百葉箱

ハーブに限らず、植物を育てるときには、記録が大事だということをいろいろなところで書いたり言葉にしている。

それなのに、かなり大事な情報である気温については、忙しさを理由にそれほど熱心に記録していなかった。さすがに、毎日のように猛暑日が続くようなときや、「今日はこの冬一番の寒さ」なんていうときには温度計を見たり、日記にちょこっと書き付けてはいるのだが。

そもそも、温度計が置いてあるのは無加温とはいえビニールハウスの中。外の畑のハーブたちのことを考えても、屋外の気温を日々チェックしないとな・・・とずっと思っていた。

とはいえ、屋外での気温を測るには雨・風・雪・直射日光など、防がねばならないものがたくさんある。

理想は百葉箱なのだが、調べてみるとこれが結構高価である。本格的なものは数十万。簡易型のものでも数万というお値段。「この地の気温を正確に記録して後世のために役立てたい」というぐらいの気持ちがなくてはおいそれと手は出せない。

とりあえず、雨風を防げて、屋外で気温が計測できればよいという条件を満たすにはどうすればよいか・・・と。ここ1年ほど考え続けていた。

いっとき、自作で百葉箱を作ろうかと考えてもみたが、木製の箱を作るとなると、かなり本腰を入れねばならない。雨風が防げ、かつ、通気性のための隙間も空いていなければならない。百葉箱の独特のデザインには理由があるのだ。日々の作業の片手間に作るにはちょっとハードルが高い。

せめて、箱状のものがすでにできていれば・・・。と、ふと横を見ると、あったのだ。
鉢植えセット専用カバー
初心者用ハーブ鉢植えセット専用鉢カバーである。木製だし、もともと通気性良くできている。

鉢植えセット専用カバー

底も水が抜けやすいよう大きく開いている。なので屋根さえつければ百葉箱らしきものができるかもしれない。

年末から鉢カバーを手に取っては、ひっくり返したり、横に倒してみたり、いろいろ考えながら百葉箱への改造方法を思案する。

屋根をとりつけるための妻部分ができればなんとかなりそうな気がした。

材料も、わざわざ用意しなくても、手持ちにあるものでまかなえそうだ。

使わずにとっていた端材や、薪ストーブで燃やそうとしていた木の切れ端を集めたら十分間に合った。

材料

鉢植えセット専用鉢カバーは、余裕を持って一番大きい8号用のを使う。幸い、試作品でまだ塗装もしていないのが残っていた。

木切れは鉢カバーに合わせて切断。設計図も引かず、現場で合わせて切っていく。屋根の形が左右微妙に違ってしまった。

表面がザラザラだが、塗装したらそこそこ見えるようになるだろう。
百葉箱
妻の部分さえ完成したらあとは楽だった。実質作業時間約2時間。材料を探したり、選んだりするのに一番時間がかかった。材料費は0円である。釘は揃いのものがなかったので、いろいろなサイズや形のをごっちゃ混ぜだが、別に構わない。
百葉箱
設計図もなしで作った割にはまずまずかなと、一人で満足する。
百葉箱開閉部
かなり適当な細工だが、中に入れる温湿度計を取り出すための開き窓もつけた。蝶番も丁度良いサイズのが見つかった。

百葉箱開閉部

サビついていて動きにくいのを潤滑油をさしたらスムーズに開閉できるよういなった。

置き場も今日のところはとりあえず、かつて鳥の餌台を置いていた杭の上に乗せてみた。

設置

結構いい感じである。でも、第一印象は、百葉箱というよりは高床式倉庫。

明日以降、塗装したり、しっかり固定できるよう、台を改造しようと思う。屋根の頂部が空いたままなので、雨が入らないようカバーも付けたい(棟包みというらしい)。

横殴りの雨などでは中に雨が吹き込むかもしれないけれど、また様子を見て手を加えたい。
温度計
これで明日から気温をしっかり記録していけそうだ。記録する習慣がついたら温湿度計もグレードアップしたいと思っている。

