水やりの友

夏の仕事で最も大きなウエイトを占めるのが水やりである。梅雨が明けると天候によっては一日2回水をやる必要が出てくる苗もある。

ビニールハウスの中で長時間の水やりは実際、なかなか重労働である。体力はもとより、精神力も疲弊させられる。かといって、なんせ植物の種類が多いからスプリンクラーで一気にという訳には行かない。

そのため、良い蓮口を使うことは夏の水やりを楽にするための絶対条件なのである。かつてはホームセンターで売っているような数百円の蓮口や、先端を回転させるとシャワーからジェット、噴霧になるようなものを使っていたが、やはりそれなりの品であった。そんなとき、有る方から少し上等な蓮口を紹介していただいた。当時一万円を切る価格だったように思うが、実際にそれほどの価値があるのか不安であった。

しかし使ってみて納得。充分な量の水が短時間でしかも優しく植物にかかる。しかも均一に特定の範囲にだけ水が注がれ、無駄に飛び散ることがない。植物に優しく、時間も、水も節約できる。以来手放せなくなった。商品名は「散水ノズル きらら」 である。今では色々なところでてに入ると思う。

散水ノズル きらら

本当はもう一つ大きなサイズが欲しいのだが、今使っているポンプの圧力ではこのサイズが限度だろう。

唯一難点は、素材が銅のため落としたりぶつけたりするとへこんでしまうこと(写真のノズルもだいぶでこぼこである)。大事に扱わないとシャワーの質にも影響してくる。

また、もともと水量調節などはついていないので、手元に市販の水量調節パーツと、外すと水がストップするコネクターをつけて少しだけ利便性を高めて使っている。

たくさん水やりをする人には是非おすすめしたい。水やりが楽しくなりますよ。

雨の日のユーカリ

雨の日のユーカリがしょげている。梅雨が終るのをじっと耐えているかのようだ。実はこの株は丈が6メートル近くはあるのに、先端の葉が私の目の前なのである。

ユーカリ・グニー

つまり、もうかなり横に倒れてしまっているのだ。その上雨で重たくなってなおさら下に垂れてしまった。もともとは種子から育てたユーカリ・グニーという種類である。寒さにも強く、葉の香りも爽やかだということで育てはじめ、隣地との境に植えてみた。最初は順調に育っていたが、2メートルを越えた有る冬、湿った雪の重みで根が持ち上がってしまった。

もともと乾燥した土地を原産とするユーカリのこと、山陰のような湿った土地では細かい根が張りにくいようで雪や大風によって倒れてしまうことが多い。移植も嫌うので、今更動かすわけにも行かず、そのままにしておいたのだが、粘り強くここまで育ってしまった。株元から新芽でもでれば切り戻してしまうという選択肢もあろう。しかし、放置状態のためか、新芽がでる素振りは見せない。

たまにユーカリの葉が欲しいと仰るお客様のためにそのまま育てているぐらいで、普段はなおさら気にかけられないかわいそうな株である。それでも雨の日は、雨粒が葉についてなかなか良い感じである。

ちなみにこの隣にやはり大きなユーカリ・グニーの実生株があるが、こちらはもっと丸い葉である。種子から育てたユーカリは結構育ちに幅が出てくるとは言え、誰も同じ種類だとは信じてくれない。

器用貧乏

ハーブの説明で「〜に利用できる」と言われていても、あまり期待するのは禁物である。「利用可能」であっても、必ずしも美味しいとか、卓越しているという保証は無い。

ミントマリーゴールド

ミントマリーゴールドは、香りがタラゴンにやや似ていることから「貧乏人のタラゴン」とか「貧者のタラゴン」と呼ばれ、「料理に利用できる」とされる。だが、使ってみるとやはり代用。本物のタラゴンには及ばない。

