小さな災いと小さな喜び

昨日、今日と雪が舞う松江。気温も低く、ときには吹雪いたりして、3月とは思えない。

しかもちょうど昨日は高校入試。大学センター試験の日も大雪に見舞われたが、受験生にとっては苦難の年のようだ。

さて、年をとって好きになった言葉に、「禍福はあざなえる縄の如し」がある。ようやくこの言葉がわかってくる年になってきたのかもしれない。

悪いことがあっても、かならずまたその代わりのように良いことが起こるし、良いことが起こったからといって浮かれていると足元をすくわれる。本当にその通りだと思う。

また、そういう気持ちで日々を過ごすことが大事なのだろう。悪いことがあってしょげてばかりいては目の前にやってきた幸せも見逃すかもしれない。また、謙虚さと慎重さをいつも持っていなければ思いもかけないトラブルに巻き込まれることもあるものだ。

先日、お客様に発送した荷物が転倒事故にあった。

幸い代品もすぐ発送できたが、転倒にあった荷物は、後日返送されてくる。いつものことだが、中身を見て確認するのは結構いやなものだ。めったにないこととはいえ、ひどい時にはどれがどの種類かもよくわからないぐらいグシャグシャになっていたり、根から土がほとんど落ちてしまっていることもある。倒れた上に、発送先と発送元を一往復するのだ。ダメージが少ないわけがない。

かといって処分するわけにもいかず、植え直したり、一年草などは畑に植えてその後の生涯を全うすることになる。自家用のバジルやコリアンダーなどはこういう返送苗で育てることも結構ある。

荷物事故

箱を開けてみたら、今回の場合は配送途中で箱が倒れてしまった程度の被害だった。それでも普通の商品とは違い、底板との固定が外れると苗の傷みは大きい。土が半分ぐらいなくなっているものもあったり、他の苗が上に乗ったために枝が幾つか折れ、根もあらわになっている株もあった。

荷物事故

一つは相当ダメージが大きかったが、多くは剪定して植えなおして数ヶ月すればまたよい調子になりそうだ。親木が古くなっている種類もあるので、親木用にそだてるのもよいかもしれない。災いはそれほど大きくなくて済んだようだ。

このような小さな災いがあったが、ことわざ通り、小さな喜びもやってきた。

ちょうど同じ頃に商品をお送りしたひとりのお客様から商品の到着について丁寧なメールをいただいたのだが、一枚の写真が添付されていた。

アップルゼラニウム大きくて見事なアップルゼラニウムの鉢植え。その隣に今回お送りしたまだちいさなアップルゼラニウム。

メッセージによると、なんと大きな株は12年前に当店からお買い上げ頂いた苗だという。

12年というとゼラニウムでも結構老化して見た目が悪くなりやすい。それがこんなに若々しい姿で、形も美しく育っている。毎年丁寧に剪定や植え替えをしていただいていることがはっきりと伝わってくる。

このような方に育てられて幸せなゼラニウムだと思うし、苗を育てた我々にとっても幸せこの上ないお知らせだった。この写真を思い出すだけでしばらくは気分良く過ごせそうだ。

「禍福はあざなえる縄の如し」。今年、悪天候の中で頑張った受験生にも幸せな春がきっと来るだろうし、転倒して辛い目にあった苗たちも必ず報われる日が来ると思う。

寒さと梅の花

店の裏手には、紅白の梅の樹がある。出入り口とはちょうど反対になることもあり、普段どちらかといえばあまり足を運ばない場所だ。

だが、幹線道路に面していて、すぐ横にバス停がある。珍しく手入れをしていたりすると、バスを待っているご老人から、

「いつも綺麗に咲きますね、先に紅梅が咲いて、それから白が咲くでしょう?」

redplum

と声をかけられたりする。日々バスを利用している方々のほうがはるかに良くご存知だ。

それでも、車で脇を通るとき、花が咲いているのを見ると近づく春を感じられてやはり嬉しい。

例年、1月には紅梅が咲き出し、紅梅が終わる頃、バトンタッチするように白梅が咲き始める。

毎年若干の前後はあっても、だいたい同じようなパターンで咲いていたのだが、ここ2年ほどは妙にリズムを崩しているようだ。

まず、一昨年は12月の終わりには紅梅が咲き出した。しかし、その後の寒さで、白梅は全く咲く気配がなく、寒さのために紅梅が延々と咲き続け、3月に入る頃になって白梅が咲くまで、3ヶ月近く紅梅が頑張っていた。

