増え続けるウエイティングリスト

涼しくなったらこの種まきを、あれも挿し木を・・・と思っているうちにウエイティングリストにはどんどん候補が積み上がっている。

気温が高すぎてなかなか種まきや挿木ができないものも多い。気温がある程度低くならないとうまく発芽発根しない種類や、挿し木の場合はそもそも挿し木にむいた体勢になっていないものもある。

月桂樹もその一つで、暑さで傷んでその後また伸び始めたのか、妙に柔らかい枝が勢いよく伸びている(最初は暑さで枯れているかと思ったほどだが)。こういう柔らかい枝は挿し木をしても、腐りやすくてうまく発根まで行った試しがない(やり方が悪いのかもしれないが)。

お盆明けぐらいからずっと見ているがいまだにあまり変化がない。気温もその頃から変化がないからだろうか。この夏の異常な暑さの継続がこういったところへ影響が出ているようだ。とはいえ、

来週には涼しくなるとの予想だが、すぐには挿し木に適した状態にはなってくれるとは思えない。まだしばらくはウエイティングリストは増えるばかりかもしれない。

黄色い葉っぱに騙される

農業では、いつ頃種子をまいて、いつ頃定植、収穫はいつ頃というように栽培計画をたてることがとても大事だ。

かつては栽培計画らしきものを作っていたこともあったが計画通りいったことはまずなかった。栽培する種類が半端なく多いうえに、種まきしてから発芽まで、挿木をしてから発根までの期間もそれぞれ異なる。そのうえ、季節やその年どしで発芽や発根にかかる日数も変わってくるので、いついつ頃に種子をまくと、何日後に発芽、更に何日したらポット上げなんていう計画をたててもほとんど役に立たない。10種類、いや、20種類ぐらいまでならなんとかコントロールできるかもしれないが。

なので、計画的な農業とはとてもいえない。乱暴な言い方をすれば、行き当たりばったり。その一言に尽きる。

ポット上げも行き当たりばったり。種子の発芽ならば目で見てわかりやすいので、芽が出てポット上げできそうならそうする。でも、挿し木の発根は、プラグをひっくり返すのが確実だが、いちいち裏返すのも面倒なので、大抵は地上部の様子をみて芽が動き始めたことで判断する。

もちろん、経験から、そろそろ発根しているだろうという予測はつくけれど、それにしてもラベルの日付が頼りとなる。

今日もふと見たレモンマートルの挿木に、「ん?」と違和感を感じて名札の日付を見てみたら3月の終わり、十分発根している頃だ。

もともと葉が黄色っぽいので、この夏前に挿木したものと見分けがつかなかった。プラグから出してみたら、しっかり発根していた。

しっかり発根

このまま見逃していたら、半年遅れもあったかもしれない。

レモンマートルの場合、成長にはある程度気温があった方が良いので、すぐにポット上げをすることにした。

気が付いてよかった。挿木したプラグも、作業順に並べてはいるのだが、つい見落としがちだ。スタッフには日々「観察が大事」と言っているのに、反省、反省。

ブレンドの苦労から得られたもの

仕事でも趣味でも、園芸に携わる者にとって、土のブレンドは水やりと同じぐらい永遠のテーマだと思う。

たとえ、毎年同じ植物を同じ時期に育てるような場合でも、近年の変化著しい天候に対応していくには、当然土の配合も変わらざるを得ない。

そのうえ、ここ数年は材料自体の入手の面で問題も出てきた。資材の生産元が生産をやめたり、販売元がなくなったりと、油断ができない。

すでにブレンド済みの培養土を使うとしても、価格の上昇は如実だ。

もちろん、我々のようにそれが仕事であればなおさらだし、同業者に会えば肥料の高騰についての悩みが話題となる。

圃場で使っている資材も例に漏れず年々価格上昇。腐葉土や赤玉土など、ポット上げなどに使う用土類はもちろんだが、挿し木や種まきに使う用土もここ10年で倍以上の値段になった。

挿し木や種まきに使う資材、当初は市販されているものをそのまま使っていたのだが、そのころからすでに、コストが悩みだった。

挿木用土とプラグ
挿木用土とプラグ

挿し木や種まき用だから少量で済むだろうと思うのは甘い。うまく発芽しなかったり途中で枯れたりすることもあって、廃棄する量も思いの外多い。

そんなこともあって、市販のものにパーライトやバーミキュライトなどを加え、いわば水増ししてコスト削減に努めていた。

さらに困ったのは、製品の度重なる仕様変更・価格変更。袋は変わらないのに、中身が明らかに変わっていることもあり、閉口したものだ。

こうした経緯もあり、なんとか挿し木・種まき用土を自前でブレンドできないかと模索を続けていた。

もちろん、専業のメーカーが作るものとはクオリティはもとよりコスト面で太刀打ちできないのは分かりきったことなので、むしろ、発根・発芽率を高めてポット上げまでの歩留まりを上昇できないかと試行錯誤を続けていた。

