試行錯誤の天窓取り付け

天気任せの農作業。その日になって当日の作業が決まることも多い。

今日は朝から快晴、風も弱め。雪害ビニールハウス修理の総仕上げにはもってこいの天気!と、朝一番の仕事をビニールハウスの天窓付けに決定した。

この天窓の取付、毎回ビニールを張り替えるときに大苦戦する問題の作業。一応、昨年プロの作業方法を間近で見て理解した。

ただ、先日分解するときに天窓をビニールハウスの上で持ってもうひとつ理解した。

「無理!!」

大きくて重い天窓。ビニールハウスの上の足元の悪いところを持って歩くなど不可能である。万一風でも吹いた日にはバランスを崩して天窓ごと落下するのは目に見えている。改めてプロの凄さを感じた。

歩く
できるかも・・・と一瞬思ったのだが。

その後、どうやったら安全にハウスの上まで天窓を持っていけるかを考え続けていた。

マニュアルのない作業を一から考えるというのはとても面白いものである。頭の中でああでもない、こうでもないと試行錯誤しながら検討を重ねる。もちろん、クレーンなどの重機を使ったり、それこそプロに依頼すれば瞬時に解決するが、お金をかけず、頭を使うことに意味がある。

スタッフの、「ビニールハウスの横に脚立を立てて、脚立からレールのように長いパイプをビニールハウスのてっぺんに渡して引きずり上げたらどうだろう」という案がヒントになった。

脚立にパイプをかけてもいいが、結構不安定になりそうだ。そのうえすぐ脇にはビニールが隣接している。万一倒れたりしてビニールが破けてもコトだし・・・。というところで止まっていたのだが、

「いっその事、隣のビニールハウスをパイプの支えにすりゃいいじゃん」

と閃いた。ビニールハウスのパイプ同士なら固定も確実だ。それどころか下手すりゃ一人でも作業ができそうだ。

農業の大先輩でもある伯父は、

「おらぁ、誰かと一緒に仕事するのは好かん。二人や三人でする仕事をどうやったら一人でできるか考えるのが面白い」

と言っていたが、これも農業の楽しみの一つだと思う。頭と道具を上手に活用、組み合わせて作業をやりとげたときの充足感はまた格別だ。実行に向かってムクムクと意欲が湧いてきた。こうなるとあとは速い。

天窓部分の穴開け
天窓部分の穴開け

まずは天窓が覆いかぶさる部分のビニールに穴を開け、周囲を専用の固定具で留める。この作業だけはビニールハウスの上に上がらないことにはどうにもならない。そもそも、入り組んだビニールハウスの上部から体を出すのがひと仕事。お腹が出ている頃だったらそもそもこの部分を抜けることさえできなかっただろう。

パイプが入り組むハウス上部
パイプが入り組むハウス上部

毎回思うのだが、これを設計したひとは自分で取り付けたりビニールを張ったりはしなかったに違いない!

次に、隣のビニールハウスにレールになるパイプを固定する。この作業はお手の物。天窓を設置する側のビニールを破らないように細心の注意を払う。

レール固定
レールになるパイプを隣のハウスに固定

天窓運搬

天窓運搬

天窓を運んで、ヨイショ、レールに乗せる。

紐固定

天窓に紐をつけ

引っ張る

設置側のビニールハウスからゆっくりと引っ張る。

慎重に、慎重に、左右のバランスも取りながら。

引っ張る

もうちょっと

到着

無事到着。

あとは内側から金具に固定。

inside

内側から見るとこんな感じ

テスト

開閉テストをして

完成

無事完成。

レールの位置に改善の余地はあるものの、ほぼ大きな問題もなく取り付けができ、大きな達成感。

隣にビニールハウスがない場合でも、支えになるパイプを地面に突き立ててしっかり固定すれば同様にできそうだ。

傷

あまり夢中になってやっていたので、いつの間にか手の甲に大きな引っかき傷ができていたが、これで冬の大雪の被害も全て解消。オンシーズンの準備も完了である。

竹を使う理由

行く、逃げるの1,2月が終わり、いよいよ3月。「あっという間に去ってしまった・・・」とならないように気合が入る。

植物の成長が鈍る冬は他の季節に比べるとどうしてもできる仕事が限られてくる。そこでビニールハウスの改修、補修、作業環境の改良などを集中して行っているが、この作業ももうすこしで終わりを迎える。

