少しだけ待ち遠しい寒波

晴れの日が少なくて毎日のようにどんよりした空が広がるのはいつもの年と変わらないが、今年は気温が妙に高い。

この冬、雪が降ったのはまだ1回、困るような積雪でもなかった。朝、作業に出かけるのが嫌になるほどの寒さの日があっただろうか。今朝もスクーターで畑へ向かったが、覚悟していたのにそれほど寒さを感じなかった。

これではいくら開けっ放しのビニールハウスでも、十分な寒さを苗たちが感じてくれるか若干心配だ(寒さに当たらないと春の成長が芳しくない種類も多い)。

一方で、目に見えて目立つのはアブラムシ。天敵もほとんどいないし、暖かな冬で活動が例年よりも活発のように見える。

ブラシで擦り落とすなど、対策は面倒だが、今の時期、育っているハーブを教えてくれているとも言える。葉が硬くなったローズマリーやタイムには見向きもせず、この季節でも柔らかく伸びようとするジャーマンカモミールやコリアンダーがお気に入りのレストランになっているようだ。

コリアンダーに着くアブラムシも、少しでも暖かい方がいいのだろう、先端の柔らかいけれど上に伸びている葉よりも地面近くにある、最初に育ってもう茶色くなり始めている葉によく見られる。

同じ意味かはわからないが、ふわふわとした細かい毛に覆われたカルドンの葉の裏もお気に入りのようだ。

 

当店で栽培しているグラス類は、レモングラスやシトロネラなど、寒さに弱いものが多いので、これらはもちろんこの時期はじっと耐えるように成長を止めている。これらにはアブラムシは全くいない。その代わり、冬でも青々と成長しているバニラグラスにはうんざりするほど集まっていた。急いで剪定したり「テデトール」で対策したが、細かいところは残っているだろう。

来週は寒波の予報が出ている。普段の年ならば気が重くなるが、今年は少しだけ待ち遠しい。害虫たちが春の勢いになるのを少しでも遅らせてほしいものだ。

現地調査

季節をひと月勘違いしそうになるぐらい暖かい3月。畑の零れ種から育ったコリアンダーも1株は何を思ったか、もうトウ立ちし始めてしまった。この頃の気温が高かったせいか、それとも冬の寒さが不十分だったせいだろうか。

コリアンダー
トウ立ちしてしまったコリアンダー(パクチー)

さて、ネットで調べれば世界中あらゆる場所の情報が得られる時代だが、それでも自分の目や耳や肌で知ることとネット上で知ることでは重みがずいぶん違う。

昨年のことだが、見に行った映画について知人に話したら相当酷評していた。知人はもちろん見ていないのでネットでの評価を鵜呑みにしていたようだったが、自分で見たらとてもそういう感想にはならないのではと驚いたことがあった。ぜひ自分の目で観た上での感想を聞きたかった。

以前から疑問に思っていて、モヤモヤとしていたことに、

「ベトナムでは、やはり『ベトナムコリアンダー』が主に使われているのだろうか」

ということがあった。

いわゆる日本でハーブとして最初に紹介されたコリアンダーは、セリ科一年草のコリアンダー(パクチー)である。ところが、育てたことがある人はわかると思うが、気温が高くなると一気にトウ立ちして花芽をつけはじめ、使うべき葉は貧弱になってしまう。

もちろん、水耕栽培や、栽培の専門家ならでノウハウもあって技術や設備でクリアしているのかもしれないが、やはり暑さにも強いタデ科のベトナムコリアンダーが主流ではないだろうかと思わざるを得なかった。

そんな時、いつもお庭などでいろいろお世話になっている庭師のM氏が一月ほどベトナムに仕事で行くと聞き、ぜひ現地の状況を見てもらうようお願いした。奇しくも米朝首脳会談と重なる時期だったので、そのへんも現地からいろいろ教えてもらいたかったのだが、会談のハノイからはずいぶん離れたホーチミンなのであまり関係がなかったようだ。

二つのコリアンダー
料理に出てきた二つのコリアンダー

さて、問題のコリアンダーとベトナムコリアンダーの使われ方だが、やはりタデ科のタイプのほうが主流でセリ科の方はほとんど見かけなかったとか。ひと月の間で料理に出てきたのは数回ほどのようだ。やはり、2月で気温が35度にもなる環境ではなかなか栽培は難しいのではなかろうか。ハノイならばまた状況も違っていたのかもしれないが。

