圃場には、潅水用の貯水タンクがある。水源は井戸であるが、さすがに一気に吸い上げてしまうと枯れる恐れが高いので、いったんタンクに溜めて、それを使うようにしている。
水を頻繁に使う夏は溜まり具合に気を付けていなくてはならないが、梅雨明けまではそれほどでも無いのであまりチェックしない。今日、久しぶりに半開きにしている蓋を開け、中の様子をのぞき込もうとしたら、「ブーン」と危険を感じさせる羽音。思わず首をすくめた。何かが飛び去った方向を確かめるとこのへんで「アカバチ」とよばれるスズメバチの仲間だった。種類は良く分からない。我々にとっては細かい種類はどうでも良い。名前を考えている前に身をよけることが大事だ。
しばらくしてまた戻ってきてタンクの蓋の隙間から中に入っていった。あまり嬉しくない光景である。「まさか、この中に巣が・・・」
一匹が出ていったのを確認して恐る恐る、タンクをノックしてみる。「トントン」
すかさず飛び退き、全神経を集中して耳を澄ますが羽音はしない。何度かノックをした後に、思いっきり足で蹴ってみた。すかさずダッシュで逃げる、特に反応は無いようだ。
長い棒を持ってきて蓋を全開にしてみる。もちろんすかさず飛び退く。何もおこらない。
恐る恐る反対側に回って覗いてみると小さな巣が作られはじめていた。雨も直接は入ってこないし好都合な場所なのだろう。他に一匹も見当たらない所をみると、先程遭遇したのは女王バチだったのだろうか。
それでも写真に収めようとしばらく待っていたのだが、蜂は戻ってこなかった。
蓋を開きっぱなしにしておいたら諦めたようでもう翌日以降巣が大きくなることは無かった。少しの変化でもお気に召さなかったのだろう。
2年ほど前だろうか、ビニールハウスの向かいにある集会所の軒に同じ蜂が大きな巣を作った。誰も怖くて手を出さなかったら、ある日大きなスズメバチたちが攻撃を仕掛けてきてものすごい戦闘になった。道路を隔てたこちらまで、蜂のアゴが鳴る音が聞こえてきたくらいで、地面にはおびただしい蜂たちが散乱していた。どちらが勝ったのか良く分からなかったが、その後一匹もいなくなり、巣は残っているのに次の借り手は未だにいない。新築一戸建てが好きなのだろう。今回もタンクに着工しかけて邪魔が入って諦めたのかも知れない。
今後は蓋をしっかり閉めることにした。もう少し大きくなっていたらと思うと今でも少し怖くなる。