例年のように行うのが、育苗時に苗を並べるための竹の棚の改修である。

ベンチ作り

育苗のために腰の高さぐらいまでに上げた台は育苗ベンチと呼ばれ、普通はネット状になった薄い網状の金属(エキスパンドメタルというんだそうな)を広げてその上に苗のケースを並べることが多い。当店にも、譲ってもらったエキスパンドメタルがいくつかある。

エキスパンドメタル
当時憧れだったエキスパンドメタル

この仕事を始めた当初は大規模に栽培しておられる農家が大抵このエキスパンドメタルを使っているのを見てすこし憧れだったこともある。

お金もなかった当時は地面に杭を立て、その上に桁を渡し、その上に木製のパレットを乗せて長い台を作っていた。水はけは問題ないし、パレットは近くの運送業者でいくらでももらえるような時代だった。

ただ、使い古したパレットに始終水をかけることで案外腐ってしまうのが速く、処分も結構大変だった。また、そのうちパレットがプラスチックのリユース品になり、譲ってもらえなくなった。この時点でエキスパンドメタルに変えてしまうことができたら今頃全てがエキスパンドメタルの台になっていたのかもしれないが、残念ながら当時はそんな余裕もなかったのだ。

また、エキスパンドメタルは実際に使ってみると端の部分が引っかかるし、夏は結構暑くなる。しかも丈夫な分、加工が難しい。ちょっとサイズを変えようとしても一苦労だ。そのうえ処分となると外部に頼まなければ手に負えない。

安価で手に入りやすく、加工がしやすく、片付けも楽、となったら必然的に竹が候補に上がってきた。

安価で手に入りやすいということでは、ハウスの目の前に竹林があるし、親戚にも放置された竹林がある。そのうえスタッフの家にも竹林がある・・・といった感じ。竹を切るのはそれなりに重労働なのでむしろ切ってもらえると喜ばれるぐらいで、気持ちほどのお礼で済むことが多い。

いつも竹を切り出す竹林

もちろん、加工はこの上もなくしやすい。よく切れるノコギリとナタさえあれば十分である。

ナタと竹

それなのに耐久性は相当高い。

跳ね上げ式の台
跳ね上げ式の台

開け閉めが出来て通路のように使える部分もこのとおり、簡単に作れる。通路幅がすこし広くとりたい場所も、ノコギリ一つでハイ、出来上がり。エキスパンドメタルではこうはいかないだろう。

それでも何年も使っていると所々が折れたり腐ってくるので取り替えが必要だ。取り替えた竹は最後は燃料となり、作業場のストーブで主に焚き付けとなり使命を終える。更に言えば残った灰も畑に撒かれて植物を育てる。極めて気持ちの良い素材だ。

交換した竹
古くなって交換した竹
竹の最後
最後は燃料として

竹を使うメリットとして抗菌作用が・・・とも言われるが、とりあえず育苗においてはそれほど違いは感じないので、この点でのメリットはほとんどないようだ。ハーブ自体の抗菌作用がまさっているのかもしれない。

加工する手間なども考えるとコスト的にはむしろエキスパンドメタルに軍配があがるのだろうが、竹を切ったり割ったりも冬の良いエクササイズのつもりで行っている。

竹切りがしんどくなるまでしばらくはこの素材と付き合っていくことになりそうだ。

早起きは種子とともに

夜明けが少しずつ早くなってきた。朝はそれほど苦手ではないほうだが、冬の間は他の季節に比べると布団から出るのがおっくうだ。

それでも2月も後半になると、明るくなるのが早くなってきたことと、もう一つ布団から抜け出すモチベーションが発生するので、朝起きだす時間が早くなりつつある。

春の苗のための種まきは種類にもよるが秋遅くから始まる。場所の都合もあるが、一気に撒いてしまうのではなく、種類を変えたり同じ種類でもずらしてまいてゆく。

とはいえ、気温が極端に時期は撒いた種子も発芽する種類は非常に少ない。そして、それらの種子が眠りから目覚め始めるのが少し暖かくなるこの時期なのだ。

毎年同じような種類の種子だし、年によって姿が変わるわけではない。それでも種子が発芽するのは待ち遠しく、発芽を見つけるとやはり嬉しい。毎日何かが発芽しているわけではないにせよ、春に向けた動きがあるというだけでも朝布団から出る気分がずいぶん違うのだ。

