったのだろう。

もちろん、障害物の少ない、広々としたところや草でも成長して木質化したような枝があるような場所では金属の刃が断然有利だ。適材適所なので上手に使い分けると作業も早い。

女性スタッフにも好評
女性スタッフにも好評

金属の鋭い刃がないということで女性陣にはやはり好評だった。だから安全かと油断するのはもってのほかだが、怖がらずに使ってもらえるのは助かる。

知らず知らず、食わず嫌いの傾向が強くなっていたのかもしれない。もっと積極的に新しいものにも関心を示すようにしたいものだ。