たどり着く場所

園芸作業には、結構いろいろな道具が必要だ。ハサミやジョウロから始まって、細かいものまで数え上げれば膨大な数になるだろう。

そんな道具たち、はじめの頃はもちろん市販品を購入して使うのだが、そのうち何かしら不満な点が出てくることが多い。

買い替えたり、他の道具と組み合わせたり、改造したり。行き着くところは自作である。

例えば、種まきや発芽した種子を小さいプラグに植え直すときの作業。

一般的には指でそっと行なうか、さもなければピンセットのようなものを使うところである。

ピンセット
片側にはご丁寧に移植用のヘラまで付いているのだが・・・

ご丁寧に、そういう作業のための商品も売られている。相当昔に購入して、最初使っていたのだが、なんとなく使いにくくて、「買ったのに使わない」アイテムになってしまった。ま、他にもたくさんあるんだけど。

そのうち、ピンセットを使わず、鉛筆を使うようになった。鉛筆のサイズというのは子供の頃から「字を書く」という細かい作業を続けてきたので、同じような細かい作業をするのに都合が良い。ラベルに記入するときに使っているので、いつも手元にあるものだし。

だが、鉛筆では先端の尖り具合や、ちょっとした使い勝手に満足がいかなくなり、似たようなサイズに竹を切ったものを使うようになった。

ヘラ

そして現在、更に使いやすいよう徐々に改良を重ねてこんな形にたどり着いた。
へら
先端が尖った方は、発芽したばかりの細かい種子を分けたり、小さな種子や発芽をプラグに入れるのに役立つし、平たい方は種まきの穴を開けたり、種子を蒔いた後に土をよそうときにちょうどいいようにしてある。

へら

竹を削っただけの極めてシンプルな形なのだが、上記のピンセットよりもはるかに使い勝手が良い。

ところが、今年、これと非常によく似た製品を見つけてびっくりした。

PCを分解するときに使うへらである。「Spudger」と言うらしい(なんて読むんだろう)。

ノートパソコンのハードディスクを入れ替えようとしたときに、分解解説のしてあるサイトで推奨されていて購入。

商品紹介の画像で見たときも「似ているなあ」と思ったのだが、手にしてみると更にびっくり、自作のへらとサイズや形、持った具合までがよく似ていた。尖った先と、平たくなったもう一方の側といい、驚きであった。

もちろん素材は全然違うのだが、発芽した苗の移植と、PCの分解。細かい作業には変わりない。突き詰めていくと同じような形にたどり着くのだろうか。

このPC用のへらも、誰かが市販品に不満を持って作り出したのではないかと思うとなぜか親近感が湧いてくるのである。

消耗品

農作業では色々な消耗品が必要である。用土や肥料をはじめ、紐や支柱など、数えていったらきりが無いが、比較的高価な部類に入る道具類もけっこう多い。

むろん、滅多に使わないものに高級品を使う必要は無いが、毎日使うようなものや、精度が求められるものはすこしぐらい高くても、気持ち良く作業ができるし結局は元がとれる。

ときには安いものをこまめに取り替える方が良い場合もあるので、使う頻度や必要とされる精度、作業の重要度によって選ぶようにしている。とはいえ、消耗品の部類に入るものでも、自分は基本的に、100均の商品とは相性が悪いようで、購入してがっかりすることが多く、手を出さないようにしている。

しかし、長い間、どちらにも決めかねていたものがある。それが草刈機の刃である。
草刈り
シーズンは限られているとはいえ、草が勢い良く伸びる季節には週に1回以上の草刈りを行う。

圃場の周りは斜面有り、凸凹あり、石が露出していたり、砂利がある場所など、草刈りがしにくいところが多い。時々、石に刃が当たって、「キーン」という不快な音と共に火花が飛ぶこともよくある。そんな場所なので、草刈機の刃は傷みやすい。

その昔、草刈機を手に入れた頃は、現在のようなチップ入りの刃はまだ高価で、鉄板の先が削られて一枚の刃になっているタイプだった。それでもけっこう高かったので、時々ヤスリを使って研いでいたりした。手間ばっかりかかって、その割に切れ味は悪かった。

その後、刃先にチップがついたチップソーが出回るようになってきた。「かなりよく切れるし、耐久性も良い」と聞いたが、一枚4千円だと聞き、手が出なかった。いつしか、2千円台のものが普及してきて、使うようになったのだが、その頃から、一枚千円を切るような激安の刃がでてきた(もちろん耐久性はひどかったが)。

種類も増えてきて、毎回ホームセンターで、どれを買うか迷うようになった。チップソーも、安めのものは石に当たってすぐにチップがとれるので、激安のものをこまめに替えるのも一つの選択肢だった。実際何枚かワンセットになったものだと、一枚が500円を切るようなものも出てきた(もしかしたら今なら100均にもあるかもしれない)。