ハーブの場合、いろいろな種類があるので発芽の姿も様々。サイズも様々。仕事にもまだ余裕があるこの時期はじっくり観察するのもまた楽しいものだ。

イタリアンパセリの発芽

気温が低くてもよく発芽するイタリアンパセリ。少し気まぐれで、発芽するときはすごくたくさん出てきて困るが、同じパッケージでも「あれ?」と不思議に思うぐらい発芽しないこともある。
ジャーマンカモミールの発芽
ジャーマンカモミールは、とっても小さいが、ギザギザがついた本葉が出てくると見分けやすい。こぼれだねで生えてきても見つけやすい種類だと思う。
ローマンカモミールの発芽
こっちはローマンカモミール。いつもは株分けで増殖するので、発芽した姿は普段そんなに見かけない。
コリアンダーの発芽
以前も紹介したコリアンダー。たまに一つだけしか出てこないこともある。
ストロベリーの発芽
ルーゲンストロベリー。小さくてもしっかりイチゴの葉だ。ハーブも、種類によっては小さいうちと大きくなってから葉の形が違うものも結構あるが、これは見間違えることがない。
アニスヒソップの発芽
アニスヒソップは小さい上にあまり特色がない芽生え。本葉が出てくるとすこし分かりやすいが、零れ種で生えてきたら雑草と見分けるのは困難だ。
ナスタチウムの発馬
ナスタチウム。丸い葉の上に玉のように乗る露が魅力だが、発芽したばかりの葉にもしっかりと露が乗る。
カルドンの発芽
たくましく大きく育つカルドンは、発芽からして力強く土を押しのける。
チャービルの発芽
チャービルも割と気まぐれで、出るときにかぎってこんなにたくさん。分けるのが大変だ。
ローズマリーの発芽
普段は挿し木でばかり増やすので、これもお目にかかることが少ないローズマリーの発芽。親木の株元の零れ種である。

まだまだ数え切れないほどあるのだが、今日のところはこれまで。

ゆっくりとハーブたちの芽生えを観察できるのももう少し。本格的な春になるとそんな余裕もすくなくなるから、せいぜい今のうちにじっくりちいさな命のスタートを見つめてみたい。

民族大移動

心配していた割には積雪が少なかった週末の寒波。それでも10センチほどの積雪があると日当たりがあまり良くないこの場所ではしばらくは外仕事ができにくい。

仕事の選択肢が少なくなってしまうが、こんなときには、しなくても大丈夫だがしておくと後で楽になる仕事を行うのには丁度良い。

そこで、冬の間ほとんど成長しない種類の苗をより寒さが厳しいビニールハウスに移動させる作業を行った。

寒さに強い種類は、冬の間は成長を諦めて落葉したり、さらにはあっさり地上部をぜんぶ無くして冬を凌ぐ。こういう種類はむしろしっかり寒さに当ててやる方が春からグンと成長するし、少し暖かいビニールハウスにおいていてもあまりメリットはない。

なので、始終開けっ放しでほぼ外気と同じ環境のビニールハウスで春まで過ごさせるのだ。

例えば、ホップや地上部がなくなる種類のミントなどがこれにあたる。

ただ、単に移動させるだけでなくて、少し手を加える。

苗には秋に枯れた葉が残り、株元には雑草の芽やコケが生えていることも多い

まず、枯れた枝や葉を剪定して、株元の草やコケも取り除く。

株元をきれいに掃除

湿り気が多い山陰の冬は放っておくとコケばかりが良く育つのが悩みの種。そこで、コケが生えにくいように表面をそば殻くん炭で薄く覆っておく。これでコケが生えるのが相当防げる。おそらく、そば殻くん炭のアルカリ性がコケを抑制しているのではないかと考えているが、実際のところはよく分からない。もちろん、春先に生えてくる雑草対策としても有効だ。

表面に薄くそば殻クン炭を敷く

表面を覆ってしまうと、乾き具合がわかりにくくなるのが難点だが、乾きにくいこの季節だし、土の表面が覆ってあることでより乾きにくくもなるようだ。

1ケース作業完了!