whiteplum一方今年は1月から大雪が続いたせいもあるのか、赤も白も立春になっても全く咲く気配を見せず、3月に入ってから揃って咲きだす始末。今の所、むしろ白梅のほうが先行しているぐらいだ。

ハーブも含め、花が咲く時期は暑さや寒さ、日長などそれぞれ要因がある。梅の場合はなにが引き金になるのか詳しくは知らないが、近年の滅茶苦茶な天候にかき回されているようにも見える。「ここの梅が咲くと3月だな・・・」なんて言えるのも毎年穏やかで安定した天気のリズムがあってこそだろう。

さて、特に意図的に植えたわけではないが、すぐ隣にはマヌカを植えている。ごく近い種類はギョリュウバイ(檉柳梅、御柳梅、魚柳梅)と言われているぐらいで、梅によく似た花を咲かせる。

マヌカ
例年6月ごろ開花するマヌカの花。さて今年は?

こちらは今年の大雪と寒さで葉が結構傷んでしまったが、そろそろ新芽が伸び始めてきたようだ。

manuka
ところどころ枯れているが、なんとか冬を越したマヌカ

寒さの影響で花が咲くかどうかが問題だが、咲いたとしてもとんでもない時期に咲くのではないかと心配半分、興味半分である。

竹を使う理由

行く、逃げるの1,2月が終わり、いよいよ3月。「あっという間に去ってしまった・・・」とならないように気合が入る。

植物の成長が鈍る冬は他の季節に比べるとどうしてもできる仕事が限られてくる。そこでビニールハウスの改修、補修、作業環境の改良などを集中して行っているが、この作業ももうすこしで終わりを迎える。

例年のように行うのが、育苗時に苗を並べるための竹の棚の改修である。

ベンチ作り

育苗のために腰の高さぐらいまでに上げた台は育苗ベンチと呼ばれ、普通はネット状になった薄い網状の金属(エキスパンドメタルというんだそうな)を広げてその上に苗のケースを並べることが多い。当店にも、譲ってもらったエキスパンドメタルがいくつかある。

エキスパンドメタル
当時憧れだったエキスパンドメタル

この仕事を始めた当初は大規模に栽培しておられる農家が大抵このエキスパンドメタルを使っているのを見てすこし憧れだったこともある。

お金もなかった当時は地面に杭を立て、その上に桁を渡し、その上に木製のパレットを乗せて長い台を作っていた。水はけは問題ないし、パレットは近くの運送業者でいくらでももらえるような時代だった。

ただ、使い古したパレットに始終水をかけることで案外腐ってしまうのが速く、処分も結構大変だった。また、そのうちパレットがプラスチックのリユース品になり、譲ってもらえなくなった。この時点でエキスパンドメタルに変えてしまうことができたら今頃全てがエキスパンドメタルの台になっていたのかもしれないが、残念ながら当時はそんな余裕もなかったのだ。

また、エキスパンドメタルは実際に使ってみると端の部分が引っかかるし、夏は結構暑くなる。しかも丈夫な分、加工が難しい。ちょっとサイズを変えようとしても一苦労だ。そのうえ処分となると外部に頼まなければ手に負えない。

安価で手に入りやすく、加工がしやすく、片付けも楽、となったら必然的に竹が候補に上がってきた。

安価で手に入りやすいということでは、ハウスの目の前に竹林があるし、親戚にも放置された竹林がある。そのうえスタッフの家にも竹林がある・・・といった感じ。竹を切るのはそれなりに重労働なのでむしろ切ってもらえると喜ばれるぐらいで、気持ちほどのお礼で済むことが多い。

