一安心

11月始め頃に一気に寒くなった後、またしばらく暖かい日が続いている。雨降りの日も多いため、朝の気温もそれほど下がらない。

育苗をするビニールハウスは無加温でも、日が射すと気持ちの良い暖かさに包まれる。それでもハーブたちはきちんと冬への備えを始めている。

ブルーキャットミント

出荷を控えたブルーキャットミント、まだ葉も青々としていて、秋初めのころの様相だ。でも、良く見てみれば株もとに力強い新芽が。

ブルーキャットミント

大きく伸びた上の葉は、今後、霜でも降りるようになるとクタンとしてしまい、いずれ枯れてしまう。ところがこの株元の新芽は寒さの中でもギュッと身を縮めて春を待つのである。

この芽が出てくると一安心。それとともに、切り戻す作業もまたスタートである。

初冬の黒

秋遅くから冬にかけても咲いているセイジ/サルビアもまた結構あったりする。松江ではさすがに真冬にはほぼ無くなるが、今の時期は秋開花したのが残っていたり、さてこれからといった花もあるのだ。

寒さに弱そうに見えて、案外冬半ばぐらいまで頑張るのがサルビア・ディスコロール。パッと見には黒い花である。良く見れば濃い紺色と言えば良いのだろうか。形も一風変わっているし、花盛りの時期はともかく、今の時期は目を引く。

サルビア・ディスコロール

黒く見える花だと昆虫に対してもアピールしにくくはないのだろうか。それで他の花が少ない頃に咲くのかななんて考えてしまう。原産地では黒い花だけに関心を示す虫が・・・と言う事かも知れないけどね。

花色もさる事ながら、葉の雰囲気もまた特徴がある。葉の表の質感も変わっているし、裏は真っ白。萼も含めて花を一層際立たせているのかも知れない。

単独で大株にするもまた良し、寄せ植えなどにもアクセントになかなか使える。ただ、古い葉はちょっと見た目が悪いのでなるべく新しい葉が楽しめるように剪定、植替などで更新するよう努めたい。

これもまた難点だが、このサルビアも花茎が粘つく。せっかく良い花が咲き、コンディションの良い葉が広がっていても花茎にひっつく小さな虫。見るたびに残念に思う。

安心できる花色

寒くなるとともに、ローズマリーが次々と開花しはじめてきた。他の花が少ない時期に長く咲いてくれるローズマリーはもともとハーブの中でも好きな方である。ここ松江あたりでは夏も冬もあまり心配なく育てられるのも嬉しい。

ローズマリーを育てはじめた頃は、色々な種類を集めるのが嬉しくて、白やピンクの花、紫の濃い種類など、なるべく変わったものを欲しがったものだ。

それは基本的にいまでもあまり変わらないのだが、かなり前から国内でも流通していたスタンダードな種類もまた良いものだと思えるようになってきた。

ミスジェサップローズマリー

例えばこのミスジェサップローズマリーや、ベネンデンブルー。特に特徴の少ない薄紫の花のローズマリーである。でも、このいかにもローズマリーらしい花色や姿がまた良いと感じるようになってきたのである。

ラベンダーならトウィッケルパープルのようにごく普通というかクラシカルな色合いをもつ種類。安心して見ていられるのである。年をとった証拠だろうか。

スイートバイオレットと蝶

秋も半ばを過ぎると、ようやくスイートバイオレットたちも夏の疲れを回復したのか、徐々に生き生きしてくるようになる。大きなダメージを受けたように思える株は植え替えたり、株分けをして復活の手助けをしてやる。

しばらくすると新芽が伸び出してきて、こちらもホッと一息つく頃、必ずやって来るのがこの毛虫、ツマグロヒョウモンである。

ツマグロヒョウモン

ようやく出てきた新しい葉をバリバリとかじるのですぐ分かるし、そのうえ見た目も毒々しいデザインなので、最初のころは驚いた。その後、毒が無い事が分かり、平気で手に乗せれるようになった。無害だと分かると印象もずいぶん変わるものだ。

ツマグロヒョウモン
今は平気

ビオラなどをよく食害すると言われているが、ここには普通のビオラやパンジーはあまりないので、主食がスイートバイオレットになってしまうのだろう。味の違いはあるのかな?

親も鮮やかで美しい蝶のようだが、あまり見かける事が無い。

ヤマトシジミ

ちなみにこれはヤマトシジミ(だと思う)。幼虫の主食はカタバミだそうなので、今はビオラの上でちょっと一休みと言ったところなのだろう。

ピンクの待ち針

冬の足音が、一歩また一歩と近づいてくる今日この頃、回りの風景も動きが少なく、色も鮮やかさが徐々に失われてくるようになった。

そんな中で、一際目を引くようになったのがヒメツルソバである。いつの間にかビニールハウスの中に侵入するようになり、時々思い出したようにはびこるようになった。

ヒメツルソバ

といっても、それほど困る雑草ではない。片付けようと思えばそれほど苦労はしないし、ご覧の通り、冬の初め、非常に鮮やかな群落でしばし目を楽しませてくれる。英名でPink Pinheadsと呼ばれるが、確かにピンクの待ち針を思わせる姿である。

ヒメツルソバ

この辺りでは、古い石垣の縁や、庭の隅などで広がっているのを良く見かける。

残念なのは、寒さが本格的になってくると葉が焼けたようになってしまうことだ。ちょうど園芸作業に不向きなシーズンに当たるうえ、雑草としての扱いしかなされないためか、汚らしいまま放置されている場合が多い。

以前、ある県の園芸店で、ヒメツルソバの一株がびっくりするような値段で売られていたのを見たことがある。寒い地域だったのでそんな価格設定だったのだろう。

こちらに戻ってから、その話をとある会でしたところ、一人の老婦人がこの辺りでも昔は結構いい値がしていたと仰った。いつごろの事かと訊ねたのであるが、「年が分かるから・・・」と教えてもらえなかった。お茶目な方である。