次に新調するべきもの

この時期、屋外での作業はタイミングが難しい。

安定しない天気、雨続きで乾かない地面。天気が回復しても、急な他の仕事の割り込みで後回しになることも多い。

秋からずっと伸び伸びになっていた作業が、畑の一角の耕耘。夏まではレモングラスなどを植えていたのだが、少し配置換えをしたくて(連作も良くないしね)、耕しておきたかったのだ。とりかかれば一時間もかからない作業なのに・・・。

鍬と耕耘機

さて、今日は朝から天気にも恵まれ、「今日こそ耕耘するぞ」と他の仕事も片付けた。とはいえ、とりかかることができたのは午後3時過ぎ。

この場所は圃場の端の奥まったところにあり、手前には芝生などもあるため大きな機械を入れるのは難しい。大型の耕耘機ならものの数分で耕せるのだが、いつも一人で持ち上げられる程度の小型の耕運機を使う。

倉庫から耕耘機を出し、エンジン始動。暖気も終わり、さあ、スタート!とスロットルを開ける。勢いよく刃が回り出した途端、すぐ下にあった枯れ草が絡まってエンスト。
「やれやれ」と、枯れ草を取り除いて再度スターターの紐を引く。
「カカコン・・・」
とスターターは回れどもエンジンはかからない。

20回、30回とスターターを引くのだが、エンジンが始動する気配はない。エンジンが温まる前に、自分の体が温まってきた。ジャンパーを脱ぐ。
もともと、中古で譲ってもらってもう10年以上使っている耕耘機。刃もだいぶ磨耗してきたし、そろそろ替え時かもしれない。

それでもと思って、再度確認。燃料OK、刃に絡まった草も取り除いた。だいぶプラグも古いしな・・・と、プラグレンチを持ってきてプラグを調べる。プラグも磨いて再度スターターを引き続ける。風は冷たいのに帽子の中も蒸れてきた。ついに帽子も脱ぐ。
しかし、エンジンが再び動きだす気配はない。

「こんなことしてたら日が暮れてしまう!」
と、耕耘機は放り出して、器具小屋から鍬を取り出す。

鍬を使うのも、久しぶりだ。これぐらいの場所ならそう時間もかからないだろう。

スターターを引きすぎて、自分自身のウォーミングアップは十分だ。鍬を振りかぶり(といっても軽く持ち上げる程度だが)、「ザクッ」と土に突き刺す。柄を軽く向こう側に押し出す感じで土を起こす。いつの間にか体に染み付いた動きだ。リズミカルにひと畝分が終了。汗をかかない程度に、焦らず続ける。

昔はとにかく力任せにスピード勝負という感じで耕していたが、あっという間に大汗をかいてダウンしていた。疲れないよう、ゆっくり、同じリズムで、いつの間にかひと畝が終わっているという感じがベストだということが、ずいぶん経ってからわかるようになった。

鍬をつかって嬉しいのは、作業が静かであること。聞こえるのは、鍬の刃が土に突き刺さる音と、時々聞こえる冬鳥の声だけ。静寂の中でただひたすら耕す作業は、心も耕している時間かもしれない。

これが耕運機だと、うるさいエンジン音の中、ひたすら作業が終わることだけを考えている。それに、大きな音でごまかされている感じでも、実際にはそれほど深く耕されているわけではない。さらに、耕している最中、石や古いラベルなどが出てきても、取り出す間も無くまた土に飲み込まれてしまう。厄介なヨモギやスギナの根が出てきても同様である。鍬ならば、少し手を休めて土を手入れすることも容易だ。耕運機で耕していると、土は耕す対象物という印象だが、鍬で耕していると、土はもっと近い存在に感じられるのだ。

以前、シルバー人材センターに勤めている知り合いから、高齢の方の畑を耕す作業を依頼されることがあるという話を伺った。しかも、耕運機ではなくて、「鍬で」という指定つきで。鍬の方が深く、しっかり耕せるというのが理由だそうだ。そもそもそんな仕事がシルバー人材センターにあるのもびっくりだし、70に近い方!がその作業をしているというのも驚きだ。もちろん時給も良いそうだが・・・。

さて、たまに他の方が使っている鍬を手に取ることがあるが、地域やその方の体格、耕す場所によって千差万別である。手が切れてしまうのではないかと思えるような鋭い刃や、持って、ものすごく重くてびっくりした鍬もある。きっと鍬自体の重さで耕すのが、その場所には適しているのだろう。

今自分が使っている鍬は二本。一本は、親戚が使っていた鍬のお下がり。もう一本はだいぶ前に買ったのだが、柄が折れてしまって、適当な柄をホームセンターで買ってきて直したもの。どちらも、決して今の私の体格や作業にぴったりとは言えない。もっと私の体にあう鍬ならさらに気持ちよく仕事ができるのではないかとときどき思う。

結局30分強で耕耘は完了した。程よく体が温まり、うっすらと汗を掻く程度。おそらく耕耘機で行っても15分から20分はかかるだろう。たぶん、あのまま耕耘機の修理を続けていたらまだ終わらなかったにちがいない。

耕耘機での作業の後残るのは、手のしびれだけ。鍬ならばプラス10分の作業で心地よい疲れと、はるかに大きな満足感。

耕耘機を新調するとなると、10万円近い出費や、燃料や修理にかかる維持費。まして今回のように予測しないトラブルがあると始めるまでにものすごく時間を取られる。作業の後のメンテナンスもバカにならない。新調したとしても、作業が今よりも早く楽になる可能性はほとんど無い。

これが鍬ならば、何分の一かの値段で自分の体にぴったりのものをあつらえることができるだろう。スタートも、倉庫から取り出すだけ。作業後の手入れも最低、水で土を落としておくだけで済む。きっと作業もずいぶんはかどることだろう。さらに「健康のため」なんて要素を入れてしまうと比較のできない価値になりそうだ。

うーむ、次に新調するべきなのは鍬なのかもしれない・・・。