付箋の行方

読書をゆっくり楽しめるのもあとしばらく。オンシーズンになったら、しばらくお預けだ。

書店で新刊を眺めるのも楽しいものだが、図書館には図書館の楽しみがある。

先日借りた、ある一冊の本。読み進めていたページの中に、一枚の付箋。
付箋
前に借りた人がつけたのだろうか。

名前のように思える数文字は、前後のページには見当たらなかった。著者はフランス文学者なので、フランス文学に関わる人の名前かもしれない。フランス文学に縁のない私は知りようもないが。

それとも、前に借りた人が本を読んでいた時、テレビやラジオで聞いた名前をさっとメモしたものかもしれない・・・と想像は広がる。付箋に書くぐらいだからきっとその人にとっては大事なデータに違いない。

普段ならついネットで検索してみるところだ。きっとGoogle先生ならこの数文字について詳細に教えてくれるだろう。でも検索したら、「ああそうか」と、それでおしまい。

一昔前なら、人名辞典で探してみたり、図書館のインデックスあたりを覗いてみたり・・・とちょっと探偵気分が味わえただろう。わからなければなおさら前に借りていた人がどんな人なのか興味もわいてくるだろう。

なんでもすぐわかるというのは便利なことでもあるが、面白みに欠ける。

植物を育てていて楽しいのも、わからないこと、思いもよらないことが日々たくさん出てくるからだ。もしゲームの攻略本のように、全てこの通りにすればうまく育てられるというマニュアルがあったら園芸の楽しみなんて一体どれほど残ることか。

毎日育てているラベンダーだって、ローズマリーだって、タイムだって、同じ種類なのに、毎年のように新たな疑問が湧いてくる。Google先生でも、「これかもしれない」という答えはいくつか示唆してくれるが、どれが正しいかは自分で確かめてみるしか方法がない。そして、自分で思考錯誤しつつ答えを見つけることに園芸の喜びと楽しみがあると思う。

結局付箋はそのままにして返却した。

次、このページを開いた人は検索するのだろうか。もしかしたら、前借りていた人が、付箋のことを思い出して再び借りに来るのかもしれない。

次の冬が訪れたら、またこの本を借りて、付箋の行方を追ってみようと思う。