ベトナムのハーブ類
ベトナムのハーブ類

さらに、同じベトナムコリアンダーでも、青軸のものと赤軸のものがあったとか。たくさん使われる農産物ならば香りや味などでいろいろなバリエーションのものが育てられるのも当たり前だが、そういうところをきちんと見てもらえるのも庭師で植物への造詣が深いM氏ならではで、しかるべき人に頼むことができてよかったと思う。

正確には「自分の」目ではないが、少なくとも信頼できる目を持った人を通して知ることができたことには満足できた。次はぜひ自分の眼と鼻と舌で感じてみたいものだ。

想像力・推察力の欠如と観察不足

例年よりはずいぶん気温が高めに推移しているとはいえ、着実に秋は深まり、冬ももうすぐそこまで来ている気配。

コリアンダー実生

零れ種のコリアンダーも勢い良く伸びている。あまりに密集していたので、少し前にきちんと畝を作ったところに何株か移植したのだが、そちらはあまり伸びが良くない。時期的には問題ないはずなのだが、やはり移植を嫌うというのがこういう時に良くわかる。

ブルーキャットミントとホトケノザ

ブルーキャットミントも秋の最後の花を咲かせている。その後ろでなぜかホトケノザが季節を間違えて咲き始めている。写真だけ見るといつの季節のものかわからないぐらいだ。

前回、

「植物を育ててみると発見が多く、観察力・想像力・推察力がついてくる」

なんて偉そうなことを書いていたのだが、そういう自分が想像力や推察力が欠如していたのでは開いた口がふさがらない。

この夏、井戸から水を引いてくるポンプが不調となった。蛇口を閉じてもポンプが止まらないのだ。原因はポンプのフィルターの掃除を怠ったために圧力スイッチに泥が詰まったことだった。大分解掃除が必要で暑い中本当に手こずった。

そして、先日。どうやらまた井戸ポンプの調子がおかしい。水圧は上がらないし、井戸から引いて分枝させた手洗い場の水を止めてもポンプは動いたまま。夏に分解したばかりなので、フィルターやパイプが詰まったかもしれないと、まずこれらを掃除した。汚れはそれほどでもなかったので、これで修理完了と思いきや、栓をひらいてもやはり水圧が弱いし、閉じてもポンプは動き続けている。

分解したのにまた分解か・・・と気分は重くなる。とてもすぐに取りかかる気にはなれず「明日にしよう」と先延ばしを決める。もうこの時点で、ポンプの圧力スイッチばかり疑っていた。

ところが、午後、井戸からの水を一度貯めておくタンクのところに行ってみると、水浸し!調べてみるとタンクへ通じるホースの途中でホーズバンドが緩んで水がだだ漏れになっているではないか。これではいくらポンプを直したところでポンプが止まるわけはない。

ホースバンド補修

早速修理に取り掛かり、ホースバンドもずいぶん錆びていたので新品と交換。修理は5分もかからず終わる。水栓を閉じたら、問題なくポンプも止まった。

圧力スイッチのことばかり考えていて、先で水漏れしていることに考えが及ばなかったとは・・・。我ながら呆れてしまったのである。想像力・推察力の欠如と観察不足だ。

ただ、ポンプを分解してからでなかったのが不幸中の幸い。これから少し時間に余裕もできる時期なので、本格的に寒くなる前に配管関係を見直すにも良いタイミングかもしれない。

物事は良い方に考えねばならないと気を取り直した一件だった。

早起きは種子とともに

夜明けが少しずつ早くなってきた。朝はそれほど苦手ではないほうだが、冬の間は他の季節に比べると布団から出るのがおっくうだ。

それでも2月も後半になると、明るくなるのが早くなってきたことと、もう一つ布団から抜け出すモチベーションが発生するので、朝起きだす時間が早くなりつつある。

春の苗のための種まきは種類にもよるが秋遅くから始まる。場所の都合もあるが、一気に撒いてしまうのではなく、種類を変えたり同じ種類でもずらしてまいてゆく。

とはいえ、気温が極端に時期は撒いた種子も発芽する種類は非常に少ない。そして、それらの種子が眠りから目覚め始めるのが少し暖かくなるこの時期なのだ。

毎年同じような種類の種子だし、年によって姿が変わるわけではない。それでも種子が発芽するのは待ち遠しく、発芽を見つけるとやはり嬉しい。毎日何かが発芽しているわけではないにせよ、春に向けた動きがあるというだけでも朝布団から出る気分がずいぶん違うのだ。