いつも竹を切り出す竹林

もちろん、加工はこの上もなくしやすい。よく切れるノコギリとナタさえあれば十分である。

ナタと竹

それなのに耐久性は相当高い。

跳ね上げ式の台
跳ね上げ式の台

開け閉めが出来て通路のように使える部分もこのとおり、簡単に作れる。通路幅がすこし広くとりたい場所も、ノコギリ一つでハイ、出来上がり。エキスパンドメタルではこうはいかないだろう。

それでも何年も使っていると所々が折れたり腐ってくるので取り替えが必要だ。取り替えた竹は最後は燃料となり、作業場のストーブで主に焚き付けとなり使命を終える。更に言えば残った灰も畑に撒かれて植物を育てる。極めて気持ちの良い素材だ。

交換した竹
古くなって交換した竹
竹の最後
最後は燃料として

竹を使うメリットとして抗菌作用が・・・とも言われるが、とりあえず育苗においてはそれほど違いは感じないので、この点でのメリットはほとんどないようだ。ハーブ自体の抗菌作用がまさっているのかもしれない。

加工する手間なども考えるとコスト的にはむしろエキスパンドメタルに軍配があがるのだろうが、竹を切ったり割ったりも冬の良いエクササイズのつもりで行っている。

竹切りがしんどくなるまでしばらくはこの素材と付き合っていくことになりそうだ。

早起きは種子とともに

夜明けが少しずつ早くなってきた。朝はそれほど苦手ではないほうだが、冬の間は他の季節に比べると布団から出るのがおっくうだ。

それでも2月も後半になると、明るくなるのが早くなってきたことと、もう一つ布団から抜け出すモチベーションが発生するので、朝起きだす時間が早くなりつつある。

春の苗のための種まきは種類にもよるが秋遅くから始まる。場所の都合もあるが、一気に撒いてしまうのではなく、種類を変えたり同じ種類でもずらしてまいてゆく。

とはいえ、気温が極端に時期は撒いた種子も発芽する種類は非常に少ない。そして、それらの種子が眠りから目覚め始めるのが少し暖かくなるこの時期なのだ。

毎年同じような種類の種子だし、年によって姿が変わるわけではない。それでも種子が発芽するのは待ち遠しく、発芽を見つけるとやはり嬉しい。毎日何かが発芽しているわけではないにせよ、春に向けた動きがあるというだけでも朝布団から出る気分がずいぶん違うのだ。

ハーブの場合、いろいろな種類があるので発芽の姿も様々。サイズも様々。仕事にもまだ余裕があるこの時期はじっくり観察するのもまた楽しいものだ。

イタリアンパセリの発芽

気温が低くてもよく発芽するイタリアンパセリ。少し気まぐれで、発芽するときはすごくたくさん出てきて困るが、同じパッケージでも「あれ?」と不思議に思うぐらい発芽しないこともある。
ジャーマンカモミールの発芽
ジャーマンカモミールは、とっても小さいが、ギザギザがついた本葉が出てくると見分けやすい。こぼれだねで生えてきても見つけやすい種類だと思う。
ローマンカモミールの発芽
こっちはローマンカモミール。いつもは株分けで増殖するので、発芽した姿は普段そんなに見かけない。
コリアンダーの発芽
以前も紹介したコリアンダー。たまに一つだけしか出てこないこともある。
ストロベリーの発芽
ルーゲンストロベリー。小さくてもしっかりイチゴの葉だ。ハーブも、種類によっては小さいうちと大きくなってから葉の形が違うものも結構あるが、これは見間違えることがない。
アニスヒソップの発芽
アニスヒソップは小さい上にあまり特色がない芽生え。本葉が出てくるとすこし分かりやすいが、零れ種で生えてきたら雑草と見分けるのは困難だ。
ナスタチウムの発馬
ナスタチウム。丸い葉の上に玉のように乗る露が魅力だが、発芽したばかりの葉にもしっかりと露が乗る。
カルドンの発芽
たくましく大きく育つカルドンは、発芽からして力強く土を押しのける。
チャービルの発芽
チャービルも割と気まぐれで、出るときにかぎってこんなにたくさん。分けるのが大変だ。
ローズマリーの発芽
普段は挿し木でばかり増やすので、これもお目にかかることが少ないローズマリーの発芽。親木の株元の零れ種である。

