隣の芝生

「隣の芝生は青い」
本当にそうだよなとよく思う。人の心理をよく表していることばだ。

とある二人のお客様。お二人とも当店がお庭の手入れをしているのだが、50mと離れていない同じ地区に住んでいらっしゃってお友達同士。

お互いのお家を行き来されることもしょっちゅう。どちらもガーデニングがお好きなので、お庭の話になることも多いようだ。

それぞれのお庭には、かなり違った雰囲気のハーブや植物が植えてあるが、そのお庭でどういった性質のものならよく育つかという基準で選んだものだ。というよりも、そのお庭でよく育つものが現在残っているという状態と言った方が正しいかもしれない。

このような状態ならば、「隣の芝生は青い」以上に相手のお庭が気になってしまうのは当然のことだ。

なので、我々には、
「◯◯ちゃんのお庭の、あのピンクのお花、うちにも植えれないかしら」
というリクエストが両方からやってくるのだが、大抵はお断りせざるを得ない場合が多い。

同じ地区で、数軒離れただけの場所なのに、風当たりや日照、土のコンディションなども全然違うのだ。無理やり植えたところで、うまくいかなくて余計にがっかりされるのも気の毒だ。

どちらの庭もそれぞれの魅力があるのに・・・と思いつつ、毎年のように繰り返されるリクエストを上手に説明してお断りするのも仕事の一つだったりする。

50mどころか、50cm離れていても育ちが大いに違うという場合もある。

当店のビニールハウスの北側にある一つの花壇。ビニールハウスが日よけになる場所なので、日当たりを好む種類は植えにくい。

そこで、サルビアの仲間でも、湿り気とやや日陰を好む性質の種類を植えこんだ。
黄花アキギリ
わりと放置状態ではあるが、いま、日本のサルビアの一つである黄花アキギリが満開である。
黄花アキギリはもともと山地の日陰をこのみ、以前、近くの里山の北側の道路脇に見事に群生していて息を飲んだことがある。そこは夏の間、鬱蒼と茂る木々の陰になって朝夕ぐらいしか日が当たらないような場所だった。

なので、日当たりが良すぎると葉が傷んでしまいやすい。とはいえ、日本のものだし、丈夫は丈夫なようで、少々葉が傷んでも花は咲く。だが、せっかく花が咲いたときに葉がボロボロだとやはりみすぼらしく感じる。しっとりと優しいグリーンの葉が残ってこそこの黄色が映える。

この花壇は、西側はすこし空いているので西日がいっとき差し込むのだが、今年は黄花アキギリを覆うように隣の食用ホオズキが伸びて夏の強い西日を遮ってくれたようだ。これも良かったのかもしれない。

ところが、この花壇の西側には花が紫色のアキギリを植えていた。性質もよく似ており、どちらかといえば黄花アキギリよりも強いぐらいなのだが、これがさっぱり。葉を見てもわかるように西日によるダメージが大きいようだ。台風の多かったこの夏なので風による傷みもあったのかもしれない。花も咲いているのに、葉の痛々しさが目立ってしまう。

アキギリ
また、食用ホオズキや他のサルビアの仲間が東側にあるせいで、朝からお昼過ぎまではしっかり陰になり、そのあと急に強い日差しが当たるのでよけいに過酷だったのではないかと思っている。きっと、すぐ近くの黄花アキギリを羨ましく思っていることだろう。

花が終わったら植え替えをしてやり、黄花アキギリの側に移動させてやるべきか。来年は入れ替えてみようか・・・などなど、いま思案中である。

 

黄花アキギリ

アキギリ

食用ホオズキゴールデンベリー

捕虫サルビア

秋も深まってくると庭の色も一つ、また一つと数が減ってくる。
年の終わりを感じ、落ち着きを増してくる庭を眺めるのもまた良いものだ。

夏から秋の主役だったセイジやサルビアの仲間も一つずつ花が終り、冬に備えて剪定をするのもこの季節だ。

そんな季節、まだ一角を鮮やかに彩っているのが、サルビア・マドレンシス(別名、イエローマジェスティ)である。
サルビア・マドレンシス
サルビア・マドレンシスは秋に咲くサルビアの仲間でも特に大型になる(というか、背が高くなる)。はじめて育てた時など、見上げたさらに上に花が咲いてしまい、写真を撮るのにも苦労した覚えがある。

第一、分枝しにくいのでそれほど大きくなってしまうと、秋の台風で折れてしまうことも多い。こういった反省から夏の間に一度か二度剪定をして枝分かれさせて、背丈を程々にとどめておくようにしている。

おそらく、夏の間に出来始めた花芽が剪定によって失われたことも開花時期が遅くなった一因だと思う。今年は台風も多かったので、よけいに強めに刈り込んだこともあって、腰まで届くか届かないかで花が咲いた。青空に黄色い花が映えるのも悪くはないけれど、これぐらいが邪魔にならなくてちょうど良い。青空をバックにするより、葉のグリーンをバックにしたほうが写真映りもいい感じだ。

ところで、このマドレンシスに限ったことではないが、サルビアの仲間には花茎が粘つくものが多い。育てたりする上では困らないが、花に近寄って写真を取ろうとすると、小さな虫がくっついたまま死んでいて見た目が悪いことこの上ない。

サルビア・マドレンシス

大きなガガンボみたいな虫までこの通り。黄色い色に誘引される昆虫も多いというが、こういうシーンを見て吸着タイプの捕虫シートは作られたのだろうか?

