五月のマドンナ

ここ数年、4月の終わりには咲きはじめていた鉢植えのマドンナリリーが今年は5月半ばになってようやく開花するようになった。毎年一度だけ楽しめる香りはまた格別だ。

マドンナリリー

去年までは4月に夏のような暑さが何度かあったので一気に花を咲かせる体勢になったのだろう。今年は比較的寒かったのか、花茎は伸ばして、蕾までは付けても一向に開花する素振りを見せなかった。このようなことは初めてだったので少し気をもんだのも確かである。

この株、育てはじめてもう7〜8年にはなるだろうか。2年後から開花しはじめて、以来毎年花を楽しんでいる。松江だと、地植えもできないわけではない。しかし、地植えして数年経つと一、二度花は楽しめるのだが、夏に溶けて消えてしまいやすい。よほど風通しと水はけの良い場所を選ぶ必要がありそうだ。

その点、鉢植えなら誠に簡単である。花が終ると花茎ごと剪定してやればよい、休眠期へ移行していき、葉もなくなる。(松江の場合)特に涼しい場所に移すことも無い。他のハーブと同様の扱いである。

一つポイントは、夏、あまり水をやり過ぎないことかも知れない。うちの場合、枯れた鉢かと思って、スタッフが時々水やりを怠るのが丁度よいようだ。そんな状態を心配しつつも秋になるとしっかり新芽が顔を出す。

できれば大きい鉢が良い。株が大きくなってくると8号鉢では開花時にバランスが悪くなる。10号鉢ぐらいの方が水やりの間隔も延ばせるのでそれが良いのかも知れない。重たくて大変だけど。

5月27日追記

福岡県のO様からメッセージとともにマドンナリリーの写真を送っていただきました。二年越しで開花したとのことです。メッセージ本文はこちらに掲載してあります。

福岡県 O様宅のマドンナリリー
福岡県 O様宅のマドンナリリー

やはり鉢植えでの栽培とのことで、夏越しには苦労していらっしゃるようですが、軒下に入れて雨対策などをしながら開花まで育てられた御自慢の一株です。当店の株より元気そうです。きっと香りも素晴らしいことでしょう。

暖地での栽培には少し困難が伴いますが、福岡県でこのように良い状態でお育てなのは見事だと思います。

許可を頂き、掲載させていただきました。有難うございました。

ミセスキングスリーはお年?

先日誕生日を迎え、大台に入った。もうずいぶん長く生きた気がする。なんて言っていると「五十が折り返し」と豪語するスタッフに笑われそうだ。

ニオイゼラニウムが次々と咲き続けている。松江では簡単な防寒で(場所によってはしなくても)冬を越すし、病害虫ともほとんど無縁なので気楽に育てられる。花の時期もいつの間にか咲きはじめてくるという感じである。

アプリコットゼラニウム

今日咲いていたアプリコットゼラニウムは結構好きな花である。花びらの縁の周りが白っぽく、柔らかい感じで、花の姿も可愛らしい。

ミセスキングスリーゼラニウム

一方、ミセスキングスリーゼラニウムは花つきも良く、大きめの花で見事だが、なんとも色がどぎつい。コントラスト強すぎである。今、画面で見ていても目がチカチカしてくる。

目が老化してくると、コントラストが強い色でないと満足しにくくなってくるという。パステルカラーが楽しめるのは目の年齢が若いうちである。店頭でお客様の花の好みを聞くとはっきりわかる。まだ、この花の色がきつく感じられるのは目が若い証拠だろうか。

ゼラニウムに限らず、花には女性の名前が付けられたものが多い。作出した当人の名前だったり、その女性に捧げられて名前が付けられるようだ。ミセス・キングスリーは作出者なのか、作出者の奥様なのか知らないけれど、この色が気に入ったのなら結構お年だったのかも知れない。

グルメでグルマン

圃場の事務机にペットボトルを半分に切ったようなものが置いてあった。何か葉っぱのようなものが入っている。

スタッフに、
「なにこれ?」
と訪ねたところ、
「アゲハの幼虫がついとったから、持って帰ろうと思って」
とのこと。覗いて見ると2匹の幼虫がいた。種類は分からない。昨年も同じように捕まえ、子供さんが通う幼稚園へ持っていって、羽化までさせたという。

アゲハの幼虫

「どれについとったの?」
と聞けば、
「あの、去年もついとったやつ、大きなポリポットの、そこのへんの。」

大事なDictamnus albusだ・・・。
何年も前から育てはじめたのに、こいつらのせいで一向に大きくならない。油断しているこっちも悪いのではあるが、毎年執拗に狙ってくる。そのため、花が咲く素振りさえ見せてもらえない。