ただ、こまめに替えていると、使い古しの刃がどんどん溜まり、あまり気分が良いものでは無い。なので、「荒地用」と書いてあるような、耐久性がある、やや高価な刃を使ってみたりするのだが、これも一年はもたない。最初の数回は文句の無い切れ味なのだが、徐々にチップが欠けていくうちに切れ味は落ちていく。一月ぐらい経つと明らかに切れ味が劣ってきたのを実感するようになる。

結局、どちらか結論がでないまま数年が経った。その間、激安刃と高級刃の間を行ったり来たりしていた。

ところが今年の春、いままで見なかったタイプの刃をホームセンターで目にした。

一見すると、これで切れるんかいな?という感じだ。それでも値段が2千円を切る程度だし、「石に強い」という文句につられ、試す価値ありと、一枚購入してみた。

草刈機の刃
パッと見には、切れそうに見えない形状だが・・・

実際使ってみると、切れ味は悪く無い。耐久性はというと、これが素晴らしい。いつもならチップが飛んでしまうような石に強く当たって火花が飛んでも、後で見ると刃は大丈夫。

理屈はよくわからないが、春に購入して、そろそろ草刈りが終わるシーズンなのに、それほど不満を感じ無い切れ味である。

どうやら石が多いこの場所で草刈りをするには最適の種類のようだ。障害物が少ない畑や、田んぼの畦のようなところなら、一体どれぐらい長く使えるのだろうかと思うほどだ。
草刈機の刃
あまりに気に入ったので夏前にもう一枚手に入れたぐらいだが、今年は結局春に購入した一枚でシーズンをほぼ終えることができそうだ。

「消耗品」ではあるが、「消耗品」とは呼びたくない満足感を与えてくれた。開発した人に拍手を送りたい。パチパチパチ。

ポイズンリムーバー

ここ数年、10月に入ると休日返上で親戚へ秋の番茶摘みの手伝いに向かう。

夏までのお茶摘みは暑さが厳しくて辛いものがあるが、秋は比較的涼しくなってからなので、その点は楽である。

ただ、この時期はツツガムシ、チャドクガなど、危険な昆虫がいて厄介だ。天気が良い日には特にスズメバチに気をつけなくてはならない。

オオスズメバチはものすごい羽音にギョッとさせられるが、それほどたくさんはいないし、今のところ危ない目にあったことはない。

ところが、ちょうどこの季節、お茶の花が満開で、その花の花粉を目指してキイロスズメバチがやってくる。お茶を摘んでいるすぐそばでも花に潜り込んでは飛び出していく。小さめのスズメバチとはいえ、畑中、無数に飛び交っているので初めて見たら少しビックリするに違いない。

お茶の花
お茶の花

自分も最初は怖さを覚えたが、こちらから手を出さない限りは問題がないので今はあまり気にせずに作業を行えるようになった。

しかし、先日の作業ではついに被害者が出てしまった。

作業の手が足りなくて、スタッフの一人も手伝いに行き、摘んだお茶を運搬する作業をしていた。お茶が詰められた大きな袋をかついで運ぶのだが、運悪くこの袋にキイロスズメバチが入っていたようだ。肩にせおった袋の中から首筋を刺されてしまったのだ。

お茶つみ

すぐに応急措置をと思っても、ここは人里離れた山の中。まだ作業の途中なので、中断して戻るわけにもいかない。ファーストエイドキットも手元にない。とにかく、毒だけでも絞り出そうと、刺された箇所をギュッと爪で押し出すようにして毒出しを試みた。爪の跡がこれでもかというほど首筋についてしまった。

幸い、その後気持ち悪くなったり、呼吸が苦しくなるということもなく、無事加工場へ戻って薬をつけることができて胸をなでおろした。

本人は痛みを感じながらも「今日、お酒が飲めないのはいやだなぁ」なんて言っていたが、皆が、「首のところがすごく腫れるかも」とか脅したので、気が気ではなかったかもしれない。心配していたが、その後悪化することもなかったようだ。

こんなこともあったので、早速毒の吸い出しにつかう「ポイズンリムーバー」なるものを手に入れた。
ポイズンリムーバー
実は前からちょっと欲しかったのだが、ちょうどいいきっかけだ(ちょうどいい言い訳だ)。普段の作業でも蜂に刺されたりすることがあるので、あった方がいいだろう。

