腰の四次元ポケット

百姓とはよく言ったもので、仕事はハーブを育てることにとどまらない。先日から行なっている竹切り(「竹と椿」参照)もその一つだし、ビニールハウスの修理などの大工仕事、時には配管修理やモルタル塗りも行なわなくてはならない。まるで水道屋さんか左官さんである。

釘袋

そんな時に頼りになるのが腰に付ける釘袋である。10年ぐらい前にとある金物屋さんで、棚の下のほうにホコリをかぶっているのを見つけて購入した。現在はツールのスペースが細かく区切られたものが主流のようだが、そう言った釘袋はもっと専門性の高い仕事向きだろう。自分のような何でも屋さんには何でも入るシンプルな釘袋がぴったりである。釘や木ねじはもちろん、金づち、ドライバー、鉈、スパナやレンチ、巻き尺、インパクトドライバまで入ってしまう。
もちろん園芸作業にもかかせないツールの一つだ。苗のラベルや、剪定ばさみ、手袋、折りたたみノコギリ、シャベルや鎌まで飲み込んでしまう。また、ちょっと剪定した枝切れや、苗から取り除いた雑草も一時的に放り込んでおけるのも嬉しい。

ハトメリングを装着
ハトメリングを装着

冬場は特にツルバラの誘引作業時に欠かせない。太巻きの麻紐を入れておくと非常に仕事がスムーズにゆく。今年、この作業が更に円滑にできるよう、ハトメリングを取り付けた。このリングから紐を出すようにすると、先端が分かりやすいし、絡まりにくくなる。

冬のバラの手入れには欠かせない
冬のバラの手入れには欠かせない

こんなふうに大変重宝して愛用している釘袋ではあるが、時には心が揺れ動くことがある。工事現場を通りかかる時、十本以上のツールを誇らしげに釘袋にぶら下げ、カチャカチャと音を立てている現場のお兄さんを見ると、やはりあの釘袋に憧れてしまうのである。

竹割と鉈

先日から、育苗場の台を修繕するために竹を切る作業を少しづつ始めている。とりあえず今年はビニールハウス一棟分の台を直す予定だが、それでも結構な数の竹が必要になる。

竹を切り倒し、長さ120cmに切り、幅5cm程度に割っていく。竹を割る時に必要になるのが鉈である。もう何年も前、一番最初にこの作業をした時に使ったのが竹割器?なるものであった。しかしこれが全く役に立たなかった。太さが一定しない孟宗竹が対象なので、この竹割器が使えるのは長い竹のほんの一部のみ。刃の間に竹がはさまってしまい、どうにもこうにも行かなくなることも度々。結局鉈が一番良いという結論となった。

鉈

鉈はいつの頃からか実家の納屋に放置してあった。おそらく今は無き祖父のものだと思うが、いわゆる普通の鉈と違い、木製の握り部分が無い。刃の付け根がそのまま手元に向かって延長してあって、その先が二股に別れている。最初手に取った時、握る手は痛いし、良くこんな刃物が使えるものだと不思議でならなかった。

鉈

端が二股に広がっている
端が二股に広がっている

父に尋ねるとおそらく握りの部分に布や紐を巻いて使うようになっているんじゃなかろうかと教えてくれたので、綿ロープを巻き付けて使ってみた。見た目はスマートではないし、刃先にも出っ張りがあって頭でっかち。あまりカッコよくは無い。やはり木製の握りで、刃を収めるサヤが付いているのがあこがれである。しかし、使っているとそれなりに手になじんできたし、刃先の出っ張りも使い慣れない鉈を地面の石などに打ち付けた時も刃を傷めることが無い。

刃を研ぎ直して、紐も巻き直した
刃を研ぎ直して、紐も巻き直した

一年ぶりに引っ張り出した鉈は所々刃が欠けていた。今回もまだまだ竹を割ってもらわなければならないので刃を研ぎ直した。紐も少し細めのもので巻き直す。前よりも手にフィットする感じになり、竹割も楽しくこなせそうである。

棘との戦い

天候が回復して庭作業を集中して行なっている。このところはお客様のお庭のローズのお手入れ。冬の剪定と蔓バラの誘引である。

知り合いのロザリアンは鋭い刺を持つ蔓バラの誘引も全て素手でこなすと言うので感心する。自分もゆっくりと手間をかけて慎重にやるのなら素手でできるかも知れない。でも、お客様の前であまり悠長に作業を進めるわけにもいかないからこの作業に欠かせないのが革の手袋だ。ローズの強力な棘に素手で立ち向かっていけるほど手の皮は厚くないし。

革の手袋

もう5年以上使っている革の手袋も所々破れたりしてボロボロである。足も大きいが手も大きい自分は市販されているLLサイズの手袋では小さくて仕事がし辛い。指の股(というのかな)のところまでしっかりと入らないのだ。