ただ、ひとつ壁になったのが、同業のA氏から聞いた言葉。

「なんとかならないかとずいぶん試してみたんですが、なかなか市販レベルのものは作れないですね・・・」

うちよりも歴史が古く、相当規模が大きい生産者でもそうなのかと思うとなかなか本腰を入れて取り組むことができなかった。

だが、昨年の秋、さまざまな資材が高騰したのをきっかけに、やはり歩留まりを高めるための挿し木・種まき用土が必要だという結論に落ち着いた。

まずはブレンド内容を模索する。

普通ならば市販されている用土を集めて、成分を調べるところだが、大量生産されている市販のブレンドに寄せる必要はない。まったく白紙の状態、むしろ自分たちが使いやすいブレンドに振るという方針でスタートすることにした。

ポイントは次の5つ

  • 普段使い慣れている資材、かつ、安定して入手が可能な資材を使うこと。
  • もう一つの悩みの種である、いままでの用土の苔の生えやすさを解決すること。
  • ラベンダーをはじめ、発根・発芽まで長期間を要するハーブ類の増殖に向いていること
  • できればコスト面でも市販の製品と遜色ないこと
  • 吸水しやすく、水捌け・水もちの性質も両立させること
  • 市販の用土と同程度またはそれ以上の発根・発芽率であること

こうして書き出してみるとなかなかハードルが高い。2番目と3番目については肥料を加えないことでなんとかなりそうだ。そもそも、発芽と発根には肥料分は必要ないので、市販の用土がわざわざ肥料を入れているのは我々にとってはむしろ余計なお世話だったりする(短期で発芽・発根するものについては有効だろう)

いちばん難しいのが最後の2つだ。挿木用土に限らず、用土類は乾燥すると水をはじきやすくなる。挿し木や種まきの直後に水やりをしようとしてもなかなか水が染み込んでくれなかったり、発芽・発根を待つ期間にうっかり乾かし過ぎてしまった時に水を吸わないで困ることもよくある。

その対策として展着剤や界面活性剤を使う手もあるが、いままで使ったことがないし、面倒くさそうなのでなんとか回避したい。同様に殺菌剤などのケミカルも使わない方針とする。

発根・発芽率は土の水分の安定が第一だが、肥料を使わないことで土が腐敗しにくいというアドバンテージはあると思う。また、肥料を入れない分、コスト面ではプラスに働きそうだ。

というような想定で試作ブレンドを作ってみた。最初の数回のブレンドは全くお話にならなかったが、この時点ですでに何が多すぎるのか、何が少なすぎるのかが混ぜてみただけでもわかる。このへんは経験のなせる技かもしれない。ポット上げに使う土でもそうだが、手や指の感触はとても大事だ。触ってみて気持ちがいい土は、おおよそ結果も良いものだ。

話はそれるが、挿し木や種まき用土は必ずしもブレンドでなくても良い。発根だけであれば、単用でかまわない。赤玉土やパーライト、砂だけでもいいし、種まきもバーミキュライトだけでかなりの種類に対応できる。実際そのようにしている園芸家も多い。ただ、いろいろな種類をいろいろな時期に挿し木・種まきしたり、主にプラグを使う場合はそれも難しいため、なるべく多くの種類に対応できるようなブレンド用土が必要となってくる。

さて、その後ブレンド・微調整を繰り返し、比較的良さそうなブレンドを二つ選び、今度は実際に使ってみる段階に入る。

ブレンド途中経過
ブレンド途中経過

この段階で、吸水や水持ち、発芽・発根についてはそこそこ使える土にはなっていたが、細かい点でいくつか不満が残った。

まず、土が渇きすぎるとサラサラになりやすく、水分をやや吸収しにくい。プラグに詰めたときに下の穴から流れ落ちてしまう。また、ポット上げするときに、プラグから取り出す時に根から用土が落ちてしまうのが気になった。

このあたりは、ココナッツピートとパーライトの割合を調整することで改善した。

また、砂が多かったせいか、土が固く締まりやすく、ごく細いタイムのような挿し木がやや困難だった。そのため、砂の量を調整した。

この変更で、渇き過ぎた時にも、今まで使っていたものよりも吸水がよくなったし、タイムの細い枝のような繊細な種類も容易に挿し木ができるようになった。

タイムも容易に挿せる
タイムも容易に挿せる

また、新ブレンドについて何にも伝えていなかったスタッフが「この土、手触りいいですね」と感想をくれ、思わずガッツポーズをしたくなった。

発芽・発根率については、市販のものと比較して特に優劣はつけにくかったのだが、長期間の使用という意味ではアドバンテージができたように思う。また、乾燥したあとの吸水性については市販のものよりいい感じを受ける(すべての市販のものとは比べていないのだが)。