また、ハーブティーにも「利用可能」であり、以前、美味しいという話を聞いて試してみたことがある。結果はイマイチであった。飲めないことはなくとも、日々楽しく飲むという風には思えなかった。それでも、ハーブティーとしては血圧を下げたり、消化に良いという側面もあるのであまり非難するわけにはいかない。また、もしかして収穫時期や入れ方に問題があって美味しくなかったのかも知れず、また試してみようと思う。

花も控え目ながら、まずまず良く咲く。今日訪れたお客様の家では一輪挿しにミントマリーゴールドの花が活けられ、良い雰囲気だった。近縁のレモンマリーゴールドは巨大化して困ることもあるほど育つのに比べ、比較的おとなしく、この点は評価できる。あまり頑丈な様子ではないので、冬に地上部が枯れてしまうと、それなりに心配してしまう。でも春には必ず芽を出して安心させてくれる。

この花を器用貧乏と呼ぶのは失礼かも知れないが、ついつい自分と照らし合わせてそのような印象を持ってしまうのだ。

ピーマンの思い出

3年ぶりにピーマンを育てている。夏野菜の花壇には、トマト、キュウリ、ナスが常連。ピーマン、シシトウ、オクラなどはその年の気分で植えたり植えなかったり、植えるのを忘れてしまったりと言うパターンが多い。

ピーマンと聞くと思い出すのが子供の頃からの一人の友人である。とても真面目で温厚、人間的にも愛すべき人柄だったのだが、ピーマンを非常に、それはそれは嫌っていた。どうしてこいつはこんなにもピーマンを嫌うのだろうと、子供心に不思議に思っていたものだ。

実際、子供のころからピーマンが大好きというのは珍しいように思う。自分も大嫌いではないにせよそれほど喜んで食べる野菜ではなかった。それでも一度美味しさを経験すると評価は一転するものだ。

これももう20年近く前になるが、実家が焼き肉店をしている知人に美味しい食べ方を教えてもらった。といってもいたってシンプルである。ピーマンを生のまま半分に割り、種を出す。たれを付けた焼き肉を乗せてピーマンごと頬張るのだ。ただし、新鮮で美味しいピーマンに限る。ピーマンがいくつあっても足りない。

ピーマン

さて、自分でピーマンを育ててわかったのはその造形の魅力的なことだ。静物画のモチーフに使われるのも納得である。そして枝になっている姿がまた良い。朝方上がった雨粒を光らせ、今朝のピーマンはなおさらいい感じ。できればこのまま鑑賞用として置いておきたいほどであった。

ダイヤーズハーブ

ハーブの用途は様々あるが、一つの大きなカテゴリに染色がある。食用にしたり、ハーブティーにするのに比べある程度のノウハウと器材も必要なため、初心者にはやや敷居が高い。そういう自分も染色についてはほとんど素人同然である。

ダイヤーズグリーンウィード

圃場の横で今年もダイヤーズグリーンウイードが咲き出した。名前の通り、染色用のハーブである。マメ科で成長が速く、病害虫も少ない。どこでも良く育つ。この株、実は昨年の秋、畑の構成を変えるため掘り上げて移動させた。マメ科のものは移植を嫌うものもあり、大株だったので少し心配したが、移植されたことも気づいていないかのような成長ぶりを見せた。

大きく育ち、花も良く咲くので黄色が好きなひとや、大きな庭、そしてもちろん染色をする方にはおすすめだろう。残念ながらここではその実力を発揮できずにいて少々可愛そうである。

ところで、かつて、染織家の方からハーブや野草で染めた毛糸で編み上げた見事なマフラーをいただいたことがある。何色もの色が使ってあるのに目に優しく、見ているだけで楽しくなる作品だった。私のようなものが普段おいそれと首に巻けるようなものではない。いつかこのマフラーを巻いて颯爽とでかける日のために大事にとってある。そんな余裕が出来る頃には染色にも足を踏み入れることができるかも知れない。染色用ハーブにもそれまで待っていてもらわねば。