マンガや映画などでは口で毒出しをするというのがお決まりなのだが、自分一人だったり、そもそも汗ばんだ男の首筋に吸い付くのはためらわれる(咬んだものと緊急性にもよるが・・・)。首筋ならともかく吸い付くのがもっとためらわれる場所ということだってあるし・・・。

ポイズンリムーバー
刺されたところに押し当てて
ポイズンリムーバー
レバーをギュッと引く

試しに使ってみるとそれなりの吸引力だが、爪で思いっきり絞り出す方がいいのでは??と思うぐらいである。いずれにせよ、応急処置用だ。蚊に刺されたときには効くだろうか?ネトルに触れてしまったときに効果があると助かるんだけどな・・・など、期待もあるがやってみなければわからない。

ポイズンリムーバー
この程度の跡がつく(何度か繰り返すべきだとのこと)

さて、明日の休日はまたお茶摘みである。ポイズンリムーバーが活躍しないことを願う。

怪我の功名

10月である。一年で考えてみるともう10月という感じだが、この秋だけを考えてみると、まだ10月なんだという思いのほうが強い。

ここ数年の栽培記録を眺めてみても、今年の秋は早く訪れたということがよくわかる。

特に、ビニールハウスで、夏の日よけのためにかけている寒冷紗を外した時期が例年より格段に早かった。お彼岸ぐらいになってようやく外す年もあったのに、今年は8月の終わり頃から徐々に外していったほどだ。

毎年、寒冷紗を外すタイミングには結構頭を悩ませられる。寒冷紗を外した途端、暑さが戻ったり、つけたままでいるときにかぎって曇天の日が続いたりというジンクスに見舞われる。だが、今年はなんとかジンクスを避けることができたようだ。

ちなみに寒冷紗というのは、日光を遮るための薄い布(というか糸を荒く編んだもの・・といえばいいのかな)である。以前は綿や麻の糸でできていたが、この頃は光を反射して遮光性を高めた化学繊維で織られたフィルム状のものが多い。近年は家庭でも日よけネットとして使われているので見る機会も増えてきた。
寒冷紗
強い夏の日差しは小さい苗を育てるのには悩みの種である。理想を言えば、上に大きな落葉樹でもあって、夏は苗に優しい木漏れ日がさす・・・なんていう環境なら最高かもしれない。ところが、そう都合はよくないので、比較的簡単な対策としてビニールハウスに寒冷紗をかけて強烈な日光を遮るのだ。

以前のエントリー「寒冷紗」でも書いているように、寒冷紗は取り付けが結構面倒臭い。かつての苦い経験から、内側に張るようになったのだが、一番上の部分を取り付ける時など、ビニールハウス中の熱気が集中して曇りでも相当暑い。40メートルのビニールハウスに張ろうものなら、脚立の上り下りだけでも疲労困憊必至である。もちろん、外す時も。

外した後は、40メートル×7メートルものフィルムをたたむのがまた一苦労。ぐるぐるっとまとめておけば良いというものではない。次に取り付ける時のことを考えて広げやすいようにたたむ必要がある。

以前はビニールハウスのかまぼこ状の背を使って、片方からもう一方に引っ張りながら蛇腹状にたたんでいた。これも二人掛かりで何十分もかかる結構な作業だった。

ところが、数年前の大雪以降、雪害対策に内側に補強パイプが加わった。そのため、内側に張ることができなくなったのだ。
補強パイプ
頭を抱えてしまったが、補強パイプを使って貼らざるを得ないので、寒冷紗を切り分けて張ることにした。大きなフィルムを切るのはためらわれたのだが、切ってしまうなら、ついでに・・・と2、3メートル角に小さく切り離してしまった。

結果、ビニールハウスの必要なところだけに張ることができるようになった上、取り付け、取り外し、たたむことも一人でできるようになった。以前より低い位置なので、高い脚立に上がらなくても済む。

寒冷紗
小さいサイズだと部分的に日陰が作れるようになった

それまでは、スタッフや仕事の都合が良く、天気が良い時を見計らって「せーの」で作業しないといけなかった。今ではちょっとした時間の隙間があれば、ひとりで、一部分だけでも片付けを進めることができるようになった。天気も関係ない。

寒冷紗
このサイズなら一人でも畳める

止むを得ず行ったことではあったが、いまとなっては怪我の功名かもと思っている。