まだまだ数え切れないほどあるのだが、今日のところはこれまで。

ゆっくりとハーブたちの芽生えを観察できるのももう少し。本格的な春になるとそんな余裕もすくなくなるから、せいぜい今のうちにじっくりちいさな命のスタートを見つめてみたい。

地域貢献

先週末からの雪も昨日で一段落。今日は道路の雪もほとんど溶けて、街中では雪かきで積み上げられた雪だけがまだところどころ残っている程度になった。

雪国と思われることも多い山陰だが、年によっては一度も雪かきをしないで済むこともある。雪が降っても1日、速い日だとその日の午後にはずいぶん溶けてしまうことが多い。なので、我が家もそうなのだが、車も一台だけスタッドレスにして、もう一台はノーマルタイヤのままにしているお家も結構あるようだ。雪が降って危ないような日はそもそも車で出かけないのが賢明だ。

雪
これほど降って「雪国ではありません」と言っても説得力はないが・・・

とはいえ、仕事となるとそうも言っていられない。それに、雪の翌日はまずビニールハウスが被害に遭っていないか確認に出かけなければならない。一番気が進まない仕事の一つだ。

そのうえ、主要道からビニールハウスまでは除雪車は通らない。何年ぶりというような大雪の時には車では入れないことも以前にはあった。

今回も、土曜日にはなんとかたどり着けたが(それでもナンバープレートで結構ラッセルしてしまった)、その夜追加で積もったので日曜の朝はスコップも積んで覚悟して出かけることになった。

国道はさすがにきれいに除雪され、その先の主要道もノーマルタイヤで走れるほど。さあ、問題のハウスへの入り口にさしかかったが、ここもバッチリ除雪されていた。先月の雪のときにもそうだったのだが、お隣の土建屋のFさんが周囲一帯の道路を朝から重機を使って除雪しておられたのだ。

雪かき

何の問題もなくビニールハウスに到着でき、そのうえ我々が駐車するスペースまで雪をかいていただいていて感謝。当のご本人は・・・と見れば、ずいぶん遠くの方で雪かきをつづけておられた。

駐車場の除雪
ビニールハウスの入り口まで除雪していただいた

実際、自分も含め、松江に住むひとは雪かきには慣れていないと思う。先月の大雪のときにはホームセンターの店頭からスコップが一斉に消えたというニュースが流れた。私も今年3回目の雪かきでようやく段取り良く雪をさばけるようになったと思えたぐらいだ。まして高齢化著しい状況では人力で行う雪かきなどたかがしれている。そんな中、重機で雪をかいてもらえるとどれほど助かることか。ご近所の方も「本当に助かる」とずいぶん喜んでおられた。

しばらくして重機の音が近づいてきた。うちのビニールハウスの前を通りかかられたのでお礼も兼ねてお茶とお菓子を出して休憩していただいた。もうこの集落一帯の雪かきを終えられたようだ。

ご本人は「この雪じゃ仕事もならんけんねぇ」と謙遜していらっしゃるのだが、誰にも頼まれずに雪をかいておられる姿勢はカッコイイ限り。立派な地域貢献である。だいいち、土曜日は仕事として鳥取県へ雪かきに出かけていらしたとのこと。きちんとお金をもらって行う仕事なのだ。

ストーブにあたりながら、除雪の苦労などの話も聞けてこちらが得した気分になった。

しばらく休憩された頃、また雪が降り始めた。「ごちそうさま、また一仕事しますわぁ!」とまた重機に乗り込むFさんであった。

重機

Fさんの姿をみて、うちはなにか地域貢献ができているかなあと考えるとせいぜいビニールハウスの周りプラスαを草刈りする程度。いろいろ迷惑をかけているわりには何にもできていない。かといって、周囲にハーブを植えて・・・というのも違う気がする。ま、焦らずにぼちぼち考えるとしよう。

せめてものお礼に今年の夏は土建屋さんの周りを気合を入れて草刈りをしようか。