この冬の苗たち(その3)

前回、前々回と、比較的寒さに強いハーブの仲間の今年の様子を紹介してきた。

今回は、主に寒さに弱い種類について。今年、以前に比べ変化が大きかったのは特にこれらの種類だろう。

寒さに弱い種類ほど、寒さへの備えをする力がないのだろう。耐えられるギリギリの寒さまで平気な顔をしているのに、ある一線を越えるとぱたっと枯れてしまったり、葉が真っ黒になってダメになってしまいやすい。もちろん、それ相応の対策はしているのだが、数年前だったか、マイナス9度になった時はそれでもかなりダメージが大きかった。それが今年は鼻歌交じりで冬を越しているような感じだ。

ローズゼラニウム
ローズゼラニウムも縁が少し赤く色づく程度

ローズゼラニウムをはじめ、ニオイゼラニウムのなかまは、冬にはもっと赤くなることが多いが、せいぜい縁取りぐらい、グリーンが綺麗だ。

ジャスミン
ジャスミン。普段とあまり変わらない姿。少しだけ赤っぽく変化

ジャスミンも青々としている。この辺りでは寒さで枯れることはあまりないのだが、葉が真っ赤になったり、場合によっては落葉するのがいつもの年。

サルビア・ディスコロール
サルビア・ディスコロールの新芽も傷んでいない

サルビア・ディスコロールも秋から冬に花が咲くくせに、寒さでぱたっと枯れやすい種類の一つ。今年は秋終わりのような姿で冬を越している。

ホワイトヘリオトロープ
ホワイトヘリオトロープの苗は花を咲かせていた

ヘリオトロープも葉がかなり残って、一部の株は、花まで咲かせて甘い香りを放っていた。

ヘリオトロープ
油断していて被害にあったヘリオトロープ

とはいえ、先日の雪の日、最低気温がマイナス4度まで下がったが、あまり防寒を強くしていない所に置いてあった株はこのとき茶色くなってしまった。この後黒くなってしまうのだろう。

また、もともと寒さに強い種類でも、例年よりものびのびと育っているものも結構ある。

フィバーフュー
青々としたフィバーフュー

キク科のフィバーフューなどは普段の年はもっと縮こまっているのだが、今年は青々。カモミールの仲間やジョチュウギクも同様である。

ローマンカモミール
ローマンカモミールもいつもの年よりも葉を広げている
イタリアンパセリ
昨年の大きな葉は落ちてしまったが、元気なイタリアンパセリ

涼しいのが好きなセリ科の仲間は当然元気。イタリアンパセリもまだ葉を残しているし、コリアンダーも少し葉は赤くなったが大きなダメージはない様子。

コリアンダー
コリアンダー

ディルも普段の年は茎も葉も赤っぽくというか、グレーがかったブラウンのような色になるのだが、今年はまだグリーンが残っている。

苗ではないのだが、この冬例年と大きく違ったことの一つが、店頭の軒下にある鉢植えのナスタチウム。普段の年ならば夏越しした株が秋半ばから咲き出して、クリスマスぐらいまでカラフルな花を楽しませてくれる。そしてクリスマス頃に寒さで溶けるようになくなってしまうのだが、今年は依然として咲き続けている。

ナスタチウム
鉢植えで気をつけていたとはいえ、この時期まで花を咲かせているナスタチウム

もちろん、先日の雪の時には店内に入れたので大きなダメージはなく、また外に出している。このまま強い風や霜に当てなければ春まで持つのでは・・・。という感じだ。案外気を抜いた春先にダメにしてしまうという可能性も強いのだが。

差がつく気温

今日は風は冷たいものの、午前中は日差しに恵まれて、ビニールハウスの中ではサイドを開けていてもすこし動くと汗ばむほどだ。なんとなく春の気配がうかがえる感じだ。

今朝も天気がよかったが、氷点下にまではならず。2月9日朝に記録したマイナス9度は、この冬の最低になりそうだ。

後日調べてみたら、気象台でマイナス7度を記録していた。このあたりはやはりすこし気温が低い。

すこし気になって理科年表を開いてみたら、1940年からの統計で、松江市ではマイナス8.7度が最低記録のようだ。記録日は1977年の2月9日。

この場所でハーブを育てるようになって10年以上になるが、おそらくこれほど下がったことはないように思う。

ハーブたちにも辛い寒さだったようで、いままで見れないような姿も見せている。

特にジャスミン大輪ジャスミンは明らかな違いを見せた。

ジャスミンに比べて、大輪ジャスミンは寒さに弱いとされるのだが、ここで育てている以上では、いままでの冬は全く違いが見られなかった。葉の状態を見ても、すこし赤みが強くなっているかなという程度の差。

ところが今年は目に見えて違いが現れた。

ジャスミン
ジャスミン

普通のジャスミンの方は、葉が黄色くなったのだが、隣にあった大輪ジャスミンのほうは茶色く変色して、ずいぶんしおれてしまった。

大輪ジャスミン
大輪ジャスミン

より寒さに弱いジャスミン・フィオナサンライズは葉が傷んで落葉することはあるのだが、大輪ジャスミンがこのような風になったのは初めて見た。

おかげで、やはり耐寒性に差があるということがよくわかった。おそらく葉は落ちてしまうだろうが、株は大丈夫だろう。春には新芽が出てくるに違いない。

これでもいちおうビニールハウスの中である。加温はしていなかったにせよ、外だったら危なかったかもしれない。

寒さの被害はあとでじわじわと表面化してくる。まだこれから他の被害が見えてくることは覚悟しておかねば。

黒い果実

地植えしているものはともかく、鉢植えや苗で育てているハーブは花が終ると早めに剪定するように心がけている。

花の後、種子を採って増やす種類はごく限られているし、種子を付けさせて株に無駄なエネルギーを使わせないためである。特に挿し木に使う親株などは花芽の時点でカットしたり、開花後なるべく早く剪定する事が多い。

ヤスミヌム・ムルティパルティツム

ところが中には剪定を忘れるものもある。そんなヤスミヌム・ムルティパルティツムの一株に黒い実が付いていた。確か初めのころは緑色だったように思うがそのころの姿は写真に撮るのを忘れていた。いつの間に熟したのだろう、冬の陽を受け黒光りする姿はなかなか印象的である。寒さの中、少しでも太陽の光を吸収しようとしているようにもみえる。

この後どうなるのかまだしばらく放っておいてみようと思う。

来なかった夏

まだ暑さは残るものの、朝夕は涼しく、午前中も早いうちはとても作業がしやすくなってきた。結局今年は冷水のシャワーを浴びることなく秋を迎えることになりそうだ。

毎年、梅雨が上がり、強烈な日差しが肌を焼くようになると、冷たいシャワーの方がが気持ち良く感じるようになる。その日を持って、「夏の到来」ということにしているのだ。

ということは、今年は私に夏は到来しなかったと言うことになる。

圃場でも毎年掛ける寒冷紗も出番が来ることなく9月になってしまった。例年なら寒冷紗を掛けても葉焼けでチリチリになるような種類も今年は御機嫌だ。

新芽の縁が茶色く焼けてしまうパイナップルミントやしなしなになりがちな斑入りのラングウォートなども比較的元気。また、ゴールデン葉のものも今年は楽な夏だった感じがする。

ジャスミン・フィオナサンライズ

ジャスミン・フィオナサンライズもそのひとつ。柔らかく、しっとりした葉を広げて秋の空気を喜んでいるかのようだ。去年は暑さで斑点状に焼けてしまった葉が痛々しかったのに。

でも、私も含め、油断していると来年しっぺ返しが来るかも知れない。ゆめゆめ油断せぬように。