サルビア・マドレンシス

こんな場所にはこのハーブ-黄花アキギリ

セイジとか、サルビアというと地中海とか中南米というイメージがわきやすいが、世界中に分布する属なので日本にもセイジ(サルビア属)は何種類もある。

サルビア属であってもさすが日本原産というべきか、木陰でひっそりと咲くタイプが多い。なかでも山野草として愛されているアキギリは典型的だ。

その名の通り、秋に咲くので夏にも強そうに思うが、乾燥と強光線は苦手である。大きくて柔らかい葉は、夏の強い日差しに茶色くカリカリになってしまうのだ。

黄花アキギリ
この花壇では、明るい花色がお好きなオーナーさんのご希望で黄花アキギリを定植。南側にメキシカンブッシュセイジの大株を植え、昼頃からの直射日光が防げるようにした。(というより、メキシカンブッシュセイジの大株を花壇の中心に・・・というご希望だったので、陰になったところに黄花アキギリを植えたというのが正しいが。)幸い、裏山が迫っている場所なので夕日も心配がいらない。実質日が当るのは朝10時ぐらいまでだろうか。メキシカンブッシュセイジは、冬から春は地上部が無くなるし、背が高くなり、直立した枝がたくさん出るので株元は夏に強い植物を植えるのにちょうど良い。春先に咲くような、冬には日が欲しいけれど暑さに弱いもの(本当は大きな落葉樹の下が一番良いのだが)を組み合わせて植えるのに重宝する。

今年6月に定植し、梅雨の間に活着。真夏、まだメキシカンブッシュセイジが株が十分に広がらなかったため、8月終わりには葉が傷みはじめて相当心配した。柔らかで大きな葉も持ち味なのに、葉が傷んではせっかくの良さも半減してしまう。でも、その後メキシカンブッシュセイジの急激な成長もあって、コンディションも持ち直し、10月終わりにはかなり花が楽しめるようになった。

ちょうど、この場所から少し離れた峠に、黄花アキギリの自生地がある。そこもこの写真のように木漏れ日に映える花が群生し、息を飲むほど美しい。ここ数年足を運んでないけれど、今も広がっているだろうか。

こんな場所にはこのハーブ-セイジ

ハーブの代表種でありながら、案外使われていない、そして案外上手に育てるのが厄介なのがこのセイジ(コモンセイジ、ガーデンセイジ)だったりする。

特にここ松江を含め、暖地では、一応育つには育つのだが、数年または一年を待たずして枯れたり、ダラッと枝が伸びやすく、美しく育ちにくいことが多い。(もちろん、涼しい地域ではもっと良好に育ちやすい。)

こういう場合の常套句が、「風通し、水はけを良く、株元に光があたるよう」などというセリフなのだが、そう言っても、前後左右に十分なスペースがあり、日当り良好水はけ抜群なんていうお庭はそうそうない。

コモンセイジ

この場所はちょっとそう言う意味では特殊なほう。駐車場脇の花壇で、風や日を遮る者は周囲にない。南側、西側は道路、東側と北側が広い駐車スペース。しかも花壇で30cm以上の高さがある。これ以上の場所はそうそうないかもしれない。

なので生育もいまのところトラブル無し。株もとの葉も落ちることなく、葉色も見事である。今後のためを思うと、少し切り戻して新芽を出してやりたい。スタッフで相談したが、ここは「見せる花壇」なので、せっかく調子の良い葉を冬に見せないのはもったいないということで今秋はこのままに。雪でつぶれることもあるだろうから春先に強剪定をかけようと言うことになった。

こんな場所にはこのハーブ-メキシカンブッシュセイジ

アメジストセイジ、レウカンサセイジ、ビロウドランなど、色々な名前で呼ばれるメキシカンブッシュセイジ。秋の花壇の定番レギュラーでもある。

メキシカンブッシュセイジ
日当りさえ良ければ、それほど場所を選ばないが、花の時期には胸の高さぐらいまで伸びてくる。このお庭ではエゴノキを背に南向きに植えてあるので、葉が少なくて寂しいエゴノキの株元をうまくカバーしている。夏でやや葉が傷み気味のエゴノキから目をそらすのにも一役買っている。一方で、冬は地上部がほぼ無くなってしまうので、気になるのなら冬の対策も考えておくべきだろう。(葉色が美しい植物等や、小さめの花ものを周りに植えるなどして目をひかせたい。)

ただ、初夏以降は株幅も広がるので、下になる芝はやや徒長気味にならざるを得ない。地面に寝てしまうような枝はむしろ剪定してしまうほうが良い。そのためにも極度の過湿は控えたいところだ。また、株は年々広がっていく。冬初めの剪定時か、春先に周囲から整理したり、数年ごとに掘り上げて植え替えをしてやると株の勢いのためにも良いだろう。