ペットボトルの下のほうに大きめな別の葉も入っていた。
「この下の葉は?」
と聞けば
「親木のところにある、背の高い、ミカン科の・・・」
ベルガモットである・・・。
もちろんMonardaでなく、本物のベルガモット。ある方に譲ってもらい、大切に育てている株である。こちらはもう実がなることはあきらめているのだが・・・

Dicatamnusにベルガモット。なんて贅沢な!
こんなグルメでグルマンなやつらにいられたのではかなわない。

幼稚園ではユズの葉を与えられるという。それで充分である。
それとも
「やっぱり日本食はうめーなー」
とか言って食べるのだろうか。

受難の季節

人間同様ハーブたちにも朝、昼、夕、夜とそれぞれの表情がある。中でも朝は清々しい空気と太陽のお出ましを喜んでいるようだ。

先日から咲きはじめたサルビア・カカリフォリアなど、横から差す太陽の光で花色がさらに鮮やかになる。

サルビア・カカリフォリア

また、写真では伝え切れないのだが、花が咲く直前の濃いブルーもハッと驚かされるような色を見せる。

サルビア・カカリフォリア

この種類、コンディションが良ければ切れ目無く咲き、花色も好みなのでお気に入りの一つである。ただ、全体として日当りと風通しを好むとされる普通のサルビア属に比べて、やや強い日差しを嫌う。大きな葉が象徴しているように半日陰のほうがお気に入りのようだ。他の植物の株元などに植えてやると深いグリーンの葉を広げて御機嫌になる。上の写真の葉色はやや乾燥気味に育てた色である。この花の色とあわせて葉色を楽しむのならもう少し日陰気味になる場所に置いてやればよい。

ところがそのような育て方をすると、当然ながら枝が柔らかくなる。花が上がってくるとなおさら枝に負担がかかる。あまり風の強いところは向かない。その上横に大きく広がるので鉢植えだと隣と絡んでたいへんである。そんな鉢を季節にあわせて移動させるほど暇ではないからお気に入りとは言え、他の種類と同様に扱っている。

これから暑くなっていくと葉色はどんどん茶色みを帯びてくる。それでも頑張って花を咲かせ続ける。カカリフォリアにとっては受難の季節である。

育ててみないとわからない

5月に入っても、例年に比べると気温が低いようだ。暑さを感じる日があっても数日後にはまた穏やかになり、非常に過ごしやすい。暑さに弱いハーブたちにとっても楽なようで、見ていても安心できる。

しかし一方でバジルを初めとして暑さ大好きタイプのハーブは成長が芳しくなく、見ていてやきもきさせられる。毎日のように店頭には「バジルはまだですか」とのお問い合わせが入り、焦る一方である。

さて、そのバジル、一番可愛らしいのは本葉が出たばかりの頃。一丁前に大きくなったときと同じ雰囲気のぷっくらとした葉を広げている様子は毎年のように見ていてもやはり微笑ましく映る。

スイートバジル

写真は4月初めのころであるが、このままの姿で徐々に葉数を増やしてゆく。あとは天気次第である。

さて、バジルのように小さな頃から、大きく成長するまであまり姿が変わらないハーブは間違えることも無く、育てるのにも安心だ。しかし、中には「えっ?」と思わせられる種類もある。
スコティッシュブルーベル

上の写真で並んでいる2株はいずれも同じ植物。実生増殖ではない。同じ親株からの株分け、しかも同じ時期のものである。それなのにこの違いよう、初めて見るスタッフも、どちらかは雑草だと思ったぐらいだ。

自分も初めて育てた時には茎が同じ株から伸びているかどうか何度も確かめてしまった。ちなみにこれはスコティッシュブルーベル(Campanula rotundifolia・カンパヌラ・ロツンディフォリア)というワイルドフラワー。イトシャジンという名前でも知られている。

学名では、「丸葉のカンパヌラ」なのだが、丸葉でいるのは株が小さい時だけ。夏に向かい、花が上がる前になると細葉に変わってしまう。どうしてここまで葉の形を変えなければならないのか、不思議なことだ。冬から春にかけては面積の広い葉でしっかり光合成をして、花茎を長く伸ばす頃には、風に吹かれても大丈夫なように葉が細くなるんじゃないかなんて勝手な推測をしているが、本当のところは分からない。

まあ、一度育ててみれば覚えてしまうのだけれど、初めて目にするスタッフには必ず教えておかなければいけないことでもある。学名で判断して「丸葉のはずだ」と引っこ抜かれては大変だ。

あと、お客様へ。何株か注文されて、葉の形が違っていても御心配なさらぬよう。こんな性質なのですから。