ハーブの場合、いろいろな種類があるので発芽の姿も様々。サイズも様々。仕事にもまだ余裕があるこの時期はじっくり観察するのもまた楽しいものだ。

イタリアンパセリの発芽

気温が低くてもよく発芽するイタリアンパセリ。少し気まぐれで、発芽するときはすごくたくさん出てきて困るが、同じパッケージでも「あれ?」と不思議に思うぐらい発芽しないこともある。
ジャーマンカモミールの発芽
ジャーマンカモミールは、とっても小さいが、ギザギザがついた本葉が出てくると見分けやすい。こぼれだねで生えてきても見つけやすい種類だと思う。
ローマンカモミールの発芽
こっちはローマンカモミール。いつもは株分けで増殖するので、発芽した姿は普段そんなに見かけない。
コリアンダーの発芽
以前も紹介したコリアンダー。たまに一つだけしか出てこないこともある。
ストロベリーの発芽
ルーゲンストロベリー。小さくてもしっかりイチゴの葉だ。ハーブも、種類によっては小さいうちと大きくなってから葉の形が違うものも結構あるが、これは見間違えることがない。
アニスヒソップの発芽
アニスヒソップは小さい上にあまり特色がない芽生え。本葉が出てくるとすこし分かりやすいが、零れ種で生えてきたら雑草と見分けるのは困難だ。
ナスタチウムの発馬
ナスタチウム。丸い葉の上に玉のように乗る露が魅力だが、発芽したばかりの葉にもしっかりと露が乗る。
カルドンの発芽
たくましく大きく育つカルドンは、発芽からして力強く土を押しのける。
チャービルの発芽
チャービルも割と気まぐれで、出るときにかぎってこんなにたくさん。分けるのが大変だ。
ローズマリーの発芽
普段は挿し木でばかり増やすので、これもお目にかかることが少ないローズマリーの発芽。親木の株元の零れ種である。

まだまだ数え切れないほどあるのだが、今日のところはこれまで。

ゆっくりとハーブたちの芽生えを観察できるのももう少し。本格的な春になるとそんな余裕もすくなくなるから、せいぜい今のうちにじっくりちいさな命のスタートを見つめてみたい。

コリアンダーの親心

比較的低い温度でも発芽しやすいコリアンダー。春にむけた苗の種子もぼちぼち芽を出し始めた。
コリアンダーの発芽 二つ仲良く並んで芽を出す
コリアンダーの種子は、丸い殻の中に二つの種子が入っている。そのため普通に蒔くと、二つの芽が仲良く発芽する。なので、後で分けたり、間引きするのが面倒なら始めから二つに割ってから蒔いてもよい。
コリアンダーの種子
コリアンダーの種子 殻(下側)の中に、二つの種子(上)が入っている
コリアンダーの発芽を眺めていると、なんで二つ入っているのかいつも不思議に思う。しかもわざわざ殻の中に入れて・・・。
きっと何かの理由があるのだろう。正月の暇に任せて想像を巡らせてみた。
二つの種子が入っている殻はまん丸で、気をつけないと少し傾いたところではコロコロと転がっていってしまう。
コリアンダーの種子 植物全般に言えることだが、親が育っているところからなるべく離れた場所へ広がっていく工夫が多くの種子にある。タンポポのように飛んでいく能力を持っている種子などが代表だ。
きっと、コリアンダーの殻もコロコロと遠くへ転がるために丸くなっているのかもしれない。
「もしかして」と思い、殻ごと水に浮かべてみたら案の定プカプカ浮く。大雨が降った時にはゴムボートのように水に浮かびながら遠くへ行くことを期待しているのかもしれない。
コリアンダーの種子 水に浮かべてみた。半日経っても浮いていた
種子が二つ入っているのも、一つがうまく発芽しなかった時の保険や、共成長といって、単独で育つよりもまわりに複数の株があった方が競って成長しやすいことを狙っているのだろう。
でも、遠くへ旅立って発芽した時、寂しくないように二つの種子を入れてやった親心ではないかとつい思えてしまうのだ。