今夜の賭け

以前、親しくなった方からなにかの折に

「ギャンブルはされますか?」

と尋ねられたことがある。

「日々がギャンブルみたいなものですからねぇ」

と、冗談交じりに答えたら

「事業はギャンブルではありません」

と諌められた。

少なくとも、仕事をギャンブルとは考えていないが、農業には賭けのつもりで向かうしかない天気という相手がいる。

あらかじめ大雪が降りそうな日の夕方はビニールハウスのなかにストーブを灯す。ハーブを凍えさせないためではなく、積雪が少しでも落ちやすくするためだ。ビニールハウスの雪は、一部が落ちるとその周りから落ちていきやすい。そのきっかけを作るのが小さなストーブの灯だ。

石油ストーブ
古い石油ストーブも活躍中

昨日の夕方は強い風とともに横殴りの雪が降り、大雪警報も発令。相当に積もりそうな雰囲気だったので、疑うこともなくそれぞれのビニールハウスにストーブをつけた。

ところが、雪のピークはその時が最高で、今朝起きてみると、ほんの少し積雪が増えた程度だった。

特に心配することなくビニールハウスにむかった。ストーブの置いてあるあたりから雪が滑り落ちて、縁の方に若干残っていたが、その雪も午前中日がさすと綺麗さっぱり下へ滑り落ちて行った。

ビニールハウスと雪
中央あたりにストーブがある

残念ながら一晩中つけっぱなしにしていたストーブはあまり意味がなく、減った灯油を給油する作業も少し気が重かったが、昨日の判断を賭けとするなら、賭けに負けたわけではない。おかげで一晩ゆっくり眠れたのである。

温度計
昨夜はマイナス3度まで下がった模様

今夜もそれなりに冷え、雪も降る予報が出ているが、さて、今夜の賭けはいかに?

対策は十分か?

この冬、12月に初雪は観測されたが積もるほどではなく、それ以降も降ってもみぞれ程度。

スタッフとも「せっかくスタッドレスに変えたのに、タイヤを削っているようなものだね」と話しているぐらいだ。

ただ、雪にはいままでなんども痛い目にあわされているし、こんな風に油断している時が一番危ない。

昨年の1月下旬の大雪のときも、大丈夫だろうと対策を怠っていた一棟のビニールハウスが雪害にあった。その際は、修復に忙しくてなかなか記録ができなかったので、気を引き締めるためにも少し書き残しておきたいと思う。

2017年1月下旬の大雪
2017年1月下旬の大雪

記録を見ると、2017年1月22日から23日にかけて急激に積雪があった。縦方向の補強が不十分だった一棟の奥半分がおおきくひしゃげてしまったのだ。

雪の重さで折れたパイプ
雪の重さで折れたパイプ

他のビニールハウスは中央に縦方向の支柱が何本も入れてあるので雪の重さにも比較的強くなっているが、このビニールハウスは二重構造のため、縦の支柱が入れてなかった。

雪の重みで内側を押しつぶす外側のパイプ
雪の重みで内側を押しつぶす外側のパイプ

しかも、縦方向の支柱も、入れようと思えば入れられたのに、「内側のビニールに穴を開けてしまうのがもったいない」という貧乏くさい気持ちが支柱を入れることをためらわせたのだ。明らかに準備不足である。

なので、今回は冬のはじめに縦方向の支柱を入れる作業を行った。

内張
内張

秋に取り付けた内側のビニール。もちろん新品である。これに穴を開けて縦の支柱を通さねばならない。

補強部分の縦パイプ
補強部分の縦パイプ

この補強部分の縦パイプにつなげるよう、支柱パイプを取り付けていく。

カッターナイフで穴を開けたりはしない。裂けることはないと思われるがやはりここは丁寧に円形の穴を開けたいところ。

バーナー

場所を確認して、少し小さめの径のパイプをバーナーで熱する。

穴あけ

パイプが熱くなったら慎重にビニールに当てる。緊張感と罪悪感が入り混じる。

穴あけ穴あけ

綺麗に穴が空いた。

ジョイント

縦のパイプをジョイントして出来上がり。

完成図これで(たぶん)雪が降っても大丈夫だし、これでもダメなようなら諦めるしかないのだ。

年明けの仕事復帰

「年末年始はゆっくりされますか?」

年の暮れになるとよく聞かれるが、はっきり言ってその時になってみないとわからない。

結局のところ、天気によるのだが、大雪でも降ろうものなら落ち着いてはいられないし、一日中快晴の日が続くようなら、ビニールハウスの気温も上がるし、苗の乾きも心配になる。

幸い、ここ数年、年末年始は少しゆっくりさせていただいている。今年もおかげさまで落ち着いたお正月を過ごさせていただいた。晴れ間があっても短時間で曇り、小雨の降るような日もあったのでかえってバタバタすることもなく、体を休めることができた。

その代わりというか、職場復帰(というと大げさか)が例年のようにいかなかった。普通の仕事をしている方はきっとこうなんだろう。

4日頃からゴソゴソはしていたが、取り立て急いですることもないので、なんとなく片付けをしたり、年末にし残していていた仕事をする程度。

ところが、昨日あたりの天気予報で週の中頃から雪マークが出はじめたので、枝折れが気になるマートルの対策をせねばと思いついた。これでようやくエンジンがかかる。

マートルの実本当はもっと早くしておきたかった作業なのだが、秋に実がついたので、それでも熟すのを待ちたかったのだ。

 

