ピンクの待ち針

冬の足音が、一歩また一歩と近づいてくる今日この頃、回りの風景も動きが少なく、色も鮮やかさが徐々に失われてくるようになった。

そんな中で、一際目を引くようになったのがヒメツルソバである。いつの間にかビニールハウスの中に侵入するようになり、時々思い出したようにはびこるようになった。

ヒメツルソバ

といっても、それほど困る雑草ではない。片付けようと思えばそれほど苦労はしないし、ご覧の通り、冬の初め、非常に鮮やかな群落でしばし目を楽しませてくれる。英名でPink Pinheadsと呼ばれるが、確かにピンクの待ち針を思わせる姿である。

ヒメツルソバ

この辺りでは、古い石垣の縁や、庭の隅などで広がっているのを良く見かける。

残念なのは、寒さが本格的になってくると葉が焼けたようになってしまうことだ。ちょうど園芸作業に不向きなシーズンに当たるうえ、雑草としての扱いしかなされないためか、汚らしいまま放置されている場合が多い。

以前、ある県の園芸店で、ヒメツルソバの一株がびっくりするような値段で売られていたのを見たことがある。寒い地域だったのでそんな価格設定だったのだろう。

こちらに戻ってから、その話をとある会でしたところ、一人の老婦人がこの辺りでも昔は結構いい値がしていたと仰った。いつごろの事かと訊ねたのであるが、「年が分かるから・・・」と教えてもらえなかった。お茶目な方である。

幸福を見つける理由

無くて七癖と言われる。たいていは人に言われて気づくことが多い。自分の場合、「電話をしながらあっちこっち歩く」という癖だ。ワイヤレスの電話機や、携帯があるからこそできるのだが、事務所でも電話しながらあっちへ行ったりこっちへ来たり。圃場にいる時はなにぶん広いので好き放題に歩を進める。

さらに、徘徊するだけでは足りなくて、他にも電話中に他のこともしているようだ。草を取ったり、片手で剪定したり。落ち着きがないと言われても仕方がない。(話はきちんと聞いておりますので。あしからず。)

さて、圃場の脇に、かつて芝生だったところがある。現在も芝が残ってはいるものの半放置状態。ここにクローバーがしっかりと根を下ろしている。もう取り除くのは諦めている。

クローバー

先日は電話をしながらいつの間にかこのクローバーのところに来ていた。何とは無しにしゃがんで葉を見つめていると、四つ葉を発見。四つ葉のクローバー探し、小さな頃からした経験はあっても、探し出せたことがあっただろうか。

また別の日、やはりなぜか電話の途中でクローバーのところへやって来たら、また見つけてしまった。この2本は店に持って帰り、押し花にしてもらった。ほんの畳1帖に満たない群落である。不思議に思い、改めてまた探してみると更に2本の四つ葉を発見。

四つ葉発見
四つ葉発見

今までの経験からすると非常に高い確率である。しかし、これは訓練による技術ではないかと思う。日々色々な葉を見ては小さな異常を見つけたり、成長の具合を事細かに見ているので、周りとは違う葉の様子を見つけ出しやすい目になっているのではないだろうか。

はい、ここにも
はい、ここにも

なんて考えていると「幸福」の有難みも失せてくる。素直に喜ばなくては。

露置く秋

朝、ビニールハウスに来ると、ざっと一回りするのが日課となっている。苗の土の湿り具合や葉のしおれたのがないかをチェックしたり、日々の成長を調べるのも大事である。

朝の気温が下がってくるとビニールハウスの中であっても葉に露が降りるようになる。早朝にかけて現れ、日が高くなるといつの間にか消える露。「露を置く」と言葉にした古人の繊細なまなざしに改めて感心してしまう。

レディスマントル

さて、露に限らないが、水滴が良く似合うハーブがレディスマントルである。近年は学名読みでアルケミラモリスと言う方が良く通じるようだが、個人的にはレディスマントルと呼ぶ方がぴったり来るような気がする。水をやった時に葉の上に溜まる水滴もさる事ながら、露が縁に着いた姿もまたデリケートな感じがして良いものだ。

レディスマントル

ただ、レディスマントルで秋の露を楽しむならば夏を越してくたびれた葉ではせっかくの露も台なしだ。秋を迎える前にに傷んだ葉をしっかり整理して新しい葉を伸ばしてやること。フレッシュな葉に露が置かれるとまた格別なのである。

初冬の霧

今朝は風もなく濃い霧が立ちこめる朝だった。

車で走っていても回りの風景や家々がふわっと姿を表してくる。通り慣れた道なのに、別の場所へ迷い込んだかのような感じもちょっとあって楽しい。(対向車や自転車も突然現れるのであまり油断はできないけれどね。)
霧の裏山

圃場の裏山もトーンに乏しい。落葉したギンヨウボダイジュが秋の終わりをいやが上にも感じさせる。来春、また可愛らしい新芽を見せてくれる日を心待ちにしよう。

パープルメキシカンブッシュセイジ

パープルメキシカンブッシュセイジも小さな水の粒をまとい、今朝は重そうに見える。萼の色合いが目立つが、花はだいぶ落ちて地面に彩りを添えている。思えば今年はたくさん咲いてくれたのに、切り花で飾ることが少なかった。もっとたくさんの人に見てもらえば良かったね。

結局今日は、霧が晴れても青空を拝むことはできなかった。

アキギリの口惜しさ

世界中に分布するセイジ・サルビアの仲間、当然日本原産のものもある。日本原産と言えばたいてい育てやすいだろうと思えるのに、このアキギリにはそれなりに注意が必要で毎年なんらかの失敗をしてしまう。

一般的なハーブとしてしられているサルビア属、普段育てている種類の多くは日なたと乾燥が大好きである。ところが、アキギリはあまり日が強く、乾燥しているとすぐに葉の縁がチリヂリに焼けてしまう。店頭に出していたりすると、他のハーブと同じような水やりになってしまい、花が咲きはじめるころには葉があまりにみすぼらしくなってしまい、手に取ってもらえないことも多い。

庭植えにする時も、夏は要注意。日陰の涼しそうなところでも、水が切れてしまうと葉があっという間に茶色になる。以前、とある公共施設のグリーンのコーディネイトをしていたことがある。その時にも日陰の部分にぴったりと思い、アキギリを使ってみた。最初は大変好調に育ち、花まで後一歩と言うところで水切れで台なしに。いまでも悔やむ思い出である。

アキギリ
写真は、たまたまうまく花を咲かせた一株。場所にぴったり合えばこれぐらいいくらでも咲くポテンシャルを持っているはずなのに、使う側の力が足りないせいで実力が発揮できないでいるアキギリ。口惜しがっているかも知れない。