発根も遜色なし

残念ながら仕入れ規模という、いかんともしがたい条件により、コスト面では納得が行くほどの数字は出せなかった。

悩みのコケについても抑制できた模様

テスト期間も含め半年以上使ってみて、以降このブレンドを使って増殖を行うことになった。それなりに手間やコストもかかったが(テストに使ったブレンドやさし穂、種子なども決して少なくはないし)、長年の悩みが少し解消できた。いまのところこれといった不満もない。

挿木用土ブレンド
挿木用土ブレンド

もともと自分たちのために企画し、自分たちだけで使うつもりだったのだが、予想外にいいものができたのでお客様にも試してもらいたいと思い、販売に踏み切ることにした。特にラベンダーやローズマリー、タイムなどの発根や発芽まで時間がかかる挿し木や種まきに試していただければと思う。いままでよりも成果を高めたいという人はもちろん、どうしても挿し木や種まきがうまくいかないという初心者の方も使ってみてほしい。

オリジナル【無肥料】挿し木・種まき用土1リットル

オリジナル【無肥料】挿し木・種まき用土10リットル

 

ローズマリーのような発根に時間がかかるものにも使いやすい

逆にあまり必要ない場面もある。すぐに発芽して定植まで短期間の野菜や花、バジルなどの種まきや、ミントなどの発根率がとてもいいハーブ類。これらは市販の手に入りやすい種まき用土などで充分だと思う。

用土のブレンドは完成までに時間もコストもかかる。手間も多いが、取り組んでみるといろいろな問題も解決できて満足度も高い。

「無理でしょ」と言われても、一度は試してみることが大切だということがわかったのも大きな収穫だった。自分の年齢的にも、今後そういう場面は増えてきそうだし。

カミソリ持つ時は

昔から言うらしい。

「包丁持つ時は 包丁のことだけ考えとれ」

と。

包丁持つ時は

今日はティートゥリーの挿し木作業。ティートゥリーは、あまり気温が下がってくると発根しにくくなるので、そろそろ今年は最後になるかもしれない。

気持ちの良い天気の中、作業をスタートした。枝の処理にそんなに神経を使う種類ではないし、気軽に作業を進める。

単調な作業をしていると、ついいろいろなことが頭に浮かぶ。

「ビニールハウスの周りの草刈り、もう一回しとかなきゃな・・・」

とか、

「昨年ダメになったストーブの煙突もはやめに買っとかなきゃ」

とか、

「今年の忘年会、どうしよう・・・」←そもそも気が早すぎ。

などなど思案しつつ作業をしていたら、カミソリで人差し指をスパッと切ってしまった。

みるみるうちに血が染み出してきて傷口も見えない。勢いよく切ってしまったので、結構傷は深いかもしれない。

すぐに止血して、カットバンを貼る。おそらく大丈夫そうなので作業に戻る。バイ菌が気になるが、カミソリで切っていたのが殺菌作用のあるティートゥリーなのできっと大丈夫だろうと自分を納得させる。それなりに出血もしたし。

指のケガ

挿し木の時に手を切ってしまうなんて我ながら驚いた。何年ぶりだろう、いや、何十年ぶりかもしれない。

結構硬い枝を処理するのに先月から使っていた少し古いカミソリを使ったのもよくなかった。切れにくい刃ほど危ないものはない。

何れにせよ、挿し木枝の処理なんて簡単、カミソリで手を切るはずがない。という軽い気持ち、そして余計なことを考えていたのが一番の原因だった。

午後には傷もふさがった模様だが、ちょうど人差し指の先で、キーボードを打つのも結構つらい。

「包丁持つ時は 包丁のことだけを考えていないとケガをする。」

昔から言われていることなら肝に銘じておこう。

だが、挿し木をしながら、他のことを考えないというのはなかなか難しそうだゾ。

困った理由

寒い日が続く。圃場でも外はもちろん、ビニールハウスの中でも色味が乏しい。ローズマリーの親株も、まだようやくつぼみを見せ始めて・・・という鉢がほとんど。

そんな中、唯一、ドワーフブルーローズマリーの鉢のあるところだけが明るく際立っている。もともと、花はよく咲かせる種類だが、どうしてこれだけ?と不思議に思った。でも、ちょっと考えてみて納得。

ドワーフブルーローズマリー

ドワーフブルーローズマリーは、一昨年から去年にかけてかなり多めに増殖したかい?があって、まだ比較的多くの在庫がある。そのため、今年の春以降、新規の増殖をしていなかった。

他の種類は大抵春から夏にかけて挿し木のためにかなり剪定を行っているので、花が咲くような枝の充実が遅れているのだろう。剪定を免れたドワーフブルーローズマリーだけが、早くから枝を充実させることができて花芽を付けたようだ。

今年は一足早く花を咲かせることができたようだが、さて、来年はいかに?また早くから咲いてもらうようでは困りますけれどねぇ。