ここ数年、マートルは毎年のように雪に埋もれたり、枝がほとんど折れたりして実を採ることができなかった。今日見ると、だいぶシワシワになって、秋にくらべると熟した感じがでてきた。ついこないだ食べていた黒豆のようだ。

マートルの実

中を開けると種子もできていたので、試しに蒔いてみようと思う。ハーブの場合、原産地と気候が大きく異なると種子ができても充実せず、発芽しないことも多いし、マートルの場合は挿し木の方が手っ取り早いので種子から育てることはないが、それはそれ。種子から育てるのはまた別の楽しさだ。

果実を取り終えたマートルは地面から50cmぐらいにバッサリと剪定。それまで背丈を越えるぐらいあったので、大雪が心配だったが、これで大丈夫。

ついでに、種まきという次の仕事もできた。こうして徐々にいつものペースに戻っていくのだろうな。

産み付ける基準

相変わらず気まぐれな天気が続くこの時期の山陰地方。

雨やみぞれの合間を縫って、冬にそなえた剪定作業をすこしずつ進めている。

毎年のことだが、この季節、枝や刈り取った草にカマキリが卵嚢を産み付けているのをいくつもみつける。

カマキリの卵嚢
ラベンダーの枝に産み付けられたカマキリの卵嚢

ローズマリーやラベンダーの枝に産み付けられていたり、かと思うと、柔らかなススキの葉についていたりするので、どういう基準で産みつける場所を選ぶのかいつも不思議に思う。

とりあえず刈り取って投げっぱなしにしておくようなもったいないことはせずに、一箇所に集めておく。春、すこし暖かくなった頃に、育苗している苗の近くに置いてちいさなカマキリが生まれるのを待つ。

カマキリの卵嚢
暖かくなるまで集めておく

ちょうどその時期は、われわれもアブラムシやその他の小さな虫に悩まされる頃なので、赤ちゃんカマキリに餌にしてもらうのだ。きっとすぐにビニールハウスの外に出て行ってしまうだろうし、効果のほどは定かではないが、きっと我々の知らないところで小さな虫を食べて助けてくれているんだと思うだけで気分がすこし楽になるのだ。

カマキリの卵嚢が、高い場所に産み付けられていると、その年は雪が深いと言う。今年、圃場の脇の木の枝に産み付けられていた卵嚢はおおよそ私のおへそのあたり。

カマキリの卵嚢
おおよそおへそのあたりの高さに産み付けられていた

ついでに、ビニールハウスの中のシルバーフリンジラベンダーの苗に産み付けられていた卵嚢も、地面からの高さは奇しくもほぼ同じ・・・。今年の冬は覚悟して臨む必要があるかもしれない。

カマキリの卵嚢
苗に産み付けられた卵嚢も、台の高さを入れると結構高め

ちなみに、秋の半ばに見つけたカマキリの産卵風景だが、産み付けられたばかりの卵嚢は不思議なブルーをしていた。ホースに産み付けたからではないらしい。

カマキリの産卵我々人間も青いものにはあまり食欲が湧かないものだが、そういうことを狙ってのことなのだろうか。

ホースに産み付けてもらっても困るのだが、まあ、このホースは春ずいぶん暖かくなってからしか使わないので、たぶん差し支えはないだろう。

※ちなみに卵嚢って英語ではEgg caseって呼ぶらしい。なるほど。

ちいさな時限爆弾

相変わらず畑の開墾作業を続けている。冬の初めのわずかな晴れ間を狙っての作業でもあり、他の仕事の合間を縫って行うので遅々として進まない。

開墾中はなかなか気づかないが、少し前に耕した場所に行くとこんな塊がよく見つかる。

ハマスゲの塊茎

ハマスゲの塊茎だ。「浜」と言う名前の通り、海岸部によく見られるというが、内陸部でもいくらでも育つ。夏には細い葉を伸ばして目立たない花も咲かせるが、結構困らせてくれる雑草だ。

塊茎を持つような植物は強いものが多いが、ハマスゲも繁殖力が半端でない。

ハマスゲの塊茎

こんな風に横に伸びるように広がっていき、上に伸びた葉を引っ張っても途中でちぎれて塊茎はしっかり残る。掘り上げて塊茎から取り除く必要がある。

ずいぶん昔だが、とある幼稚園の花壇を整備する仕事があったとき、予定地にこのハマスゲが繁茂していた。

「これは先にしっかり取り除いておかねば」

と、ずいぶん奮闘したのだが(ホント、うんざりするような作業だった)、土によく似た色の塊茎。全て取りきれるわけがない。

その年はそれほど目立たなかったのに、翌年の春、時限爆弾のように一斉に芽を出した。ものすごい絶望感を覚えた。

とはいっても葉が伸びてもせいぜい10センチかそこら。草丈のある植物なら周りに生えていても気にしなければいいのだが、放っておけばむろん増えていく。

おそらく困っている方も多いと思うのだが、一方で薬用植物だったりする。奈良時代に編纂されたといわれる出雲国風土記にもしっかり載っているし、漢方でも使うらしい。そういう意味では立派なハーブである。

しかも、塊茎といえばジャガイモと同じでデンプンを多く含むらしい。「救荒作物」とされるそうなので、いざという時のために少しだけ取っておくべきなのだろうか・・・