愛用している皮手袋はLLBeanから個人輸入したものでもう4代目ぐらいになる。指の長さも充分だし、厚手で丈夫。しなやかで使いやすいのだ。だが、残念ながら今のカタログにはこのシンプルなデザインのものは載っていない。次の候補が見つかるまでは直し直し使う事になりそうである。

まだまだ頑張ってもらわなくてはならないのでローズのお手入れが一段落したら破れ目などを補修してやるつもりだ。

こんな厚い手袋をしていてもローズの棘は容赦なく手を突き刺してくる。紐で誘引するときにはさすがに手袋は取らなくてはならないし、終ったときには手は傷だらけ。夜、お風呂に入るときが大変なのである。

気になる最低気温

園芸をしているものにとって、気温はなにかと気になるものだ。私の場合、特に冬はほぼ毎日温度計をチェックする。

ここは圃場の中でも一番暖かい(寒くない)、二重ハウスの中。といっても加温はしていないので0℃近くまで下がる。レモングラスやヘリオトロープ、フルーツセイジなどは冬の間だけこのハウスへ引っ越しする。他のハウスよりはまだましなのだ。

最高最低温度計

今朝も最低2度まで下がったようだ。この時点で9時過ぎなのにほとんど気温は上がっていない。例年、よほど寒い日でないかぎりは2度になる事はないのに、ビニールの隙間が大きくなっているのだろうか。またチェックしておかないといけない。

無加温が原則であるが、「この冬一番」なんていう寒気がやって来る時にはさすがに夜の間だけ小さなストーブをたく。それでも零下になるのを防ぐ程度である。

むしろ、冬に気を付けないといけないのは急な晴れ間に一気に気温が上がってしまう事だ。うっかりしていると30度を超えてしまう。これは株にとってあまりよくない。大急ぎで入り口を開けて中を冷やしたりする。後になって最高温度を見て、「あちゃー」と後悔する事も珍しくないのだ。

一方で夏はそれほど気温は気にならない。というより、意識的に気にしないようにしていると言うのが正しい。気温がいくら高かろうが、クーラーで冷やす事は不可能だし、ビニールハウスのビニールを剥したところでどうにもならない。温度計を見てもうんざりするだけなのでなるべく見ないようにしている。秋になって最高温度のところを見て、
「45度にもなったんだなぁ・・・」
と感心するぐらいである。(※本当は正しい計り方ではないのだが、夏は日射の角度のために直射日光に近い光が当たるためである)

今まで色々な温度計を使ってきた。デジタルのものも一時使っていたが、過酷なビニールハウスではあっという間に故障してしまった。乾湿計も使ってみた事がある。湿球用の水補給ができるようなこまめさがない私には意味のない温度計であった。この最高最低温度計は既に5年ぐらい使っている。そんなに高いものではなかったのに良く働いてくれている。感謝。

どうでも良い事だけど、最初にこの温度計を買った時、どこが最低で最高か、今の気温はどこを見ればいいのかなかなか覚えられなかった。園芸をする人は結構持っていると思うけど皆さんはどうでしたか?

竹も本望

他の季節に比べると、冬は園芸作業自体は少なくなる。一方で冬にしかできない作業も結構あったりするのだ。

今冬の課題は、育苗ハウスの台直しである。育苗ハウスでは、パイプで組んだ土台の上に割り竹を簀の子のように敷いてその上に苗(正確には苗ケース)を並べている。前回簀の子を作ったのは5年ぐらい前になるだろうか。さすがにところどころ腐ってきてそろそろ寿命も近い。

普通のビニールハウスでは鉄製の簀の子を使う事が多い。耐久性も高いが値段も高い。それに、いざ処分しようとでも言うことになると大変である。実は少し前に、施設園芸をやめたところでこの簀の子をもらえるかも知れないと言う話があった。だが、やはり今の時代の流れ考えると処分費がかからないものの方が後々安心である。そこで今のまま、竹の簀の子で継続する事になった。

竹の簀の子の供給源
竹の簀の子の供給源

前回は裏の竹やぶの所有者から分けていただいて作った。時期は真夏。竹を切るにしても作業をするにしても最悪のタイミング。やぶ蚊の猛襲に耐え、炎天下、竹を切り、割っていくなど狂気の沙汰であった。きっと周りの方も
「だーだねか?(ダラ・馬鹿ではないか)」
と言っていたに違いない。
今でも思い出すとその時の辛さが脳裏に浮かぶ。その時の反省から、この作業は冬に行なう事にしているのだ。

さて、昨年はこの裏山の竹やぶから大量の竹が業者によって切り出された。なんでも広島のカキ筏の材料になるとか。なにもこんなに遠くへ取りにこなくてもと思って尋ねてみると、山陽の竹よりも山陰の竹のほうが寒さに当たっているせいで、ゆっくり成長しており、海に浮かべてからも長期間腐りにくいのだとか。輸送コストをかける意味があるのだなぁと感心した。

先日はテレビだったかラジオだったかで、その廃棄されるカキ筏の竹から竹炭を作る取り組みが紹介されていた。とことんまで使われて、この山の竹も本望だろう。