1ケース処理するのに5分ぐらいはかかるが、忙しい春になって雑草やコケを取る手間を考えると決して無駄ではない。

株元にすでに小さな芽が

処理を終えたケースは極寒のビニールハウスへ大移動。

ずらりと並んで春を待つ苗たち。春には元気に芽を出してくれるだろう。

これからしばらくこの作業が続きそうだ。

気の進まない仕事

雨漏りがしてるなあ・・・。
一昨年張り替えたビニールハウスだが、今年のはじめぐらいから、ところどころから雨が漏るのが気になり始めた。

原因はいくつかある。

まず、ビニールハウスの骨組みと、ビニールがこすれやすい場所は穴が開きやすい。特にてっぺんなどの突起部分はなおさら。同じくビニールを押さえるベルト(マイカ線と呼ぶ)が当たる場所も要注意だ。

また、問題なのがカラス。ビニールハウスの上に時々止まるぐらいならまだ良いのだが、内側にいる昆虫をくちばしでつついているようだ。あんな強力そうなくちばしで突かれたのでは薄いビニールなどひとたまりもない。

そのほか、そんなに多くはないが、内側に侵入した鳥が外へ出ようとして激突したり、ハウス内部での作業中に、あやまって脚立などが当たったりというようなこともある。

2年ぐらいするとこれらの原因でビニールには結構な数の穴が開いてくる。

実際の所、冬でも結構開けっ放しだし、加温するわけでもなく、苗を育てるという点では少々穴が開いていても大きな弊害はない。

とはいえ、放っておくと徐々に大きくなるし、作業する場所の上などはやはり雨漏りはうれしくない。

なので、全てを補修するというのは大変ということもあり、作業スペースの上や、極端に大きな穴が開いたところだけの補修は必要だ。

補修テープ
ビニールハウス専用の補修テープ。幅が広く、厚め。

しかし、春から初夏はオンシーズンで忙しいし、梅雨の間は濡れていてなかなか作業ができない。夏はパイプが激熱になるので、熱くて作業にならない。涼しくなるとまた本業が忙しい。冬は寒いし風が強くて危険。・・・いろいろ言い訳があるが、つまり、気が進まない仕事なのだ。

先日、うっすらと雪が積もった。雪が徐々に溶けてくると、空いた穴からポタポタとしずくが垂れてくるのがよくわかる。作業スペースの上あたりも何箇所かあるようなので、ようやく重い腰を上げることにした。

数日後、久しぶりに晴れた日を狙ってビニールハウスの上に登る。高所恐怖症というほどではないが、先月、プロにビニールの張替えをしてもらった時に聞いた「滑り落ちて大怪我をしたことがある」という言葉が思い出される。

houserepair1
何度あがってもやっぱり怖い

上から見ると、中から見るよりはるかに多くのコケがビニールに付着している。本当かどうか知らないが、山が近くて湿り気が多いと、山から飛んでくる花粉(スギ花粉だろうか)を栄養にしてビニールの上でもコケがはえるとか・・・。

補修テープを貼るにもまずは湿らせた雑巾でコケを拭き取ってから貼らなくてはいけない。

ビニールハウスの補修
移動は慎重に

また、思ったよりも穴が空いている箇所が多く、慎重にあっちへ行き、こっちへ行きしながら補修を行う。足の裏、スネ、膝、手など、使える所を全て使ってクモのように移動する。パイプの位置からずれるともちろんビニールを突き破ってしまうので、慎重に。

ビニールハウスの補修
天気は良いが、吹きっさらしなので結構寒い。裸足も冷たいが、緊張感で寒さはあまり感じない。もちろん、ビニールハウスの上に登って写真を撮るような余裕もない。

とりあえず、今すぐ問題になる場所だけ補修を完了。30分ほどであったが、何時間も作業をした感じがして、地面に降りた時には大きなため息がでた。手も、足の裏もコケと汚れで真っ黒。スネが痛む。ジーンズやシャツも所々が黒ずんでいた。

これでこの冬はなんとか大丈夫。次に問題になる頃にはビニール全体の張替えになるだろう。ヤレヤレ。